【詳細データテスト】マクラーレンGT 融通の効くパワートレイン 鋭いハンドリング 遮音性が最大の弱点
はじめに
今週テストするマクラーレンGTの発売は2019年10月のことだ。ウォーキング本社の面々にとっては、それから長い時間が経ったと思えるに違いない。 【写真】マクラーレンGTとライバル (14枚) 債権者との法廷闘争から本社売却まで、資金調達のためにマクラーレンは思い切った手を打つ必要に迫られ続けてきた。それというのも、昨年は新型コロナ禍での生産停止にとどまらず、マクラーレングループ全体でビジネスの多くが滞ったからだ。 新たなカテゴリーのモデルを投入したときは、これまでと違う役割を果たしてくれることを想像しただろう。今となっては、そのころの拡大志向を思い出すのも難しいはずだ。 そうはいっても、思い出せることはある。マクラーレンの量産モデルの歴史は短いが、その中でこのクルマは、もっとも実用的で、空力的もっとも優れ、ある意味でもっとも革新的なモデルだという触れ込みで登場したのである。それが本当かどうかは、今回のロードテストではっきりするはずだ。 このクルマのデザインコンセプトは、200万ポンド(約2.8億円)の限定車であるスピードテールほど強烈に自由な発想ではない。それでも、アルティメットシリーズに着想を得て、その影響を受けているとマクラーレンは説明する。 基本的なことをいえば、カーボンファイバーのタブとV8ツインターボを擁するミドシップで、その点では現在のマクラーレン各社と共通する。しかし、720Sや600LT、セナといったモデルとは狙いも優先事項も異なるクルマだ。主な構成要素は同じだが、その組み合わせは大きく違っている。 もちろん、マクラーレンがGTカーをラインナップするのはこれがはじめてというわけではない。それだけに、GTを名乗るだけの大きな差を提示できているのか、また、その点でほかのモデルより優秀なところを示せるのか、そのあたりを検証していこう。
意匠と技術 ★★★★★★★☆☆☆
軽量で剛性の高いカーボンファイバーのタブに過給V8をリアミドシップマウントするというレイアウトは、ほとんどの高級車メーカーが最新GTカーを製作するのとは異なる出発点だ。 その場合、どのようなことが起きるだろうか。運動性のアドバンテージはいかほどか。また、速く快適で長距離走行に向いた高級ドライバーズカーとして、アストン・マーティンやベントレー、メルセデスAMGといったライバルと比べ、どれほどの違いを示せるだろうか。 それらの検証は後に回すとしよう。まずいえるのは、この出発点が手持ちの技術を活用する以上は必然の結果だったということだ。 モノセルと呼ばれるカーボンシャシーと、アルミ部材を用いたダブルウィッシュボーンサスペンションは、いずれもスポーツシリーズから流用している。4.0Lエンジンと電動油圧パワーステアリングは、720Sで使用しているものがベースだ。とはいえ、いかに多くのコンポーネンツが他モデルとの共用品か知れば、驚きを禁じ得ないかもしれない。 マクラーレンの現行モデルにおいて、GTの全長は最大だ。4683mmという寸法は、720Sを140mmも上回る。ホイールベースは720Sや570Sより5mm長く、オーバーハングも長く取られている。 その狙いは、ほかのシリーズ以上の空力効率を達成することがひとつだが、よりエレガントで、アグレッシブさを抑えたルックスを描くことにもある。 エンジンはコードネームM840TEこと、4.0LツインターボV8のバリエーションだ。720Sより圧縮比を8%高め、小型化してイナーシャを減らし、レスポンスを高めたターボチャージャーを装着する。 そのため、ピーク値は620psと64.3kg-mに抑えられたが、最大トルクの95%をたったの3000rpmから引き出せる。そのアウトプットは、7速DCTとオープンデフを介し後輪へ伝送される。 スプリングはコイルで、ダブルバルブのアダプティブダンパーとスタンダードなスタビライザーを組み合わせる。サスペンションの制御ソフトは720Sと同じものだが、四輪リンク油圧システムは搭載されない。 ほかのモデルに比べスプリングは長くソフトで、最低地上高もより余裕を多く持たせている。オプションのノーズリフターを用いれば、サルーンと大差ない130mmまで引き上げることができ、市街地に多い段差などにも楽に対応できる。 この穏やかなスプリングレートで事足りるのは、現在の高級GTとしてはかなり軽い車両重量ゆえだとマクラーレンでは説明している。公称値は1530kg、テスト車は満タンでも1580kgにすぎなかった。 ライバルたちをみてみると、ポルシェ911ターボSは60kg重い。しかし、フェラーリ・ローマは軽量化オプションを組み込むと1600kgを切るので、軽さが強みだというマクラーレンの主張には疑問が残る。