「夜がどれほど暗くても」岡田結実インタビュー 「撮影前半は毎日泣きのシーンがあって、『私この現場で笑う日が来るのかな?』と思うくらいでした(笑)」
11月22日(日)より、WOWOWプライムにてスタートする「連続ドラマW 夜がどれほど暗くても」。中山七里の同名小説をドラマ化した本作は、週刊誌の世界で生きてきたジャーナリスト・志賀倫成(上川隆也)がある殺人事件の“当事者”となり、「追う」立場から「追われる」立場となりながら真実に迫っていく姿を描いた報道サスペンスだ。 【写真を見る】奈々美(岡田結実)は両親の殺人事件にまつわる記事を目にしてしまい… 今回、本作でキーパーソンとなる星野奈々美を演じる岡田結実にインタビューを敢行。「殺人事件の被害者遺族」という役どころを形作り、演じていくことについての苦労や、シリアスな展開が続く本作を演じる中で感じたこと、主演の上川隆也ら共演者とのエピソードなど、さまざまな視点から語ってもらった。 ――今回「夜がどれほど暗くても」出演のお話を最初に伺った際の感想はいかがでしたか。 岡田結実:「え、何で私に?」というのが最初の気持ちでした(笑)。これまでサスペンスなどのシリアスな役よりも、どちらかと言うとポップで明るい役が多かったですし、「演技経験も少ない私がこんなすごい役をやっていいのかな?」という思いもあって、ドッキリなんじゃないかとずっと思っていました(笑)。顔合わせの時に(集まったキャストの皆さんを見て)「本当なんだな」と認識しました。 ――本作への出演が発表された際のコメントで、「ドラマ初出演が中山七里先生の作品だった」と仰っていましたが、改めて今回中山先生の作品に出演したことについてはいかがですか。 岡田:私が初めてドラマに出演させていただいた「静おばあちゃんにおまかせ」(2018年、テレビ朝日系)では、演技が初めてなのに主演をやらせていただいたんです。でも、とても素敵な作品なのに私の演技では全然うまく表現できていなかったので、めちゃくちゃ悔しくて。 撮影が終わった時も「私これじゃダメだな」と思って、「もしこの先も私が演技を続けていて、いつかリベンジできる日が来たら、絶対にこの思いを忘れずに全部をぶつけよう」とずっと思っていたんです。 なので、こんなにも早くもう一度(中山先生の作品に)出させていただけることになってめちゃくちゃうれしかったです。「次は中山先生に自信を持って『やりきれました』と言えるような作品をお見せできるように頑張りたい」と思っていましたし、今回こうしてリベンジの機会を頂けたので、日々自分を削ってでも頑張ろうという気持ちでやっていました。 ■「奈々美の芯の強さには、撮影中ずっと救われていました」 ――今回演じる「星野奈々美」という役柄はどういったキャラクターでしょうか。また、役柄に対する印象についてもお聞かせください。 岡田:奈々美が出てくるシーンは最初から悲しいシーンが多くて(笑)。役作りをする時は、そうした悲しい部分だけを見て作るのではなくて、奈々美の(両親との)楽しかった思い出とか、そういう部分を意識して作っていった方がしっかりと(奈々美が)形作られていくのかなと思って考えていきました。 クランクインするまで毎日奈々美のことを考えていたんですが、奈々美はとても芯の強い女の子なんだなとすごく感じていて。私が今まで演じてきたような女の子たちとはタイプの異なる芯の強さで、それは心を強く持たなきゃ生きていけないくらいの覚悟というか、彼女の「生きていくぞ」という思いを演じる中でも感じました。 むしろ私が奈々美を作り上げていく中で、奈々美の芯の強さに助けられているような部分もあって。作品に入るまでは「キツいな~」と思っていたんですが、誰よりも生と死を意識して、それでも生きていくしかないと決めた奈々美の思いにずっと救われていて。この作品は、奈々美じゃなかったら途中で「無理だ~」となっていたかもしれないくらい大変だったので、奈々美の「芯の強さ」は特に推したいポイントです。 ――本作のシビアな展開に飲み込まれずにいられたのは、奈々美の強い気持ちがあったからなんですね。 岡田:そうですね。3~4話を担当してくださった谷口正晃監督が、打ち合わせの時に「これを見てみると、役作りの参考になるかも」と「シークレット・サンシャイン」(2008年)という作品を貸してくださって。また、1~2話を担当された橋本一監督も、「実際に殺人事件に巻き込まれた被害者家族の手記を読んだら参考になるかも」と教えてくださったんです。 そういったものに触れていたら、いい意味でなおさら追い込まれてしまって(笑)。今までに無いくらい頭の中が「ウワァ~!」って感じになっていたんですけど、そこで見たものをちゃんと演技にぶつけられたのは奈々美のおかげですし、それを受け止めてくださった上川さん演じる志賀のおかげでもあって。中山先生が書かれた物語というのもあって、作品に関わる全てに助けられたという感覚がすごくありました。 ■「『夜がどれほど暗くても、生きていかなきゃいけないんだな』とすごく思いました」 ――これまで演じてこられたような役柄とは真逆と言ってもいいキャラクターで、今のお話の中でも精神的に辛い部分があったということでしたが、奈々美を演じる上で難しさを感じる部分はありましたか。 岡田:やっぱり「泣き」のシーンですね。二つ前に出演した作品でも、泣きのシーンが結構多かったんです。1作品で3~4回は泣いていたんですけど、その時は「うれし泣き」もあれば「悔し泣き」もあって、感情のバリエーションがたくさんある泣きのシーンだったんです。 でも、今回は全部「苦しい」とか「悲しい」っていう複雑な感情の泣きが多くて。撮影の前半戦は現場に行けば必ず泣きのシーンがあって、しかもただ「泣く」のではなくて「泣き叫ぶ」まである状態だったので、そこは大変でした。「私この現場で笑う日が来るのかな?」と思うくらいでした(笑)。 ポップな役柄も難しさはあったんですが、シリアスな作品は本当に繊細に作らなきゃいけないんだなというのを改めて実感しました。泣く演技って自分の中で苦手意識はなかったんですけど、この作品に携わる中で「泣く」という中にもたくさんの種類があって、たくさんの感情が生まれるんだなと思ったら、「やっぱり演技って楽しいな」と思いました。 ――台本を拝見させていただいたのですが、奈々美や志賀の置かれた境遇を思うと読み進めることがちょっと辛くなってしまうような部分もありました。岡田さん自身は台本をお読みになって、作品全体に対しての印象はいかがでしたか。 岡田:最初1~3話の台本をまとめて頂いたんですが、「夜がどれほど暗くても」というタイトルが「どういう意味なんだろう」と思って。そこから物語を読み進めていく中で、キャラクターごとに信念や、絶対に曲げられないものを感じたし、奈々美も志賀とはまた違った、「暗闇の中にいても絶対に光を追いかけたい」みたいな意志が作品全体からすごく伝わってくるんです。 奈々美を演じている中で「夜がどれほど暗くても」ってタイトルを思い出した時に、私は「夜がどれほど暗くても、生きていかなきゃいけないんだな」とすごく思いました。一方で、志賀の立場を考えたら「信じる者は報われる」という言葉をすごく感じましたし、登場人物それぞれが抱えている問題や闇もこのタイトルにすべて当てはまるものなんだなと思って。 それがさらに視聴者の皆さんに届く時に、たぶん人それぞれ出す答えは違うと思うんです。私は奈々美を演じていて「生きていかなきゃいけないんだな」っていう答えにたどり着きましたが、他のキャストの皆さんだったら絶対違う答えが見つかると思うんです。 なので、見ている方一人一人に、いい意味で届くメッセージが違う作品だなと感じていて。こんなに見る人によって受け取り方が違う作品ってすごいなと、台本を頂いた時からすごく思っていました。 ――「夜がどれほど暗くても」の後に続く言葉が何なのか、それが人によって異なる作品だと。 岡田:誰に感情移入するかによっても違ってくると思うんです。私は奈々美を演じていたので奈々美に感情移入していて、暗闇の中でもがいていたけれど、志賀とか警察の長澤(原田泰造)とか、当てるポイントが違うと受け取り方も違うし、逆に「誰にも感情移入できなかった」という人もいると思うんです。 そういうざっくりとした作品のメッセージ性を感じるというのも、それはそれである種の答えだと思いますし、その方が作品を通して見つけたものなんだろうなと思って。見てくださる方にどういう風に届くのかすごく楽しみです。 ■「上川さんの包容力に一瞬で包まれて、気付いたら泣いていました」 ――今回上川隆也さん演じる志賀とは、「被害者遺族」と「加害者遺族」というある種敵対せざるを得ない立場でありながら深く関わっていくことになります。上川さんとのシーンは感情を爆発させる場面も多かったかと思いますが、共演されていていかがでしょうか。 岡田:奈々美にとって志賀はずっと拒絶するというか、殺したいくらい憎くて、何をしてもムカつく相手なんです。演技をしていても最初の方はそういった感情が芽生えてくるんですけど、私の演じる奈々美が(感情を)ぶつけるたびに、それを受け流すことなくしっかりと受け止めて、自分も傷を負いながら奈々美を抱きしめてくださる志賀にめちゃくちゃ救われたというか。 奈々美は、本当は志賀に思いをぶつけたいわけではなくて、このどうしようもない思いを誰かに受け止めてほしいだけなんだと演じていて思いましたし、志賀を前にして奈々美の弱い部分がポロッと出てしまう場面などは、「これからの演技人生でこういうシーンがまたやって来るのかな」って思うくらい、すごく大切にしたいシーンでした。 今まで演技をする中では、「ここはこう演じよう」とか「こういう感情の流れで行こう」とかプランを立てて現場に入っていたんですが、この作品で志賀を演じる上川さんと演技をしていると、いい意味でプランが崩れたというか。 ある時何も考えずにただひたすら気持ちをぶつけることに集中できたシーンがあって、今までだったら終わった後に「今のシーン良かったのかな?」とか考えていたんですけど、そんなことも考えられないくらい集中できたシーンがいくつかあって。 普通の役者さんだったらそれが全部じゃないといけないところだと思うんですけど、でもそのシーンがいくつかあったからこそ、奈々美とすごくリンクすることができて。今までやっていた演技の中に新しい概念のようなものが生まれて、本当に新鮮というか、初めて演技した感覚にまた引き戻されたというか、本当に楽しさしかなかったです。 ――志賀とのシーン以外では、奈々美は感情を押し込めていることが多かったと思いますし、だからこそお二人でのシーンでそれが一気に爆発するような部分もあったのではと思いますが…。 岡田:奈々美にとって志賀は憎らしくて関わりたくない存在だけど、誰にも言えないこの思いを受け止めてくれるのも、自分と関わろうとしてくれる志賀しかいないんですよね。だから(言葉でも身体的にも)傷つけてしまうけど、心の奥の方で奈々美はずっと「助けてほしい」という気持ちがあったと思うんです。 演技している中でも、奈々美のそうした「苦しい」「助けてほしい」という声をすごく感じていて。それに耳を傾けていると、「上川さんが絶対に受け止めてくれる」という安心感も生まれてきました。 後半の弱音を見せるシーンでは、泣きのシーンなのにリハーサルまで全然泣けない時があったんですけど、本番では上川さんの包容力に一瞬で包まれて、「気付いたら泣いていた」という感じでした。なので、本当に相手役が上川さんで良かったな~と何回も思いました。 ■「グーサインしながらウインクしてくれた泰造さんを見て『うわっ、カッコいい!』って(笑)」 ――奈々美は原田泰造さん演じる刑事・長澤にサポートされるシーンが多くあります。岡田さんにとっても泰造さんはバラエティーで何度も共演されている分、他の役者さんよりも心理的な距離が近いのではと思ったのですが、ドラマの現場でお会いする泰造さんはいかがでしたか。 岡田:バラエティーの泰造さんもすごく優しいっていう印象なんですけど、今回のドラマでお会いした泰造さんは、(この作品で演じた)長澤が刑事さんの中でも奈々美に感情移入して、すごくケアしてくださる役どころだったこともあって、長澤の優しさがすごく伝わってきました。 でも、奈々美としては早く犯人を捕まえてほしいのに全然捕まえてくれない警察に対するいら立ちから、途中長澤のそうした優しさすらも信用できないという思いも(演技の上では)あるんです。そうした心理描写にも注目してほしいです。 クランクイン初日から泣き叫ぶシーンがあったんですけど、私自身、初日だったので奈々美(の役柄)がちゃんと出来上がっているのかまだわからないから不安があって。そんな時、本番前に泰造さんが「大丈夫? 緊張してる?」って声をかけてくださったんです。 そのシーンでは何回かテイクを重ねていく中で「あ、今やりきったな」と思えるような、(自分の中で考えていた)奈々美が出せた瞬間があったんですけど、そうしたらシーンが終わった後に泰造さんが「めっちゃ良かったよ」ってグーサイン(=サムズアップ)をしながらウインクしてくださったんです。それを見て「うわっ、カッコいい!」と思って(笑)。 (その時は)奈々美の心境だったのに、奈々美も自分もキュンと来ちゃって(笑)。それを見て「めっちゃ救われた!」と思いました。(奈々美にとっての)長澤もそうですけど、「泰造さんがいてくれて良かった~」って心から思いました。 ――奈々美と周囲の大人との関係性は、岡田さんとも少し近いのかもしれませんね。 岡田:そうですね。その時は特に「あ~、一人じゃなかった~」って思いました(笑)。泰造さんは私の泣き崩れるシーンを見た後、表情に寄ったワンショットの撮影だったんですけど、無言の雰囲気で「後は任せて」というようなメッセージを伝えてくださって。 泰造さんもそうですし、他のキャストやスタッフの皆さんも、泣きのシーンだけでなく全編にわたってすごく丁寧に作り上げてくださったので、本当に素敵な現場というか。奈々美としては「自分は一人きりだ」っていう感情もあるけど、私はいろんな方にすごく支えられているなと思いました。 ■「作品を通して、皆さんに『言葉って刃物なんだよ』と実感していただきたいです」 ――本作では、事件の被害者、加害者家族に対する週刊誌やメディアの報道のあり方や、SNS時代特有の「ネットリンチ」的な描写も生々しく描かれていきますが、そうした描写について、台本をお読みになったり演じられたりした中で感じたことはありましたか。 岡田:この作品を読んだ時に、現実とすごくリンクしているなと思ったんです。殺人事件の被害者遺族の手記を見ても、自分の大切な人が殺されただけじゃなくて、報道でありもしないことを書かれて、「自分たちは家族を殺された側なのに、いかにも家族や本人が悪いかのような書かれ方をしてすごく苦しい」っていうことが書かれていて。 ドラマの中でも、被害者なのにいかにも「殺されて当然」という論調の報道をされるシーンや、長澤がマスコミに怒るシーン、事件前はスクープを追う側だった志賀が「撮られる側」になった時の心理状況などが描かれていくんですが、「何で被害者がさらに傷付けられなきゃいけない世の中にあるんだろう」ということを、すごく自分も考えていました。 あと、SNSの問題で心を痛めて亡くなられた方のニュースが、クランクイン前にもすごく流れていて。SNSは便利なものだけど、それ故にある孤独みたいなことも撮影中考えていました。「SNSって楽しいことばかりじゃなくて気をつけなきゃいけないこともあるんだよ」っていうのも、この作品が伝えたいメッセージとして一番に来るんじゃないかなって思うので。 この作品を見てくださった方が、少しでも「言葉って刃物なんだよ」っていうのを改めて実感していただきたいですし、「あなたが明日には忘れる言葉であっても、言われた側はずっと傷付けられ続けることもあるんだよ」っていうのは、私も作品を読んでいてすごく感じました。 メディアのあり方もこれからもっと変わっていってもらいたいですし、私もメディアに出る側として、偏った知識や偏った目線で物事を見ちゃいけないなと改めて思いました。この作品はすごくSNSやメディアのことについても書いているから、そこを少しでも感じ取っていただけたらというのはありますね。 ■「他人事ではなく『向き合うこと』って大事なんだなと感じさせられました」 ――テレビやメディアに出演される方々にとっては、反論しづらい形で憶測のような内容が拡散されてしまうこともありますし、そうした報道のあり方は本当に変わっていってほしいですね。 岡田:志賀は週刊誌の副編集長ですけど、自分が雑誌を売るために書かせた記事が実は誰かを傷付けているんだっていうことに次第に気付いていって、記者や雑誌のあり方に向き合っていった一人だと思うんです。 なので、そういう風に向き合うことって大事なんだなと思いましたし、だからこそ志賀は奈々美に対しても逃げずに向き合ったんだなと。SNSに限らず、周りにいる人でも、元気なように見せかけて、何かを抱えている人って実はたくさんいるんだなっていうのも最近考えていて。 この作品と志賀というキャラクターを通して、他人事じゃなく「向き合うこと」って大事なんだなって感じたので、私も誰にも見せない苦悩を抱えているかもしれない人を、表層的に見て「元気だね」って思うんじゃなくて、ちゃんと受け止められる志賀のような人になりたいなと、演じていてすごく思いました。 ――自分の見えている範囲が世の中のすべてでは無いですからね。 岡田:この作品のすごいところって、SNSもそうだし、メディアのあり方もそうだし、被害者遺族だけでなく加害者遺族の苦しみまでも描かれていて、いろんなメッセージがたくさん詰まっていると思うんです。いい意味で、一回見ただけではたくさんあるメッセージを全部吸収できない作品なんじゃないかと。 なので、年齢を重ねても、自分の気持ちが明るい時でも暗い時でも、何回もこの作品を見ていただきたいなと思いますし、そうしたらいろんな人の目線で物語を見ることができて、受け取るメッセージも変わっていくと思うので。それがこの作品の強みでもあるのかなと思いました。