中身が100点でも、伝わらなければ0点――巨大組体操問題の火付け役が語る、 研究者が“伝える”必要性

 「10段人間ピラミッドの1人あたり負荷は200kg超」運動会の組体操は是か非か」――。今年、さまざまなメディアでこうした話題を目にした、という方もおられるのではないでしょうか。今では広く知られるようになった組体操問題ですが、そのきっかけは、ある一つの記事でした。
 記事を書いたのは名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の内田良さん。組体操に限らず、「2分の1成人式」や部活動の負担問題など、教育現場における課題を継続的に発信する活動が評価され、今月には「Yahoo!ニュース 個人」オーサーアワード2015を受賞しました。内田さんがインターネットにおける言論活動にかける思いとは――。「Yahoo!ニュース 個人」編集担当と当ブログのスタッフがお話を聞きました。

12月1日のオーサーアワード2015授賞式の様子(写真左。右は社長の宮坂学)

きっかけはツイッターへの情報提供

――内田さんは教育現場におけるさまざまな課題について警鐘を鳴らしておられますが、特に巨大組体操問題はマスメディアでの報道や、行政の動きにも波及しました。組体操問題を発信するようになったきっかけは?

 組体操問題について最初に発信したのは、2014年5月19日の記事でした。それまでも組体操問題については全く知らないわけではなかったのですが、本格的に調べたことはなかったんです。その記事を出す数日前、組体操の危険性を指摘する声がたまたま複数同時に私のツイッターに寄せられて、ネットで動画を探して10段ピラミッドを見て「なんじゃこりゃ」と……衝撃を受けました。そこで初めて問題意識がわき上がってきて。「ちょうど運動会シーズンなので、今訴えればかなり広がるのでは」と思い、大急ぎでデータ集めにとりかかりました。エビデンスを集めてみたら「これはおかしい」といえる状況が次から次へとでてきたので、自信を持って出せると判断し、「緊急提言」という形で記事を公開しました。

――組体操問題と出会って、執筆活動においてご自身の中で何か変化はありましたか?

 「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーになった当初は、柔道事故問題といった、「私以外の研究者には書けない完全オリジナルの話題」しか書いていなかったんです。でも組体操問題を発信し始めたあたりから、教育現場における幅広い専門家としてやれることをやっていくんだ、という風に意識が変わりました。

 組体操問題だって、何人かの方がブログで個人的には書いていました。そして、部活動での教員や子どもの負担については、われわれ研究者の間ではこれまでも言われていたことなんです。研究者って、自分の完全オリジナルなことしか発表してはいけないと過度に思われている節がある。「学会のなかではよく知られている、大学の授業ではよく言われていることを、内田良の名前を使ってYahoo!ニュースで堂々と話すなんてとんでもない」と。同じ研究者から「俺はこんなこと30年前から気付いているよ、内田は今更何言っているんだ」と言われることもあります。そういう声に対して私は「誰が先に言っているかではなく、問題提起に向けて一緒に協力していきましょう」と伝えたいです。

 アカデミックな世界の中では当たり前でも、世の中には伝わっていないことってたくさんあるんです。だからそこに光を当てて、伝わりやすい形にして、あえて書く必要もあると考えています。

伝わらなければ0点

――「書き方」の面で工夫されていることはありますか?

 どんなにアカデミズムにおいて100点の中身のものを書いても、伝わらなければジャーナリズムにおいては0点ですよね。世の中に発信する際には、ジャーナリズムにおいて評価されるものを書かなければいけないので、アカデミックなものを削ぎ落として、端的にわかりやすい分量で書かなければいけないと思っています。でもそのスキルをトレーニングする機会が研究者にはなくて。研究者の書き手の発信力をどう育てるかという面では、「Yahoo!ニュース 個人」にとっても課題かもしれないですね。

 本業のジャーナリストやライターの皆さんは情報発信の「タイミング」についても、いつも考えていると思いますが、一方で研究者は、学会の権威ある雑誌が出るのは1年に1~2本だったりするように、情報発信のスパンが年単位なんですね。なのでリアルタイムで情報発信しようという感覚が薄い人が多い。新しい話題がニュースで報じられたときに、それに合わせて、持っている知識を出せばそれで世の中が変わっていく、という感覚を研究者にも持ってもらいたいです。

「金髪」を続ける理由

授賞式でスピーチを行う内田さん(12月1日)

――ところで内田さんといえば、「金髪」がトレードマークですよね。

 金髪にしたのは2年位前で、それ以前は茶髪だったり、赤い髪のときもありました。でも実は私、目立つのは好きじゃないんです(笑)。説得力ないかもしれませんが(笑)。

――では、なぜ金髪を続けるのでしょうか?

 世の中は言論で勝負するべきであって、見た目や、女だから男だからといった属性で区別したり判断するべきではないと思っています。そういった意味を込めて、あえて金髪にしています。大人って、こういう金髪、大嫌いですよね。「態度なってない」と。学校でやんちゃ坊主が先生にどれだけ正論をいっても、見た目を理由に「おまえのいうことなんて聞かない」という状況は非常に危機的だと思います。だから金髪のことを批判されれば批判されるほど、「こういうことをいう人たちがいる限り、僕は(金髪を)続けないといけない」と思っています。

普遍的な話題を、どう継続的に発信していくか

約2年前、オーサーになった当初は「自分はライターではないですし、記事を書こうという実感がなかなかわかなかった」という内田さん。本格的に記事を投稿するモチベーションがわいたきっかけは「Yahoo!ニュース 個人」編集担当・竹野雅人(写真左)と「書く側のオーサー、届ける側の編集者、それぞれ手法は違うが言論で社会の課題を解決したいという思いは同じ」と意気投合したことがきっかけだった、と振り返りました。

――ご自身の執筆活動において、抱えている課題があれば教えてください。

 問題を「継続的にどう発信していくか」が、私にとっては大きな課題です。例えば組体操問題は、年に2回の運動会シーズンの盛り上がりのタイミングもありましたし、新たな動きが次々と出てきたので継続的に情報発信することができたんですね。でも、例えば部活動の負荷問題は組体操よりも大きな規模で、さらにずっと続いている問題にも関わらず、「忙しい」の一言で、言いたいことは終わってしまうわけです。そうした長期的・普遍的な話題をどういう切り口で継続的に発信し、更新サイクルの早いYahoo!ニュースの世界でどう勝負するか、というのは一番の課題ですね。同じことを言い続けることって大事ですが、一方ですごく難しいことだと思います。

――それは、私たちにとっての課題でもあるかもしれません。私たちもオーサーの方々とのコミュニケーションを通じて、そうした課題に一緒に向き合っていかなければいけないと感じました。

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