欧州諸国、シリア人亡命希望者の受付を一時停止 政変で先行き不透明に
シリアのバッシャール・アル・アサド政権の崩壊を受け、イギリスなど多数の欧州諸国が、シリア人亡命希望者の受付手続きを停止している。 オーストリアの暫定政府は、シリア人からの亡命申請受付を全て停止したと発表。シリア国内の状況が根本的に変わったとして、シリア人亡命希望者を本国に送還または国外退去にする計画を立てているという。 約100万人ものシリア人が居住するドイツや、イギリス、フランス、ギリシャは、当面の間、亡命申請に関する決定を停止するとしている。 アサド政権は50年にわたる残忍な支配の末、反政府勢力の進攻を受けて崩壊した。このため何万人ものシリア人が、先行きが不透明な状態に置かれる可能性が出てきた。 国連によると、2011年以降、1400万人以上のシリア人が家を追われている。 移民問題で強硬姿勢をとるオーストリアの保守派、カール・ネハンマー首相は、「現在オーストリアに避難していて、母国への帰還を望むすべてのシリア人を(オーストリア)政府は支援する」とソーシャルメディアに投稿した。 また、「将来的な強制送還を再び可能にするには、シリアの治安状況の再評価が必要だ」と付け加えた。 オーストリア内務省は声明で、「シリアの政治状況はここ数日で根本的に、そして何よりも、急速に変化した」とした。 オーストリアには現在、約9万5000人のシリア人が暮らしている。その多くは、2015年と2016年の移民危機の際にやって来た。そうした移民への反発から、オーストリア国内では極右や保守派への支持が加速してきた。 ドイツの連邦移民・難民庁は、シリア人亡命希望者の保留中の申請をすべて一時停止した。政府関係者は、シリアの政治情勢が非常に不透明なため、シリアが安全かどうか適切な判断を下すのは不可能だとしている。 ドイツでは現在、4万7270人のシリア人が亡命申請の結果を待っている。他方、すでに亡命が認められている人々への影響はないという。 ドイツには中東以外で最も多くのシリア人が集まっている。現在は約100万人のシリア人が暮らしており、うち約70万人は難民に分類される。 イギリスではイヴェット・クーパー内相が、「内務省が(シリアの)現在の状況を見直し、監視している間、(イギリスは)シリアからの亡命希望者に関する決定を一時停止している」ことを認めた。 シリアの状況は「アサド政権崩壊後、極めて速いスピードで動いている」とし、すでにシリアに戻っている人たちもいると内相は付け加えた。 イギリスでは2011年から2021年の間に、3万人以上のシリア人の亡命が認められた。その大半は人道的計画に基づいて、トルコやレバノンなどからイギリスに再定住した。 2019年時点では約4万7000人のシリア人がイギリス国内で暮らしているとされていたが、その後は3万人程度まで減少したと考えられている。 ロイター通信によると、フランスもドイツと同様の対応を取りまとめており、間もなく決定される見通し。 こうした中、隣国レバノンとヨルダンに亡命していた大勢のシリア人が故郷に戻りつつある。ただ、レバノン国境では、シリアへ向かう人と、シリアを出国する人の両方の動きが確認されている。 現地で取材するBBC特派員によると、レバノンに入国しようとするシリア人が増加しており、レバノン軍は国境地帯に部隊を増派した。シリア国内での混乱や犯罪の増加を懸念する人もいる一方で、そのようなことは起きないと保証されたという声もある。 レバノンは100万人以上のシリア人難民を受け入れているが、シリア人入国の規制を強化している。 (英語記事 Syrian asylum seekers in limbo as countries stop applications)
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