日本のモノ作りの舞台裏 高専ロボコンに魅せられた人たち
技術を継承するということ
深谷准教授自身、18歳3年生のときに産業技術高専から高専ロボコンに出場、ベスト8入りを果たした。当時の校長がこう言った。「君が卒業してしまうと、この技術が継承できなくなる。部活を作って後輩に伝えなさい」。部屋と予算が与えられ、いま同校にある「ロボット研究同好会」は、そうしてできた。 しかし、技術やノウハウの継承はそう簡単ではなかった。後輩は「俺が作れば世界一」だと思っている。「これをやれ」と指示すると、彼らは負けた気分になるので、なかなか言うことを聞かない。強く言いすぎて退部してしまう学生もいた。「上手にやるには、物腰柔らかく、後輩の自尊心を守り、心地よく誘導するやり方が大事なのだと気づきました」。 学生を指導するようになってからも、その方法は変わっていない。機械工学、電気工学、情報工学。ロボコンに必要な技術は多様で教えきれない。あとは自分で勉強するように仕向けることに力を注いでいる。 今の後輩たちはどうなのか? 日が落ちて暗くなったキャンパスの一角で、大会に出場したロボットをチューニングする学生、仕様を話し合う学生、パーツを組み立てる学生、プログラムを書く学生らが熱心に作業に取り組んでいた。 リーダーとして10人のメンバーを率いた同校3年の櫛野仁司君(18)に聞いた。「全体のことを把握しないとプロジェクトは進行しません。進行スケジュールをメンバーの実力に合わせて組んだり、二年離れた後輩に話しかけてもらえるような雰囲気作りをしたりと苦心しています」。 プロジェクトリーダーになると、プロジェクトを管理したり、後援会や指導教員と折衝したりと直接的なモノづくりができなくなる。だから、リーダーになるのを嫌がる学生もいる。しかし、プロジェクトリーダーがいなければ、ロボットを作り上げることはできない。これも立派なモノ作りなのだ。 「技術者としての視点とアイデア」。深谷准教授はこう話す。「ロボコンに何年も取り組んできて、彼らはアイデアの引き出しをいくつも持っている。100人が出せないアイデアを出せる1人の人材は、社会にとってお金では買えない人材ではないでしょうか」。