「中小企業は大企業に搾取されている」という説は、本当か
成長戦略会議が、中小企業の規模拡大を支援していくという実行計画の方針を固めた。日本では50年以上、小さな会社が潰れないように補助金などで支える「中小企業保護政策」が続いてきたが、買収や合併で会社の規模を大きくしていく事業者を応援する政策へと大きく方向転換していくというのだ。 えっ、たったの5%? 下請けの数と割合の推移 と聞くと、脊髄反射で「会社は大きくなればいいというものではない!」「小さくて世界に誇る技術があるのが日本の中小企業の強みだ!」とかみつきたくなる人もいらっしゃるだろうが、目下、日本社会の課題になっている「生産性向上」は、技術や根性で成し遂げられるようなものではなく、労働者1人が生み出す付加価値を上げていくことなので、「賃金」が大きな影響を及ぼすことが分かっている。 一般的に、社長1人で社員3人みたいな零細企業より、社員50人の中規模企業のほうが仕事の幅が広がって売り上げも上がるので、社員に払える賃金が高くなる。これが零細企業よりも中規模企業、中規模企業よりも大企業の生産性が高くなっている本質的な理由だ。 そのような意味では、今回の中小企業のM&Aを促すような支援策は、日本社会の生産性向上につながっていく喜ばしい話ではあるが、これっぽっちの支援ではまったく物足りないとおっしゃる人たちもかなりいる。どんなに中小企業の規模を大きくしたところで、下請けとして大企業に搾取される不平等な構造を変えないことには、生産性など上がるわけがないというのだ。 なぜそんな考え方になるのかというと、このような主張をされる方は総じて、「日本の中小企業の生産性は低いどころかむしろ高い」と考えているからだ。社員数名の零細企業でも、実は大企業に負けないほど高い生産性がある。ただ、下請けという弱い立場で値下げやオーバーワークを強いられているので、「たまたま生産性が低いように見えるだけ」というのだ。
日本人に刷り込まれた「常識」
「日本の中小企業は世界一ィィィ!」というイデオロギーめいたものも感じないわけではないが、そう思いたくなる方たちのお気持ちは分からんでもない。日本中が胸を熱くした「下町ロケット」に代表される池井戸潤作品では、「技術力のある中小企業、搾取する大企業」という構図がよく登場する。小さな会社は勤勉で誠実、大きな会社は強欲で卑怯というのは、戦後の日本人に刷り込まれた「常識」と言ってもいいのだ。 ただ、そういう先入観を一旦ちょっと脇に置いて、中小企業をめぐるデータを見ると、「中小企業の生産性が低いのは大企業が搾取している」という主張がかなりビミョーになってくる。もっとストレートに言ってしまうと、「実情はちょっと違うんじゃないの?」と感じてしまうのだ。 日本に419万社以上ある中小企業を対象に行った調査「中小企業白書2020年版」の中には、「受託事業者の現状」という項がある。下請法に基づく受託取引のある事業者を広義の下請事業者と捉え、その現状を分析したものだ。要するに、中小企業の中に「下請け」がどれだけあるのかを調べたものだが、そこに衝撃的な数字がある。 なんと、中小企業の中で下請事業者は「5%」程度しかいないというのだ。 ちなみに、この割合は直近5年間ほとんど変わっていない。「中小企業=大企業の下請け」というパブリックイメージが社会に定着して久しいが、実は池井戸作品に登場するような中小企業はわずか5%のみで、残りの95%は「大企業搾取」と無縁の存在だったのである。 日本の中小企業の生産性が著しく低いのは、各種調査で浮かび上がった厳然とした事実であり、政府も認めている。そして、日本の中小企業の中で、大企業の下請けになっているのは5%というのも、公的なデータに基づく事実だ。