市川猿之助、バラエティから呼ばれなくなることを危惧! ?
――昨年のドラマ『半沢直樹』の反響がすごかったですね。インパクト抜群でしたけど、あれは…。 ノリかな、その場の。あとは監督の指示もあります。でも、あれから各局いろんな番組であのセリフを言ってくれと頼まれますから、単純だなぁとは思っています (笑) 。そんなこと言ったらバラエティに呼んでいただけなくなるのかな。 ――バラエティ番組に出るの、お好きなんですか? 好きですよ。MCのみなさんは、第一線で活躍されている方ばかりで、人としても素敵な方が多いし。それに、進行の仕方を拝見しているとやはりすごいです。 ――毎回同じことを求められて、もういいよとはならないですか? それでバラエティに呼んでいただいているわけですからね。そこで失うものは何もないし、ギャラもいただいていますし。これでタダだったら出てませんよ (笑) 。あくまで僕らはサービス業ですから。 ――サービス業、ですか? だってそうでしょう。歌舞伎だって、お金を払って観に来てくれる方がいるから成り立つわけで、欲しいものがあるから買いに来るのとなんら変わりはないですよ。 ――でも歌舞伎の場合、エンターテインメントである一方、伝統芸能として伝承の役割もあります。 もちろんそれもあるでしょうね。先人が伝えてきて今あるものだから、伝えられる限り伝えていかなければとは思っています。それは歌舞伎役者としての最低限の義務ですね。人から預かったもので自分のものじゃないんだから、ちゃんと後世に渡していかないとね。 ――猿之助さんは、古典歌舞伎にも精力的に出演する一方で、スーパー歌舞伎や図夢 (ずぅむ) 歌舞伎のような新しい歌舞伎にも挑戦されています。それはご自身のなかで同じベクトルにあるものなのでしょうか。 会社にいろんな部署があるようなものです。会社って、ひとつの事業を進めるために、宣伝部だったり営業部だったり、いろんな部がありますよね。それと同じです。ただ、宣伝部だからといって宣伝のことだけ知っていればいいわけじゃなく、会社全体のことや他の部署のことも把握してないといけない。全体を見て、いま自分が何をすべきかが見えていないとね。 ――歌舞伎についてあまり詳しくない読者に向けて、古典歌舞伎と新しい歌舞伎、それぞれが担う役割を教えていただけますか? わからないんだったら自分で調べる方が早いって思っちゃうけどね (笑) 。だって、今は興味があればすぐ調べられる時代なんだから。 ――『半沢直樹』で猿之助さんのことを気になった方が、歌舞伎を観に行ってみたいと思った時に、何か参考になるものがあると…。 そうね。古典っていうのは伝承。そして、我々歌舞伎役者の基礎となるものです。そしてスーパー歌舞伎なんかは、それの応用…開発担当って感じかな。 ――昨年、歌舞伎座が数か月興行をお休みした後、再開してからは、ほぼ毎月のように古典作品に出演されていますね。 今は古典しかできないからね。製作費もないし、時間制限も人数制限もあるなかで、新作歌舞伎は無理ですから。新作をやるための稽古期間も取れないし。 ――ちょうどドラマの露出とタイミングが同じだったこともあっていろんな番組に出演されていましたし、歌舞伎の広告塔的な意識もあるのかなと…。 バラエティは出たくて出てるだけだから、僕は宣伝をさせてもらわなくてもいいんだけれど、そこにはいろいろ大人の事情があるらしく (笑) 。 ――何か歌舞伎に対して危機感を感じていらっしゃるのかなと。 つねに危機感はありますよ。安泰だと思わない方がいい。それは何だって同じで、危機感のない会社なんてダメでしょ。ただ、だからって歌舞伎を救おうと思ってテレビに出てるわけじゃない。そんなのテレビに対して失礼ですし。 ――その危機感というのは、歌舞伎の世界に入ろうと思った時から持たれていたんでしょうか。 安泰なものなんてないですよ。“ここにいれば安泰”なんて考えでいるとダメになるんだと思います。この世の中、すべてにおいて。 いちかわ・えんのすけ 東京都出身。歌舞伎俳優の家に生まれ、1983年に二代目市川亀治郎を襲名。歌舞伎の舞台のほか、現代劇やテレビドラマでも活躍。2012年に四代目市川猿之助襲名後は、スーパー歌舞伎II (セカンド) と称した新作歌舞伎も発表。とくに’15年に手掛けたスーパー歌舞伎II『ワンピース』は大きな話題となった。 スーツ¥150,000 (YOSHIDAYA/YOSHIDAYA BESPOKE TAILOR TEL:03-6273-1295) その他はスタイリスト私物 市川猿之助さんが出演する舞台、PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』は、3月7日 (日) まで渋谷・PARCO劇場にて上演中。盲目で醜い上に性根の曲がった杉の市 (猿之助) 。欲望にまみれ悪知恵の働く彼は、謀略と殺人を繰り返しながら、検校への道を成り上がってゆく。共演は、三宅健、松雪泰子、川平慈英ほか。演出は杉原邦生さんが務める。 ※『anan』2021年2月17日号より。写真・岩澤高雄 (The VOICE) スタイリスト・三島和也 (Tatanca) ヘア&メイク・白石義人 (ima.) インタビュー、文・望月リサ (by anan編集部)