【ドリュー・バリモアの毒母】ジャイド・バリモア、幼い娘を夢の道具にしたステージママ
天才子役は夜のインビテーション
こうして週に何回も、母と天才子役の娘はLAの夜の街に繰り出した。ロックスターの誕生日パーティにソワレ、映画のプレミアに展覧会の前夜祭などなど。たとえインビテーションがなくても問題はなかった。ブロンドの天使のような姿をもつドリュー・バリモアはどんな場所でも「開けゴマ」の呪文と同じ。スタジオ54からVIPクラブのヘレナズまで、シルバーレイクだって、大スターの娘を思い切り着飾らせて、毛皮を羽織って入口まで行けばドアは開いた。ドリューはその可愛らしさや天性の愛想、いたずらっ子な一面などの魅力、そして朝の4時まで大人たちに付き合う根性で、どのテーブルにいっても大人たちに愛された。彼女の虜になった大人にはデミ・ムーアやメリッサ・ギルバート(「大草原の小さな家」)、エミリオ・エステベス(『ブレックファスト・クラブ』、チャーリー・シーンの兄)など枚挙に暇がない。それに深夜にたった9歳の少女がいても誰も驚かなかったし、指摘もしなかった。なぜなら、近くにはいつも保護者ジャイドがいたから。
ハリウッドにはそれまでもチャイルド・スターが伝統的に存在した。シャーリー・テンプル、ミッキー・ルーニー、ジュディ・ガーランドが子役スターの道を切り拓いていた。ドリューもそのレールに乗ったにすぎない。しかし、彼女のインタビューや著書に、ジャイドは都合よく解釈した話を物語り続けた。 (それまでの子役スターと違い)ドリューは自分で女優になりたがった。カメラの前でしか才能を発揮しない、と。つまりは、母と夜のパーティをはしごして、ハリウッドの住人に媚を売っている地道なプロモーション活動はなかったことにしたのだ。そしてドリューが天才的な女優の才能を授かったのは、偉大な俳優一家を祖先にもつDNAが創り、女優の才能をもっている自分が生みだしたもの。彼女に流れる血が見事な演技をさせるのだ、とも。
子どもは早熟し、大人は老いを拒否するハリウッド
現在のドリュー・バリモアは母を許しつつある。会話をするようにもなった。14歳から心理療法士の指導を受けながら生活し、何年も荒れた環境で過ごしたが、今も母の生活を支え続けている(別離後浮浪者にまで身をやつした父も彼女が引き取り看取った)。逆転した親子関係が、彼女たちの日常になっていることは確かだ。毒されたふたりの歩みのなかで、ドリューはあまりにも早熟し、母は老いることを拒否した。 彼女によれば、ハリウッドの享楽の場では誰もそこにいる人の年齢を知らないし、知ろうともしない(実際彼女はいまだに正確な誕生日を教えられていない)。ドリュー・バリモアも自分の年齢を考え、自分が子供だと自覚していなかったし、周囲の大人と同じようになりたいと願い、大人たちは若者の仲間になりたがっていた。でも皆が年齢を否定するとどうなるか。大人たちは大人としての責任を否定するようになる。行く先々で自分と同じようなファッションとメイクで着飾った“友達”に会っては、また別の“友達”に次々に会いに行く……。