【高校野球】名門・報徳学園の指揮官が取り組む改革 新入生の“名物練習”を廃止したワケ
大角健二監督は2017年春に監督就任、今年の兵庫春季大会を制した
2017年春から母校・報徳学園の指揮を執る大角健二監督。今春の兵庫県大会では決勝で東洋大姫路に2-0で勝ち、5年ぶりに春の兵庫を制した。2年半の高校野球生活で生徒たちは一体どこまで成長できるのか――。これまでの伝統を受け継ぎながら、新たな変革を行う姿に迫った。 【動画】巨人Jr.で3戦連発! 驚愕の打球速度…中1ですでに90キロ超…入江くんの実際の映像 新入生が加わった4月。報徳学園のグラウンドには150人の部員が白球を追っていた。監督に就任し6年目を迎えた大角監督が掲げる信念は「感謝し、感謝される関係を築くこと」。野球の技術だけを追い求めるのではなく、社会に出ても必要とされる人間作りだ。 「高校野球ができる期間は思った以上に短い。生徒たちは2年半でどこまで成長できるか。育成については3年前に方向転換しました。それが正解かどうかは分かりませんが、無駄な時間は過ごしてほしくない」 高校野球も時代と共に指導方針は変わっている。大角監督が高校生だった頃は“根性野球”の全盛期。1年生はほとんどボールを手にすることができず、球拾いなどの雑用がメインだった。さらに、新入生には体力強化を目的とした、200メートルトラックを設定されたタイムで駆け抜ける「トラックダッシュ(TD)」が名物練習として科せられていた。 「当時の1年生は入部してからの約2、3か月は走るのがメイン。体重が落ちてメンタルも下がってしまう。それがようやく夏過ぎになって戻ってくる。そうなると残された時間は2年しかない。右肩上がりで成長しないといけない中で、それは本当に必要なのか、結果に結びつかないんじゃないかと考えました」
厳しい上下関係は消滅しつつあっても「謙虚さは持たないといけない」
限られた時間や環境の中で、いかに成長できるか。試行錯誤を繰り返しながら過去の良いところは残しつつ、時代に沿った練習方法を取り入れてきた。その中でも「根性=悪という考えは違うと思っています」と語る。 「勿論、体罰や意味のない練習はダメですが、しんどくて辛い練習は生徒たちの“素”の部分が出る。体力の限界がきた時に人間の本性は分かる。それはグラウンドでも、劣勢になった試合でも同じ。うわべだけの付き合いでは仲良し集団になってしまう。人間同士でぶつかりあって意見を口にすることは野球を辞めたあとでも、必要なことだと思う。 よく『俺らの時代は○○だった』と言う人がいる。例えば1000スイング、1000本ノックを本当に1回も気を抜かずにやっていたのか? と言われれば多分そうじゃない。100スイングを本気でやる方が、根性がいるんですよ。根性という言葉にアレルギー反応を起こしているだけで。実際に今の子どもたちの方が、そういった部分はしっかりしていると感じます」 一方で時代とともに生まれた弊害もある。先輩が試合に向け道具を準備をしている横で手伝わない後輩。“タメ口”でコミュニケーションを取る姿がよく見られるという。厳しい上下関係がなくなりつつある現在の環境に「謙虚さは持たないといけない。それは社会人になって気付いても遅いし、本人が一番損をする。それを忘れたら誰も応援してくれない」と不安も口にする。 わずか2年半の高校野球生活で求められる“勝利と育成”。「はっきりとした正解はないが、指導者の自己満足になってはいけない」。伝統校を引き継いだ大角監督の挑戦はまだ始まったばかりなのかもしれない。
橋本健吾 / Kengo Hashimoto