考察『光る君へ』28話「いつも、いつも」と笑い合うのは、道隆(井浦新)在りし日々、華やかな思い出…清少納言は『枕草子』で定子の尊厳を守った
まさか口に出してないよね?
道長が倒れたことをまひろに告げる宣孝、妻の心痛を思って自分も胸を痛めている様を見ると、世渡り上手でお調子者なところはあるし、他に妻も妾もいるし、先々週は年下妻であるまひろと思いっきり痴話喧嘩を繰り広げたが、いい人だなと……。 まひろの涙と「逝かないで」という思いが、魂の奥底で結ばれている道長に届き、覚醒! よかったね! よかったけど、まさか「まひろ」って現実で口に出してないよね? 目覚めた瞬間に「明子でございます」と夫に呼びかけた明子、それを実際に耳にしてないよね? のちのち明子から倫子に「まひろとは、どなたのことにございますか?」と訊ねる展開ありませんよね……そして道長、みんな心から心配してたんだから「こっちが現実か、まひろはいないのか」という顔するのヤメロ。
いつも、いつも
皇后・定子、3人目を懐妊……体調が芳しくなさそうな定子に「青ざし」というお菓子を差し上げる清少納言(ファーストサマーウイカ)。ああ、『枕草子』「三条の宮におはします頃」だ……と胸がいっぱいになる。 みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける (世の人が皆、花だの蝶だのと他の美しいものに慌ただしく駆け回る日でも、あなただけは私の心をわかってくれるのですね) 定子に心からの忠誠を誓っている清少納言にとって、お前だけはわかってくれるという言葉はどんなに嬉しかったことだろう。 「いつも、いつも」で楽しそうに笑いあう主従。これも『枕草子』にその背景がある。定子の父、道隆(井浦新)が元気だった頃の思い出話だ。 潮の満ついつもの浦のいつもいつも君をば深く思ふはやわが (私はいつもいつも、あなたのことを深く思っております) この歌を元にして定子と清少納言が楽しく会話を交わした……定子の周りが一番華やかだった、そのときのことを思い出しているのだろう、 あの時も今も、私たちは共にいる。 そして……『枕草子』における定子の姿は、これが最後だ。政に翻弄され、苦しみ、嘆き悲しんだであろう人生は書き記されていない。21回で述べたように、指先まで美しい、聡明で教養深くユーモアを解する魅力的な后としての彼女しか、そこにはいない。 清少納言は『枕草子』で定子の尊厳を守った。 媄子内親王を産み、そのまま亡くなった皇后・定子。 几帳に結び付けられていた歌が悲しい。 夜もすがら契りしことを忘れずば恋ひむ涙の色ぞゆかしき (一晩中愛しあったことを忘れずにいてくださるなら、私を思いあなたは泣いてくださるでしょう。その涙の色を知りたいのです) 死は穢れとされたこの時代。穢れから最も遠い存在であらねばならない天皇は、どれほど愛していても妻のもとに駆けつけることは許されない。死に顔を見て別れを告げることすらできない。 一条帝にできるのはただ、涙を流すのみ。 定子が鳥辺野に葬られたその日は、雪が降っていたという。定子の遺志により、火葬ではなく土葬となった。『栄花物語』は葬送の日の帝の思いと歌を伝える。一晩中定子を思い、涙で濡れた袖が凍るのもやるせなく、火葬ならば煙だけでもこの内裏から見送れるのに、土葬ではどうしたものだろう……と、 野辺までに心はひとつ通へども我がみゆきとは知らずやあるらむ (葬送の地まで心だけは通ってゆくのだけれど、私がそこにいるのだと……この思いが雪となり積もったのだと、葬られたあなたは気づかないだろう) ※みゆき/天皇が内裏の外に出る行幸(みゆき)と、深雪(みゆき)をかけている この歌を詠んだ。 ドラマの中で、この女性ならば帝に心から愛され、清少納言に忠誠を捧げられるだろうと納得できる定子を演じきった高畑充希に心からの拍手を贈りたい。素晴らしかった! 次週予告。道長の長男・田鶴君(三浦綺羅)、覚えた舞を披露する機会があったのだね? おっ父上(為時/岸谷五朗)帰ってきてる。そして早速まひろになにか怒られている。百舌彦(本多力)、ご指南役って。誰が誰になんのご指南?「敦康(定子の息子)を中宮・彰子に託そう」亡き皇后の子の養母……重いね! 伊周、がっつり呪詛しちゃう。「これを宮中にお広めいただきたく存じます」『枕草子』の頒布ですか!? まひろ、ついに物語を書く。紫式部にまた一歩近づいた! 29話も楽しみですね。 ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、吉田羊、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************