尹政権が対北局地戦けしかけたか 北朝鮮の疑心と無視は続く
【ソウル=桜井紀雄】韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が軍を動員した「非常戒厳」宣布を巡り、尹政権が事前に北朝鮮へ無人機を飛ばすなどして軍事的緊張をあおり、戒厳の名分をつくり出そうとしていた疑いが指摘されている。14日の尹氏の弾劾訴追で今後、北朝鮮に融和的な革新系最大野党「共に民主党」が存在感を増すことになるが、北朝鮮は韓国を「第1の敵対国」とする2国家論を掲げ、韓国を無視する路線を続けるとみられる。 北朝鮮は10月、韓国軍が数回にわたって無人機を平壌上空に侵入させたと主張した。物証として韓国から飛来し墜落したとする無人機の写真も公開。再び領空侵犯すれば、軍事的報復も辞さない姿勢を誇示してきた。 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記はこれに先立ち、北朝鮮への「圧倒的対応」や「北朝鮮政権の終末」を演説などで強調する尹氏に対し、「まともな人間でないのではないか」と強調。韓国から暗殺を仕掛けられる事態に備えて自身の警護レベルも引き上げたとされる。 今月3日の戒厳宣布を受け、韓国野党は、平壌への無人機飛行は金竜顕(ヨンヒョン)前国防相の指示によるものだったと主張した。金前国防相は、北朝鮮がごみをくくり付けた風船を韓国へ大量散布しているのに対抗し、風船を飛ばす地点をピンポイント攻撃することも提案したと、韓国メディアが報じた。戒厳が必要となる軍事的緊張をつくり出そうとした疑いだ。軍は認めていないが、今後の捜査の焦点の一つとなりそうだ。 金正恩氏は昨年末以降、南北統一政策の放棄や南北2国家論を唱え、韓国との対話を完全に閉ざす政策を維持している。韓国の対北敵視は右派政権でも左派政権でも「変わらない」とも主張した。文在寅(ムンジェイン)前政権時代に南北対話や米朝首脳会談に応じたものの、決裂した苦い経験が背景にあるようだ。北朝鮮は軍事的協力を深めるロシアとの関係を優先させ、韓国との対話拒否は当面、継続させると予想される。