【ハリウッド アノ人のホントの顔】ダニエル・ラドクリフ
洋画系映画ライターの第一人者であり、ハリウッドスターや監督への取材経験が豊富な渡辺麻紀さん。そんな渡辺さんが、取材中やその裏側で“見た”“聞いた”さまざまなエピソードはまさにお宝の山。毎回ひとりターゲットを決めながら、その人物が最新作について語ったことから、過去の言動や知られざる素顔まで、アレコレ聞き出します。(ぴあアプリ「海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔」より転載) 【全ての画像】ダニエル・ラドクリフと恋人の画像も ――今回はハリー・ポッターことダニエル・ラドクリフくんです。彼が主演したアクション『ガンズ・アキンボ』が公開されますね。 渡辺 タイトルは“二丁拳銃”という意味のようです。サエない人生真っ盛りのゲームのプログラマーが、ネットでヘンな書き込みをしたせいで、殺し合いを中継して大人気の闇サイトに目をつけられ、気がついたら両手に銃を固定されてしまい、強制的に殺し合いに参加させられる、というBな香り漂うアクションです。 ラドクリフくんは、そんなトンでもない目に遭う主人公を演じています。 ――ラドクリフくん、『ハリー・ポッター』を卒業以来、ホラーをはじめとしたインディペンデントな映画ばかりに出演している印象ですよね。 渡辺 好んで選んでいるのか、それともそういう映画のオファーばかりなのか、そのへんはよく分かりませんけどね。もしかして“ハリー・ポッター”のイメージを払拭したくて、最初は真逆の映画を選んでいたら、そっちで定着してしまったのかもしれないし。大人気の子役から大人の役者になるのは難しいんですよ、やっぱり。 ハーマイオニーのエマ・ワトソンンもディズニー映画のプリンセスなどを演じて順風満帆のようでしたが、『若草物語』(『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(19))のときは地味な長女役に甘んじている印象でした。彼女もこれからが難しいように思います。 一番、上手くいっているのはロン役のルパート・グリントだったりして。 AppleTVの『サーバント』など、脇でいい味を出していますから。彼は脇でもOKなところが、かえっていいのかもですよね。 ――ダニエルくんのインタビューは『ハリー・ポッター』のときですよね? 渡辺 最初の『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)から最後の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11)までです。最初は本当にかわいいお子ちゃまでしたが、最後は胸毛も立派な青年。映画の中、撮影スタジオの中で大人に成長するという、稀な経験をした人ですよね。 1作目のときのダニーくんは1989年生まれだから12歳。撮影中は10歳くらいだったんでしょうね。ハリーを卒業したときはもう22歳ですよ。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(07)から最後までシリーズの監督を務めたデヴィッド・イェーツは、「ダニーのキスシーンの撮影を見ながら、涙ぐんでいるスタッフがいて驚いた。ダニーはそうやって、みんなに見守られながら大人になったんだなってね」と言っていました。 ――ダニエルくんはどんなお子様だったんですか? 渡辺 かわいらしかった。本当にハリーそのものという感じですよね。ハリーを演じて人生が大きく変わっちゃったね?と尋ねると、「みんなそう思っているみたいだけど、ほとんど変わってないよ。たまに街を歩いていて声をかけられるくらい。そういうときはみんな“映画、大好きだった”と言ってくれるので、僕も嬉しいしクールだよ。普通の男の子と同じで、友達と集まり、ピザパーティを開いてグタグタしているのが何たって楽しい」って笑ってました。 この頃は、役者としての心構えや夢とかはなかったみたいで、そういう気持ちが芽生えたのは『ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』(04)からみたいです。 「アルフォンソ(・キュアロン)との仕事が本当に楽しかった。悲しむシーンでは“君がこれまでもっとも悲しかったのはどんなことだった? それを頭に浮かべながら演じてみて”と言われてそうやったら、本当に自然に涙が出てきたんだ」 こういう話を聞くと、その前の2作ではどうしてたんだと思うじゃないですか? クリス・コロンバスの演出は、他のインタビューによると「このシーンでは口元をこれくらい上げてみよう」というように、内面からじゃなく表面的な表情を作らせようとしていたみたいですよ。こういう演出なら、役者の演技が堅くなるのは当然だし、やっている方も楽しくないですよね。 ちなみにコロンバスが監督に抜擢されたのは、『ホームアローン』(90)などで子役の扱いに慣れていたからみたいですけど。 ――でも、『ホームアローン』の子役、マコーレー・カルキンは後に大変なことになりましたよね。 渡辺 そういうことについても、ダニエルくんはこう言っていました。 「おそらく、ハリウッドでは、僕たちのような子役をスターとして扱うんじゃないのかな? その点『ハリー・ポッター』の現場で僕たちはみんな、子供として扱われるんだ。だから、わがままを言おうものなら“そういうことはダメに決まっているでしょ!”とぴしゃりと言われる。それがいいんだと思うよ」と、冷静に分析していました。 ――その分析力が大人ですね(笑)。 渡辺 やっぱり精神的な成長は早いのかもしれませんよね。シリーズ2作目の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(02)のときは、「今パンクバンドにハマっているんだ。よく聴くのはセックス・ピストルズ、ダムド、ザ・クラッシュとかね。パンクに関しては音楽はもちろん、社会に対する態度なども気に入っている」と言っていました。こういう発言って、13歳なら普通なんですか? ――どうなんでしょう? やっぱり早熟に聞こえますけどね。 渡辺 しかもこのとき、最近読んで面白かった作家として『ファイト・クラブ』の原作者チャック・パラニュークを挙げていたんです。黒縁眼鏡の真面目そうなルックスとは裏腹に、やっぱりパンクな男子なのかなと。 『アズガバンの囚人』のとき、英国映画界が誇るバッドボーイであり、『シド&ナンシー』(86)ではセックス・ピストルズのシド・ビシャスを演じていたゲイリー・オールドマンと共演できてすごく喜んでいましたしね。 そうやって考えると、『ハリー・ポッター』卒業後、『スイス・アーミーマン』(16)や、今回のパンクなアクション映画に出演しているのも何となく分かる気がします。