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『SAWAYAMA』Rina Sawayama(Album Review)

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Billboard JAPAN

 1990年に日本の新潟県で生まれ、4歳の時に英ロンドンへ移住。高校はノース・ロンドンにある日本人学校へ通い、名門ケンブリッジ大学を卒業……という、どこに出しても恥ずかしくない経歴をもつRina Sawayama(リナ・サワヤマ)。しかし、学生時代は人種差別によるいじめに苦しんだそうで、決して順風満帆ではなかったそう。そういった経験がアーティストを志すキッカケに繋がったというから、彼女のキャリアにおいては必要な経験だった、と言えなくもないが。  大学卒業後に音楽活動を本格始動させ、2013年にシングル「Sleeping in Waking」でデビュー。2017年にはシャミールとのコラボレーション「Tunnel Vision」含む初EP『Rina』をリリースし、フェーダー誌の<2017年知っておくべきアーティスト>に選出される等大きな注目を集めた。  ファッション誌VOGUEやアディダス、ヴェルサーチといった大型ブランドのキャンペーンに起用される等、モデルとしても活躍。当時、生計はそれらモデル業で立てていたという。日本ではファッション・ビルLUCUA osakaのキャンペーン・モデルやディーゼルのファッション・ショーに出演し、知名度を高めた。昨年6月には『情熱大陸』に出演し、11月には<VOGUE JAPAN Women of the Year 2019>を受賞。日本でも幅広い活躍をみせる中、同11月に本作『SAWAYAMA』からの1stシングル「STFU!」をリリースした。  同曲は、The 1975等が所属する英インディーズ・レーベル<Dirty Hit>契約後初のシングルで、新しいスタートに相応しい超強力なメタル・ロックに仕上がっている。このハードなトラックに乗せて歌うのは、前述にもある人種差別による怒りと解放。卑劣で稚拙なレイシストに対して、時にシャウトで、時にクールに叩きのめす。話題を呼んだミュージック・ビデオでは、和食を下品に食す白人男を用い、心の叫びをホラー・ムービーさながらのパフォーマンスで表現した。同じ日本人として、聴き終えた後清々しい爽快感に浸れるだろう。  今年1月に発表した2ndシングル「Comme Des Garçons (Like the Boys)」は、昨今ブームを巻き起こしているニュー・ディスコ風のダンス・トラック。本人曰く、2000年代初期の音を再現したとのことだが、80年代のニューウェイブやエレクトロニカっぽくも聴こえる。トロイ・シヴァンなどの作品で知られるブラム・インスコアをプロデューサーに迎えた意欲作で、「ゲイの方たちが持つ自信」について歌った曲だそう。概要は異なるが、この曲も差別を払拭するべく内容といえるだろう。ブラジルのドラァグ・クイーン=パブロ・ヴィタールを迎えたリミックスも、ハウス色を強めた傑作。  2000年代初期の音といえば、3rdシングルの「XS」こそだ。しかも、ブリトニー・スピアーからエヴァネッセンス、リンキン・パークまで、当時活躍した幅広いアーティストのエッセンスを取り込んでいる。同じハード・ロックでも「STFU!」と印象が異なるのは、ジャスティン・ティンバーレイクの「Like I Love You」(2002年)や、N.E.R.Dの『イン・サーチ・オブ』(2001年)あたりに影響を受けたというR&B~ヒップホップのテイストが感じられるから、か。フィーメール・ラッパーが歌いそうな金や物欲について歌われているが、そういった“消費主義者”に向けた冷ややかな視線の二面性をもつ曲。テレビ・ショッピングを起用したMVも、リゾの「Juice」っぽくて良かった。  4曲目のシングル「Chosen Family」は、LGBTQ+に向けた本人にとっての“特別な”曲。「疎外感を感じているなら受け入れてくれる家族を見つけるべき」という、自身の経験を基に綴ったメッセージ、そして彼らに対しての敬意と感謝を、美しいバラードに乗せて優しく歌っている。疎遠になってしまった友人に対しての謝罪や後悔が込められている「Bad Friend」も、繊細な声質で歌ったミディアム・バラード。後半に登場するゴスペル風のコーラスが、感傷的な気持ちをうまく編み込んだ。  本作には、彼女の原点ともいえる<東京>をテーマにした曲がいくつか収録されている。5曲目の「Akasaka Sad」は、タイトルの通り赤坂にあるホテルで書いたというマイナー調のダーク・ポップで、異国で暮らす日本人としての悲歎みたいなことが歌われている。11曲目の「Tokyo Love Hotel」は、いわゆる“勘違い外国人”について歌われた曲で、日本から帰ってきた自国民の戯言を嘆き、あらためて日本のすばらしさを訴えてくれている。日本盤ボーナス・トラックには、英詞と日本語を交えた「Tokyo Takeover」も収録された。新宿ゴールデン街や下北セニョリータ、なんて歌詞も出てきて面白い。  その他、本作の中では比較時ライトな印象のスピード感あるエレクトロ・ポップ「Paradisin」や、彼女が影響を受けたという宇多田ヒカルあたりのJ-POPにも通ずる「Love Me 4 Me」等、我々日本人の耳にも馴染みやすい楽曲が満載。トータル・プロデュースはEP『Rina』も担当したクラレンス・クラリティ。ソングライターには、ブリトニー・スピアーズの『サーカス』(2009年)等を手掛けたニコール・モリエや、女性シンガーソングライターのローレン・アキリーナもクレジットされている。  本作について、「アルバムを聴いた人が新しい体験だったと感じ、それが次のステップに繋がるよう願っている」と話しているリナ・サワヤマ。そういったコンセプト含め、彼女がどういった思考で曲を作り、どういった人生を歩み、どういった人と携わり、どういったビジョンをもってシンガーになったか、自分自身を知ってもらうためにも、有意義なデビュー作に仕上がったのではないだろうか。 Text: 本家 一成

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