ライブ感溢れ、語りかけるような集中講義を追体験!(レビュー)
きっかけはSNSだった。 「平芳先生が“これ本にならないかな”とシラバスの画像と共に投稿されたものがバズっているのを見つけまして……」(担当編集者) 連絡したときにはすでに多数の出版社が名乗りをあげている状態。しかも学術にもファッションにも精通した版元ばかり。 「一方の僕はSNS上で平芳先生のお名前を知ったばかりで、ファッションには興味があるものの専門的な知識があるわけじゃない。どうにも及び腰のオファーになってしまったのですが、先生はむしろそこに可能性を感じてくださったそうなんです。この本を届けたい層と合致している、と」(同) 本書は平芳氏が東京大学文学部で実際に行った四日間の集中講義の内容を書籍化したものだ。今年九月の発売が決まるや、刊行前に重版がかかり現在四刷。反響はますます広がっている。 「順番も見出しもほぼ開講時のままです。語りかけるような文体に加え、“〇日目”という章扉をつけて濃密な授業のライブ感を読者に追体験してもらうようなつくりにしました」(同) 十二のテーマからなる講義は、ファッションという誰もが関係のある領域のはずなのになぜか捉え難い概念の変遷を追いながら、批評と研究の現在地まで照らしだす。「作法と流行」「自由と拘束」「女性と労働」など二つのキーワードを並べて思考の糸口をつくる構成も巧みだ。「ファッションを考える」ための視点はもちろん、「ファッションで考える」ことで見えてくる社会や人間の新たな一面が鮮やかに立ちあがる。 平芳氏が研究に足を踏み入れた時代は、「ファッション」は大学制度のなかで軽んじられていたという。〈「ファッションは浅い」〉。平芳氏が、まさに東京大学大学院在籍中に当時の教員から言われたことだ。「なぜ学問として認められてこなかったのか」という問いからファッションの本質に迫っていく本書は、“象牙の塔”に向けた痛快なアンサーソングでもある。 「だからこそ書名には敢えて『東大』を入れました。ファッションから学問が豊かに広がっていく熱い過程を皆さんに体感してもらえれば本望です」(同) [レビュアー]倉本さおり(書評家、ライター) 1979年、東京生まれ。毎日新聞文芸時評「私のおすすめ」、小説トリッパー「クロスレビュー」、文藝「はばたけ! くらもと偏愛編集室」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」を担当、連載中。ほか『文學界』新人小説月評(2018)、『週刊読書人』文芸時評(2015)など。ラジオ、トークイベントにも多数出演。作品の魅力を歯切れよく伝える書評が支持を得ている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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