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野村監督の「仕事流儀」一度だけマネージャーを怒鳴りつけた日

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 2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。15年間近くマネージャーを務めた小島一貴さんが、野村さんの “仕事流儀” について、知られざるエピソードを明かす。           *  一度だけ、監督に大声で怒鳴られたことがある。しかも多くの人々の面前で--。  試合の解説ではないラジオ出演は、どちらかといえば珍しかった。内容的には問題なかったが、収録の時間帯が気になった。午前11時からだという。  監督は朝に弱い。「ナイター中心の生活を、現役時代から監督時代、解説者時代も続けていたから、寝るのも起きるのも遅い」というのが監督の説明だ。夜は2~3時ごろに寝て、正午ごろに起きるのが通常、なのだそうだ。  当然ながら、事前に沙知代夫人に相談した。時間を変更できないなら本件は断わらざるを得ないかも、と思っていたが、沙知代夫人は「スケジュールは空いてるから大丈夫よ」と。  午前中の仕事なので難しいのではないでしょうか、と私が食い下がっても、大丈夫だと言う。こうなっては、私も夫人にお任せするしかないと思い、ラジオ局にも了承の旨を連絡した。  さて当日、ラジオ局の前で監督をお出迎えして、ひと目でわかった。明らかに不機嫌だ。車を降りるや否や、「なんでこんな時間の仕事を入れたんや!」と一喝された。前日まで何も聞いておらず、当日になって叩き起こされたのだそうだ。睡眠不足も相まって、この日の剣幕はすさまじかった。  ラジオ局のフロアに入って椅子に座っても、怒りは静まらない。ディレクターが内容を説明しようとするが、取りつく島もない。文字どおり口角泡を飛ばして、「こっちは寝てないんだよ!」と怒鳴っている。 「だから、まず俺に連絡しろって言ってるだろうが! やるのは奥さんじゃない、俺なんだよ! このバカ!」  怒鳴られることは、やや理不尽な気もしたが、監督の立場になればわからなくもない。沙知代夫人におまかせ、といえば聞こえはいいが、要は丸投げだったのだ。こちらの怠慢である。せめて前日、監督に直接電話しておくべきだったろう。  この事件以降は、早い時間帯の仕事があるときは、前日に監督に連絡するようにし、監督もちゃんとそれに合わせて早寝をしてくれた。  この様子を見て、いちばん顔を青くしていたのは、以前から連絡を取り合っていたディレクターだった。監督にコーヒーとお菓子を出して、離れたところで耳打ちしてくる。「大丈夫ですかね? 今日は仕事になりますかね?」と、オロオロしていた。  根拠はなかったが、それまでの経験を踏まえてこう返した。 今まで現場に来て仕事をしなかったことはありません、最後は必ずやってくれます、と。しかし誰がどう見ても、「今日は怒って帰っちゃうだろうな」という雰囲気だったと思う。  小一時間くらいそんな状態が続いただろうか。ひとしきり怒鳴り散らしたせいか、監督の怒りは次第に収まってきた。そしてついに、「じゃあ、やろうか」とぽつり。収録では、怒りの様子などみじんも見せず、いつもどおり監督の語り口は饒舌だった。その様子は、まさしくプロフェッショナルだった--。  沙知代夫人は、テレビに出ているそのままのキャラクターだと、しばしば評される。私もよく怒鳴られたし、何回怒られたか数えきれない。しかし、監督に怒鳴られたのはこのときだけである。  気がつけば私も、人から怒鳴られることがめっきり少なくなっていた。人から真剣に「バカ!」と言われたのも久しぶりだった。もうお2人とも、私を怒鳴ってくれないと思うと、一抹の寂しさを覚える。

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