マーティのイメージを決定づけた、レンガ色のダウンベスト
主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)のイメージを決定付けたのは、レンガ色のダウンベストに違いない。彼はパッチワークのデニムブルゾンの上からダウンベストを重ね着しているが、いかにも80年代風ではないか。 【関連記事】異国ムードを漂わせる、『燃えよドラゴン』のカンフージャケット 2009年の英国のガーディアン紙のインタビューで「(駐車場での撮影が)本当に寒くて、そうじゃなかったらベストは着ていません」とマイケルは当時を振り返った。 『バック・トゥ・ザ・フューチャー完全大図鑑』(スペースシャワーネットワーク)によれば、ロサンゼルスから40キロ西に位置する町、シティオブインダストリーのモールでこのシーンが撮影されたのが1月。アメリカ西海岸とはいえ、冬のロサンゼルスは意外に寒い。もし夏に撮影されていたら、マーティのこのダウンベストは映画に登場しなかったかもしれない。 映画の前半で1955年にタイムスリップしたダウンベスト姿のマーティだが、町に入ると誰もが彼のスタイルをいぶかしみ、ダイナーの主人から「どうした坊や、船が難破でもしたのか。それ救命胴衣ってもんだ」と勘違いされる。
そもそも中綿に羽毛を使ったダウンジャケットがアメリカで商品化されたのは1930年代のこと。アメリカのバックパッキングブームとともに、ダウンジャケットはアウトドアで着用されるようになった。 1970年代後半には日本でも、アメリカ西海岸を中心としたアウトドアスタイルが「ヘビーデューティー」という名前で脚光を浴び、最新のトレンドアイテムとしてダウンベストなどを町で着こなす人も見られようになった。 マーティが着たレンガ色のダウンベストはクラスファイブ(class-5)というブランドのもので、1971年にアメリカ・カリフォルニアのバークレーで誕生したアウトドアブランドだ。もともとザ・ノース・フェイスに在籍していたJustus Bauschingerが立ち上げたブランドで、『ヘビーデューティーの本』(ヤマケイ文庫)にはダウン製品以外にもバックやテントまでつくる本格的なアウトドアメーカーだと書かれている。 一時ブランドはクローズするが、幸いなことに再開。いまでも当時のアウトドアスタイルを彷彿させ、さらに機能を現代的にアップデートさせたアイテムをリリースしている。嬉しいことにマーティ愛用のダウンベストも発表されている。マーティになり切るには絶対にこのダウンベストを手に入れるしかない。
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳