リクルートスーツも履歴書の性別欄も無くなる時代へ
行政や高校入試に続き、企業の採用に関する書類でも性別欄を廃止する動きが強まってきた。2020年3月にユニリーバ・ジャパンが性別欄や顔写真の提出を廃止したほか、12月にはコクヨが性別欄のない履歴書を発売し、注目を集めた。こうした多様性の尊重が求められるなか、企業はどのように変わっていくのか。
高校入試の願書で性別記載欄を廃止
性別欄を廃止する機運が高まったのは、男女平等や機会の平等を求める声のほか、性の多様性を尊重し、LGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング/クィア)中でも特にトランスジェンダーの当事者たちがカミングアウトを強要されることを問題視するようになったことが背景にある。 東京都杉並区は2016年、世田谷区は2017年、一部の職員採用選考の申込書から性別記載欄を削除した。2018年には大阪市など13自治体が一般行政職員採用の応募書類から性別欄を削除、または任意項目とした。 性別欄の廃止の動きは、高校入試でも見られるようになった。同年、大阪府教育委員と福岡県教育委員会は、2019年の公立高校入試から、願書にある性別記載欄を廃止することを決めた。2021年は41道府県に広がり、性別欄が残る願書を使用するのは、山形、群馬、千葉、東京、栃木、静岡の6都県となる。
リクルートスーツの廃止も進む
ユニリーバ・ジャパンは2020年3月、性別への無意識な偏見を取り払う取り組みとして「LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャルダメージケア プロジェクト)」を始動した。同社の採用選考で必要な書類から性別欄や顔写真の提出を廃止し、企業や団体に向けて同社の取り組みへの賛同を呼びかけた。 ユニリーバ・ジャパンの取り組みに賛同する三井化学は、2021年の新卒採用から(1)就職活動を行う学生が登録する性別について無回答を可とする(2)一部職種を除き証明写真の提出を求めない(3)服装による性差排除のためリクルートスーツの着用を求めない――ことを明言している。 男女雇用機会均等法が定めるとおり、もともと性別を尋ねる必要はないはずだが、履歴書に性別欄があるということに疑問を持つ人は増えてきている。NPOのPOSSE(東京・世田谷)とLGBTQの当事者たちは、2020年6月、オンラインで集めた性別欄の廃止に賛同する約1万人分の署名を経済産業省に提出した。 当事者たちの声を受けて、日本規格協会は7月に同協会が発行するJIS(日本産業規格)の履歴書から性別欄を無くした。JISの履歴書から性別欄が無くなったことがきっかけとなり、コクヨは12月23日、性別欄のない履歴書を発売した。2021年以降、企業や団体の採用選考で性別欄や外見を偏重しない動きがますます加速する見込みだ。 LGBT問題に取り組む認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)が2019年に行った調査では、就活時にトランスジェンダーの87%がセクシュアリティに由来した困難を経験したと回答した。 最も多かった回答は「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須で困った(47.4%)」だった。その他、リクルートスーツなど男女で服装や髪型などが分かれており、一般社会より強いジェンダー規範を強いられるように感じたという声が上がった。 同団体の薬師実芳代表理事は、「履歴書の性別欄撤廃はトランスジェンダーの就活生にとっては困難の軽減になる」と語る。だが、その一方で、「それだけでは不十分」とし、「服装や役割などの就活時・職場のジェンダーバイアス軽減、面接官の多様な性への理解促進、就労支援機関への相談体制構築など、複合的な対応が求められる」とした。 性的マイノリティが働きやすい職場づくりを目指すNPO虹色ダイバーシティの村木真紀代表は、「(性別欄は)トランスジェンダーの方の就活のハードルになっていたので、なくなるのは当事者にも事業者にも良い話」だとする一方で、「LGBTであっても(それが分かったとしても)、就職や昇進で不利にならないことを事業者が明言し、就活生に情報提供していくことが必要」と話した。