「俺がヤミ米屋だ!逮捕してみろ!」…ふつうの米農家が命がけで日本政府に反抗して勝ち取った「歴史に残る大改革」
クローン人間はNG? 私の命、売れますか? あなたは飼い犬より自由? 価値観が移り変わる激動の時代だからこそ、いま、私たちの「当たり前」を根本から問い直すことが求められています。 【写真】「俺がヤミ米屋だ!」ふつうの米農家が日本政府に命がけで反抗した結果 法哲学者・住吉雅美さんが、常識を揺さぶる「答えのない問い」について、ユーモアを交えながら考えます。 ※本記事は住吉雅美『あぶない法哲学』(講談社現代新書)から抜粋・編集したものです。
日本の市民的不服従──そうです、私がヤミ米屋です
お上になかなか逆らわない日本人でも、この市民的不服従を成し遂げた人がいる。1990年代に食糧管理法を敢えて破り、廃止に追い込んだ川崎磯信さんだ。 当時日本は前述の食管法に加え1970年の減反政策と、米作りを統制していた。米の価格や供給を管理して農家に米の生産を減らすこと、いわゆる減反を強いていた。品評会で優勝するほどいい米を作ることに取り組んでいた川崎さんのもとにも大豆への転作を迫ってきたが、彼はそれを拒否した。 すると政府は彼の米の買い取りを拒否した。これは死活問題だった。当時は農協が買い入れないと米を売ることができないシステムになっていたからだ。 そこで彼は違法行為と知りつつ、敢えてヤミ米販売店を開いて直接売ることにした。彼の作った米は政府買い上げの米以上に品質がよく美味しかったため、消費者から好評を得て売れた。彼の店の前には行列ができるようになった。 「消費者は国の法律や政策の犠牲になっている」と確信した川崎さんは、食管法や減反政策の欠陥や矛盾を公の場で明らかにすべく、「俺を逮捕しろ!」と食糧庁に出向いて闘いを挑んだ。 「なぜいい米を作っているのに、売ることが許されないのか?」「消費者はいい米を求めているではないか!」彼はマスメディアにもしばしば登場し、食糧庁を挑発した。
こうして農家は自由に米を売れるように……
ついに1992年、食糧庁は川崎さんを食管法違反容疑で告発し、裁判となった。川崎さんは食管法と酒税法違反として有罪判決(罰金300万円)を受けたが、「食管制度に矛盾がある」と裁判官に言わしめ、結局この年食管法は廃止された。 以後、農家は自由に米を売ることができるようになった。あっぱれ! 川崎さんのおかげで、現在我々は美味しい米を自由にいただくことができている。有罪判決と罰金というのは彼にとっての痛手であったが、彼が食糧庁を法廷に引っ張り出さなかったら食管法という法律はなくならなかったかもしれない。 消費者に品質がよく美味しい米を提供したいという彼の農家としての良心と信念と情熱が、ひとつの不合理的な法制度を変えたのである。 食管法に従って亡くなった山口判事とともに、自らへの不利益を厭わずこの法律を廃止に追い込んだ川崎さんの名を日本人(特に法学部生)は忘れてはいけないと思う。 さらに連載記事<「売春」は「絶対にしてはいけないこと」なのか…その答えを真っ二つに分けてしまう、誰もが知っているが「じつは超あやふやな概念」>では、私たちの常識を根本から疑う方法を解説しています。ぜひご覧ください。
住吉 雅美