″鬼才″片岡鶴太郎が語る「ヨガをしながら、絵を描きながら、″生涯現役″で死んでいきたい」
限界まで削(そ)ぎ落とされた肉体。カメラを見つめる鋭い眼光。その姿はまるで仙人だが、ひとたび口を開けば、多彩な表情で軽快なトークを繰り出す。 【画像】すごい…!バラエティ仕様でぽっちゃり?″鶴ちゃん″時代の「片岡鶴太郎」 昨年、芸能生活50周年を迎えた片岡鶴太郎(69)は、古希間近とは思えない若々しさとシブさを両立させたファッションを自身のSNSで公開し、″イケオジ″と評判になっている。 「イケオジだなんて、嬉しいですよ。10年ほど前から、仕事用の服もスタイリストをつけずに自分でコーディネートしているんですが、古着屋を巡(めぐ)ったり、着回しを考えたりするのが楽しくて」 半世紀前、お笑い芸人として芸能界でのキャリアをスタートさせた鶴太郎。ブレイクのきっかけとなったのが’81年放送開始の『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)。この番組は、当時人気を誇っていた『ザ・ドリフターズ』が出演するバラエティ番組『8時だョ!全員集合』(TBS系)に対抗して始まった。 「『ひょうきん族』は当初3ヵ月……つまり、1クールだけの予定でした。『全員集合』と同じことをやってもつまらないから、真反対のことをやろうとなって。あちらが子供の視聴者を意識した生放送なら、こちらは大人向けの収録を。あちらはチームワークが強みなら、こちらは個人の力を掛け合わせる。それで、私のようなピン芸人が入り込めたんです」 ビートたけし(77)、明石家さんま(68)、島田紳助(68)など錚々(そうそう)たるメンバーが揃(そろ)った『ひょうきん族』。台本はあるものの、大まかな設定のみで、その場のアドリブまかせ。番組内で、鶴太郎は近藤真彦(59)のモノマネをヒットさせるが、この人気も想定外だった。 「ある日プロデューサーから『マッチの曲がランキング1位になったから、モノマネやって』とビデオを渡され、3日で曲を覚えたことがありました。『ギンギラギンにさりげなく~』と歌いながら山小屋に入ると、小屋が壊れ、マッチは大木の下敷きになって死ぬ……という設定で、″鶴ちゃんマッチ″は1回きりの予定だった。本番では、私が小屋に入った瞬間、爆竹がはじけ、そこにいた鶏(にわとり)が驚いて飛び上がった。鶏が飛んでいる姿をその時初めて見ましたね(笑)」 このコントが大ウケして、1回きりのはずだった″鶴ちゃんマッチ″は定番化。″本家″のお墨付きも得たという。 「″本物″のマッチと対談したら、『鶴ちゃんのマッチ面白いよ! 次は何の曲やるの?』って。でも、当然ながらマッチのファンからは『あんなのマッチじゃない!』という怒りの手紙がたくさん届きました。なかにはカミソリが入っていたものもありましたね(苦笑)」 その後、『ひょうきん族』メンバーはそれぞれが大スターに成長し、自分の番組を持って活躍するようになった。 「周りの人たちの強烈なキャラとトーク力を間近で見ていたから、同じ方向性では絶対に敵(かな)わない。それに、私の持ち味はモノマネだったので、司会者よりも誰かに扮(ふん)する役者に近いと思った。そんな頃、『男女7人夏物語』に出演し、役者としての仕事が増え始めたんです」 ◆鬱々とした男の更年期障害 多忙を極めていた32歳の頃、大きな転機が訪れる。ずっとやりたかったボクシングに本格的に取り組んだのだ。 「プロボクサーのライセンスを取るにはラストチャンスだった。それに、本格的に俳優業をやるのであれば、バラエティ仕様のぽっちゃりした″鶴ちゃん″を引きずっていては、他の役者さんに太刀打ちできない。周囲には、『痩(や)せて見た目が変わると、仕事がこなくなる』と反対されましたが、私にとっては、同じままでいるほうがリスクだった」 当時は、レギュラー番組8本にドラマ撮影を並行し、スケジュールは2年先まで埋まるほどの超売れっ子芸人。事務所は猛反対したが、それを振り切りボクシングに挑戦。’88年、見事ライセンスを取得した。ただ40代後半になると、漠然とした不安に襲われるようになった。 「いわゆる″男の更年期障害″ってやつです。毎日毎日、鉛(なまり)を飲んだように心と身体が重く、自分に自信が持てず、鬱々(うつうつ)としてしまう。この年齢特有の悩みで、老け役をやりたくても年上の素晴らしい役者さんがいるし、下の世代を見れば才能溢(あふ)れる若手がどんどん出てくる。自分が中途半端なような気がして、常にプレッシャーに押し潰(つぶ)されそうでした」 そんな苦しい状態を脱することができたのは、同世代との交流のおかげだった。 「50歳の時、昭和29年生まれの人たちと集まる会が発足したんです。自民党幹事長だった安倍晋三さん(享年67)、現・神奈川県知事の黒岩祐治さん(69)をはじめ、さまざまな業界の人が集まっていて、聞けば、皆さん『最近、鬱々とした何かを心に抱えるようになった』と言っていて。自分だけではないのだと知り、心が軽くなったんです」 さらに、57歳でヨガに出会い、その魅力に取り憑かれる。毎日のルーティンを崩さないことで、心身の健康をキープ。起床は、仕事の入り時間の9時間前で、たいてい前日の夜11時だという。 「起きたら3時間ほどヨガに集中。そのあと2時間半かけて朝食を摂(と)ります。食事は一日1回、朝食のみだけど、10品ほどゆっくり食べるので満腹感が得られる。たまに付き合いでランチすることもあるんですが、私は夕方5時頃に床に就くから、昼に食べすぎると胃がもたれて熟睡できなくなっちゃうんですよ」 他にも、三線や絵画など興味を持ったことにはとことん打ち込んできた。自分がやりたいことがわからないという人は多いが、「それは自分の本質と向き合えていないから」と鶴太郎は指摘する。 「興味があっても、″お金にならない″″役に立たない″と、打算的な情報に邪魔されて、踏み出せなくなっているんだと思う。余計な情報を遮断し、もっとシンプルに見つめれば、自然とやりたいことが見えてくるのではないでしょうか」 ◆熟年離婚とシングルライフ 62歳の時に長年連れ添った妻と離婚した鶴太郎。それは″自分の中に嘘を残さない″という思いからだった。 「30代の頃から、自宅近くに仕事部屋としてマンションを借りていました。ある意味、30年以上別居状態が続くなかで、夫婦が互いに年をとり、生き方や望む方向性が異なってきた。別居のままで良いのかもしれませんが、還暦を迎え、自分の中に嘘があるのは、イヤだと思うようになって……。その気持ちを伝えたら妻も理解してくれたんです」 一人暮らしの期間は長いが、寂しいと感じる瞬間は皆無だと語る。 「独身だから恋愛も自由だけど、夜飲み歩かないから出会いがない。早朝5時半から、私が作った朝ご飯を一緒に食べる朝食デートが理想なんだけど、そんな女性はなかなかいませんよね(笑)」 一方、交友関係の中には意外な友人も。なんと、10代の旧ジャニーズ(現『STARTO』社)のタレントたちと遊びに行っているそうだ。 「舞台共演を機に『ランチに連れて行ってください』とお願いされて。一緒に古着屋に行き、人生相談にのることもあります(笑)。年齢的には″おじいちゃんと孫″だけど、『今どきの若いモンは!』なんて全然思わない。そんな考え方は、自分の世界が狭(せば)まるだけでしょう?」 衰え知らずの好奇心と己の真髄を見つめる姿勢で自分をアップデートし続ける。それが片岡鶴太郎という男なのだ。 『FRIDAY』2024年7月5・12日号より 取材・文:音部美穂
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