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外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(15)日米地位協定の死角 在沖米軍に見る感染拡大の実態

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J-CASTニュース

 従業員以外、地元住民はフェンスの中に立ち入ることができない。だがフェンスの内側にいる人々は、自由に出入りができる。日米地位協定でできたそんな死角を衝いて、コロナ禍が地元住民を脅かしている。在沖米軍で拡大するコロナ禍の実態と、その背景を探る。 ■ 奇妙な「第一報」  それは、奇妙な「第一報」だった。  在沖海兵隊が、基地の外にある民間ホテルを借り切って、転勤に伴って入国した兵士らの2週間の隔離施設として使用していることが、2020年7月10日に判明した、というニュースだ。  これでは、部外者には何を意味しているのか、まったくわからないだろう。実際、ニュースの扱いに迷ったのか、朝日新聞東京版では11日付朝刊第3社会面に、「ジャクソン元投手を逮捕」など9本の短信記事に畳み込む形で収録していた。  それによれば、6月30日夕に米軍から沖縄県を通じてキャンプ・ハンセンなどがある北谷町に、「7月から人事異動者を対象に、町内のホテルを滞在場所として使用する」との連絡があった、という。その後、県が防衛省沖縄防衛局や外務省沖縄事務所に照会し、「基地内で収容しきれないための措置で、ホテル利用者は原則外出禁止。従業員が接触しないよう配慮している」などの説明があったが、人数については回答が得られなかった、という。  この「判じ絵」のようなニュースを読み解くカギは二つある。一つは、米国は日本政府による入国拒否の対象国だが、米兵は日米地位協定で、拒否の対象になっていないということだ。もう一つは、米軍については地元が直接、米軍に問い合わせをしても、なかなか答えてもらず、防衛省や外務省の出先機関を通して聞く方が早い、ということだ。この二点については、後で詳しく触れたい。

 米軍感染拡大の経過をみると

 では、それ以前に何が起き、その後感染はどう拡大したのか。地元紙「琉球新報」の記事(電子版)から経過をたどってみたい。  琉球新報が、在沖米軍の初感染確認を伝えたのは7月2日だった。  それによると、在沖米海兵隊は2日、キャンプ・マクトリアス(うるま市)に駐留する海兵隊員の家族1人が感染したと発表した。海兵隊は在沖部隊では初の陽性事例だとしている。米国に旅行して感染したとみられる。この感染者と家族は沖縄に戻った6月18日から行動を制限され、7月1日に陽性が確認され、その時点で隔離されている。  ところが8日になって、にわかに普天間飛行場(宜野湾市)が注目を集めることになった。  県は8日、米軍に問い合わせ、普天間飛行場に住む米軍属が新型コロナに感染し、感染者が5人のクラスターになった可能性があることを知って開会中の県議会で明かした。県によると一部または全員が隔離措置後に発症し、自由に移動できる状態で、基地の外に出た可能性もある。感染者が所属する組織では100人以上の検査を行っているという。この件について玉城デニー知事は、「県外から入ってくる軍人や軍属の状況について、私たちに情報が一切ないことが問題だ」と述べた。  沖縄県は9日、10日の2日連続で北部の米軍キャンプ・ハンセンで新型コロナウイルスに感染したと発表したが、米軍側の要請に応じて感染人数を非公表とした。  また、全駐労沖縄地区本部によると、米軍基地内で循環バスの運転手として働く40代男性が10日、38度の熱が出て中部保健所管轄内の病院でPCR検査を受けた。  玉城知事はこの日の会見で、7月4日の米国の独立記念日やその前後に、米軍関係者が基地外の繁華街やビーチパーティーにいたとして、そのような場にいた人で、体調不良を感じる人は速やかにコールセンターなどに相談するよう呼び掛けた。  だが10日になって、冒頭にあげた米軍による北谷町のホテル借り上げが問題になり、情報公開に消極的な米側の姿勢に、くすぶる火種が一気に燃え盛った。  北谷町の野国昌春町長は「(隔離施設としての町内ホテル使用は)町を挙げての反対運動ものだと思った」と強調し、事前連絡もなく、一方的に隔離施設を決めた米軍の姿勢に怒りをあらわにした。  こうした中で琉球新報などは11日、複数の関係者の話として、在沖米軍でその日までに「60人超の感染を確認、うち38人は普天間飛行場」と報道し、県民に衝撃を与えた。  また同紙は、「6月と7月に県内中部で大規模なバーべキューパーティーが開かれ、米軍関係者や日本人も参加し、イベントに参加していた米軍関係者らが隔離されているとの情報もある」と伝えた。  県民世論に背を押された玉城知事は、夜になってステーシー・クラーティー在沖四軍調整官と電話で会見し、感染者数の公開について了承を得た。その結果、感染者は普天間飛行場が38人、キャンプ・ハンセンが23人の計61人で、11日に45人が確認されていたことが判明した。  この夜記者会見をした玉城知事は、格子柄のマスクをつけたまま厳しい口調で「米軍の感染対策に疑念を抱かざるを得ない」と述べ、軍の公衆衛生当局者と県の実務者会議の場を設け、速やかに情報を提供することや、当面の二つの基地の閉鎖などを訴えた。米軍は感染者の属性や行動履歴などの情報を県に伝えず、感染者数についても、軍の運用に影響を与えるとして詳細を非公表にする米国防総省の方針に沿って、県に報告はしても非公表にするよう要求していた。県も「公表すれば、米軍から情報が得られなくなる」として要請に応じていたが、これ以上世論を抑えることができなくなっていた。  県がその後に発表した会談概要によると、北谷町のホテルでの隔離について、クラーディー四軍調整官は、「基地内の収容能力が限界を超えており、この取り組みは続けたい」と答えた。また、感染者数の公表については、「私に人数を公表する権限はない」としたうえで、「県が公表することは妨げない。たとえ公表したとしても報告は続けたい」と述べ、県による公表を容認する考えを示したという。  こうした動きについては、基地を抱える市町村から「全米兵の検査を」という声が上がり、「GoToキャンペーン」実施を控えた観光業界や経済界からも、批判や懸念の声が相次いだ。  県ホテル協会の平良朝敬会長は「情報がないと、対策を打ちようがない」として米軍の情報公開の対応を疑問視した。そのうえで、玉城知事に対し「『観光に来るな』とは言うべきではない。県が米側から情報を取って公開することがまず必要だ。手腕が問われている」と指摘した。  県商工会連合会の米須義明会長は「これだけ一気に広がるのは管理がされていない証拠だ。(感染対策などの)状況が把握できず、不安だけがあおられる」と語り、米軍の感染症対策を疑問視した。  その懸念を裏付けるように、県は13日午後、普天間飛行場で新たに32人の感染が確認された、と発表した。12日には浦添市にある牧湊補給地区でも1人が確認され、在沖米海兵隊関係者の感染は7日以降で計94人になった。県によると、7日の普天間飛行場の感染については、基地外で買い物をしていたなどの行動履歴の情報があった。しかしそれ以降、感染者数と所属基地以外の情報は、ほとんど県に入っていなかった。県は独自に情報を集め、4日の独立記念日前後に感染者が立ち寄った北谷町のバーやクラブなどの関係者や客に呼びかけ、12日には130人にPCR検査を行った。  それでも感染拡大には歯止めがかからない。  沖縄県は15日、キャンプ・ハンセンで新たに36人の感染を確認したと発表した。米軍関係の感染者数は累計で計136人になった。  県と米軍病院などが同日午後に初めて情報共有の協議を行った。県が米側から受けた説明によると、感染者のほとんどが軽症と無症状者で、基地内で隔離している。米軍は感染拡大を防ぐため、無症状の人にも積極的にPCR検査を実施しているという。  米軍が県に提供した情報によると、基地の外で県民と接触した可能性のある米軍関係感染者は3人程度追加され、少なくとも23人程度になった。県の糸数公保健衛生統括監は、米軍関係者と接触した県民の検査を急ぐ考えを示した。  県は普天間飛行場とキャンプ・ハンセンの感染者に「部隊間の移動があった」と説明してきた。玉城知事は「われわれの印象からすると、2週間留め置かれておくべき間に、普天間とハンセンのメンバーがユニット(部隊)として動いて訓練した結果、両基地で感染が広がったのだろう」との考えを示した。  嘉手納基地は7月に感染が判明した2人のうち、1人は同基地の軍家族住宅事務所に勤める隊員だと明らかにした。  米軍関係の感染者の内訳はハンセンで58人、普天間飛行場で71人、嘉手納基地で5人、牧港補給地区(キャンプ・キンザー)が1人、キャンプ・マクトリアスで1人となっている。

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