池脇千鶴の名演技だけではない…「その女、ジルバ」が視聴者の胸を打つ理由
ファンは号泣する準備をしておいたほうがいい。フジテレビ系「その女、ジルバ」(土曜午後11時40分)が、いよいよ感動のクライマックスに向かう。13日の最終回まで残り2回である。
そもそも「その女、ジルバ」はどうしてヒットしたのか。その理由は第1にテーマが良かったからだろう。大きなテーマは「疑似家族」である。 原作漫画の作者・有馬しのぶさん(56)は2015年のインタビューでこう語っていた。 「アララ(新)のように親元を離れてひとり暮らしをしている女性は、すぐに泣きつける場所がありませんよね」(有馬さん*) その言葉通り、福島県の会津から上京した40歳の主人公・笛吹新(池脇千鶴、39)は心の拠り所がなく、孤独な生活を送っていた。勤務先であるスーパーの倉庫と社宅アパートを往復するばかり。鬱々とした日々だった。 けれど、くじらママ(草笛光子、87)と熟女ホステスたちによる疑似家族「BAR OLD JACK &ROSE」の一員になることにより、新が日に日に明るくなったのはご存じの通りである。 ママとホステスたちは戦後の厳しい時代を助け合いながら生き抜いてきたので結束が極めて固い。その輪に加わり、心の拠り所が生まれたことによって、新は心の安定を取り戻した。 見る側もこの疑似家族に惹かれたのではないか。孤立感や人恋しさを味わったことのない人はまずいないのだから。新のような上京組や肉親のいない人は余計にそう。お互いを支え合う登場人物たちの物語は見る側の心も温めたはずだ。 「(疑似家族は)他人だから嫌なら別れられるのだけど、補い合ったり支え合ったり、ときには放っておいたりするなど、人間関係の自由さに惹かれます」(有馬さん*) 新が疑似家族に正式に加わったのは第7話。くじらママに対し「私をこの店の子供にしてもらえませんか」と頼んだ。ファンならご記憶だろう。 スーパーの倉庫勤めを辞め、専属ホステスになるという意思表示だった。同時に、郷里・会津からの自立宣言でもあった。 くじらママに「この店の子供に」と頼む前、新は心の中で「(会津は)大切な場所だけど、私の居場所は、新しい故郷は…」と、つぶやいている。 生まれ故郷の尻尾を切るということは多くの上京組が経験する。新がその踏ん切りを付けられたのは疑似家族が得られたからだった。 その家長が、くじらママであるのは言うまでもない。第3話でホステスの1人であるエリー(中田喜子、67)を40年前に騙した男が再び彼女に甘い言葉を並べると、くじらママは男に向かって鬼の形相で言い放った。 「エリーは私どもの大切な家族。その家族を守るのが私の役目。お引き取りください。そして、もう二度とエリーには近づかないでください」 孤児だったナマコ(久本雅美、62)に愛情を降り注ぎ、育てたのも亡きジルバやくじらママだった。 このドラマの魅力をリアリズムと見る向きもあるが、それは違うのではないか。生き馬の目を抜くような現代社会ではあり得ない話の連続なのだ。ある種の理想郷「OLD JACK & ROSE」だから起こり得る話なのである。ファンタジックだからこそ見る側は惹かれる。 理想郷は足を踏み入れた者の心もほぐした。それまで周囲と距離を置いていた新の上司でチームリーダーのスミレ(江口のりこ、40)は、第4話で同じ境遇のナマコに対し「私もです。私も親がいないんです」と放心したような顔で告白する。周囲の誰にも明かせない話だった。 聞いたナマコはスミレの長年の苦労を察し、瞬時に泣きそうな表情になった。以後、ナマコはスミレを妹のように思うようになる。ここにも新たな疑似家族が生まれた。 新とスミレ、やはり同僚だったみか(真飛聖、40)の3人も親友というより姉妹に見える。一緒に笑い、泣き、バカ騒ぎをして、ケンカする。これも良い意味でリアリズムとは遠い。 第5話でスミレが少し照れくさそうに「40になって、こんなに友達が出来るなんて思わなかった」とつぶやくと、みかも泣き笑いの表情で「私も」とうなずいた。そう、現実にこんな関係を築き上げるのは至難なのだ。だからこそ見る側は惹きつけられる。