野村幹太

マイノリティーの視点を借りる――「人間図書館」の試み

2016/12/22(木) 9:47 配信

「ヒューマンライブラリー」、つまり、人間図書館。このイベントが日本でも広がってきた。障害者やLGBTといったマイノリティー(社会的少数派)の一人一人をそれぞれ1冊の「本」に見立て、個性溢れる体験や考えを1対1の対話で見聞きする試みだ。「本」は何を語るのか。「読者」になった人たちは何を感じるのか。これまで70か国以上で開催され、日本では8年前に伝わったこのイベントが、今年も東京で開かれた。(Yahoo!ニュース編集部)

「普通と違う」34人

11月末の東京。快晴の下、明治大学中野キャンパスに34人のマイノリティーたちが集まった。LGBT、全盲、義足、筋ジストロフィー、アルビノ、ロリータファッション活動家、うつ病経験者、口で描く画家……。イスラム教徒や在日韓国人の姿も見える。奇抜にも映るファッションに身を包んだ人もいる。「障害者」「社会的マイノリティー」と一括りで表現されることも多いが、それぞれに個性があり、全員が違っている。共通するのは「社会的に少数者の立場に置かれている」の1点だけだ。

マイノリティーの人たちは最初、「書庫」と呼ばれる控え室に集まった(撮影:野村幹太)

明治大学は2009年から毎年、「ヒューマンライブラリー」を開いてきた。「本」として参加したマイノリティーは今回34人。過去最多だという。「読者」は、いわゆる「普通の人」たち。マイノリティーの人たちはそんな読者と向き合い、自分をさらけ出し、経験や思いを語る。

「マイノリティーが不幸? 間違いだ」

粕谷幸司さん(33)はアルビノ(先天性白皮症)で、メラニン色素が欠乏する遺伝子疾患がある。ヒューマンライブラリーには10回ほど参加してきた。

粕谷幸司さん。「マイノリティーだって、おもしろい人生を過ごしている」(撮影:野村幹太)

「(マイノリティーは)みんな、だいたい、かわいそうな話をして、苦しさを共有することで『本も読者も楽になりましょう』とか。僕は全然違う方向。アルビノだけど楽しく生きているよ、マイノリティーが不幸だと思うのは間違いだよ、と。僕が『苦労していませんよ、マイノリティーはマイノリティーで楽しくやってるよ』と言っても、(読者として)聞きに来る人は9割9分、僕らの経験を聞いて『人生、辛いけど頑張ろう』と思いたいんだね」

「うつ病はいまだに認知されてない」

小山祐介さん(32)は「うつ病経験者」として「本」になった。4回目だという。

会場では34人分の「本のあらすじ」が紹介されていた(撮影:野村幹太)

「うつ病ってどんなのですか、本当に分かりません、みたいな人が今回、何名かいた。『いまだに、うつって認知されてないんだ』と驚きでした。マイノリティーという言葉は、健全と言われている人間が作りだした概念でしかなくて、本当は存在しないんです。全てはグラデーション。何も分ける必要はない。障害も、健全って呼ばれている人たちの概念です。差別もそこから生まれているんです」

「アイデンティティーの再構築です、自分の」

フレイクさん(36)は5回目の参加だ。先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)という病気で、生まれつき「まぶた」が上がらない。

フレイクさん。「この病気をまず周知したくて」(撮影:野村幹太)

「見た目の問題を持つ少数派として、自分には今までバッドストーリーがあった。けれど(このイベントでは)バッドなものが(読者の人にとって)グッドな土産に変わる。ネガティブな話題でもポジティブな話題でも、アイデンティティーを再構築しながら、未来に向かって(自分の話を)提供できる。すごくメリットを感じます。それにチャレンジできた、ってね」

女子大学生、同世代のレズビアンと

明治大学のヒューマンライブラリーは、「1対1の対話を30分」が基本ルールだ。相手を傷つけなければ、何を聞いてもいい。

実際の対話はどう進むのだろうか。部屋の一つを見てみた。「本」はレズビアンの鈴木南十星(なとせ)さん。21歳の大学3年生で今回初めて参加した。

レズビアンを公言する鈴木南十星さん。性的少数者への偏見をなくそうと活動中(撮影:野村幹太)

鈴木さんは「レズビアンだったらレズビアンは『ああいう奴らだ』って、決め付けられた固定観念の箱の中に入っている感じ」と言う。ここの対話では「箱の中にもいっぱい人がいて、それぞれ違うんだということを直接知ってほしい」と考えていた。

鈴木さんが向き合った「読者」は、大学2年生の元木優さん。同世代とあって、対話はぽんぽん進んだ。

読者「カミングアウトは?」
本「高3の時、お母さんに。『知ってたよ』って言われ、びっくりした。父には言ってないけど、(付き合っている)彼女とか、家に連れてきます」
読者「ええーっ。じゃあ、お父さんはその彼女を女友だちと思っている可能性もある?」
本「そうそう」

「本」の鈴木南十星さん(左)はレズビアン。「読者」の元木優さんも同世代(撮影:野村幹太)

「意外と普通だね」「そうだよ、普通だよ」

2人の対話は続いた。

本「幼稚園の時から女の人が好きだった気がする。嵐よりグラドル。井上和香ちゃんとか叶姉妹とか。叶姉妹は本当に夢に出てきた」

読者「男の子に接する時は、どんな感じですか? 私は、女友だちなら本当にフランク。男友だちだと、落ち着いてしゃべる感じになっちゃう」
本「私は逆かも。女の子には良く見られたい。男の子とは何も考えないで、下ネタとか喋っちゃう」
読者「(恋愛対象への)考え方は一緒。レズビアンの人って意外と普通。全然、抵抗ないですね」
本「そうだよ、普通だよ」

読者の元木さんは対話の後、「私たちと同じ。好きな人と付き合っているし、マイノリティーだと全く感じなかった」と振り返った。

「読者」の元木さんは「マイノリティーの人は普通でした」(撮影:野村幹太)

初めて「本」になったレズビアンの鈴木さんはー。

「普通の人と変わらないですね、みたいなことを言われたのは、おもしろかった。『普通』という単語がよく出てきたけど、普通って何を指しているんだろう、って。それをすごく思いましたね」

「障害=暗い」を覆したい

対話の様子をさらに見せてもらった。

「本」は、義足の鍼灸師・櫻林有さん(43)。8年前、バイク事故で左脚を切断した。同じ義足の友人に誘われての初参加だ。櫻林さんはなぜ、自らをさらけ出そうと思ったのだろう。

櫻林有さんを紹介する「本」のページ。会場に置かれていた(撮影:野村幹太)

「落ち込んでいる人を覆したい。それは鍼灸師の仕事と通じます。針を使って心を動かしたい、前向きに生きてもらいたい。落ち込む必要はないんだ、それとこれは別だよ、みたいな。(義足になって)できないことはあるんです。でも、できることはまだ残っている。できることを楽しめば人生は有意義になる。それを地で行く自分の姿を見てもらい、伝えたい。障害っていうと、『暗い、落ち込んでいる、かわいそう』ってなるけど、それも覆したい。僕の人生のテーマですよ」

「義足で娘をおんぶ。そのために訓練したんだ」

櫻林さんは対話の中で、自分の娘との小さな出来事を語った。

「今、娘は小学校3年生。36キロあって結構大きい方だね。娘からしたら、お父さんは(物心ついた時から)脚がない。甘えたい気持ちでアプローチしてくるけど、『おんぶして』って頼んできたこともない。でもね……」

「読者」に向き合う櫻林さん。娘さんをおんぶした体験を語った(撮影:野村幹太)

昨年のお祭り。9歳の娘は遊び疲れ、帰り道でくたくた。家の近くまで来て、甘えたくなったのだろう。遂に言った。おんぶして、と。

「おっ、来たかって。その覚悟はしてたの。(おんぶする)イメージでリハビリもしてたの。だから、『いいぞ』って。(娘が背中に)顔を埋めるの、ものすごくうれしくてね。この思い出だけは宝物。絶対忘れない。たぶん娘も(父の障害を)理解してるけど、(あの時は)すげえ甘えたい、っていうのが勝ったのかな。うれしかった。頑張って良かったと思った」

櫻林さんの足元。娘をおんぶするために訓練を重ねた(撮影:野村幹太)

娘をおんぶするための、義足での訓練。その経験を聞いた「読者」の大学生、山崎里奈さんはこう言った。「マイノリティーと呼ばれる立場にいることで、悩んだりマイナスに考えたりする方もいると思います。櫻林さんはそれを超えてポジティブ。(マイノリティーに対する)自分の考え方も考え直さなきゃ、って」

「人間図書館」の歴史

世界初の「ヒューマンライブラリー」は2000年のデンマークだった。偏見を理由に友人を殺された若者が「メディアや本の知識だけでなく、直接対話で偏見を解消しよう」と企画した。会場はロックフェスの一角。テントにマイノリティーの人たちを集め、誰でもふらっと立ち寄れる方式にしたという。

その後、欧州全域や米国などに広がり、日本でも始まった。明治大学の横田雅弘教授は日本でいち早くこれを手掛け、授業の一環としても取り組む。

明治大学の「人間図書館」。大勢の「読者」がやってきた(撮影:野村幹太)

横田教授は言う。

「参加者の多くが、マイノリティーの方たちと今まで話したことがなくて。リアルに感じられるようになったとか、ステレオタイプな自分の考えが崩れ去ったとか。プラスの意見が多いですね。遠い存在だった人が対話で近づき、世界の見方が広がったんですね」

ただ、この取り組み自体はまだ社会に広く浸透していない。だから、横田教授はこう強調する。

明治大学でのヒューマンライブラリー。会場には「本」のポートレートも(撮影:野村幹太)

「『違い』の受け容れは生易しくない。この試みを生活の中でもっと定期的に続けることが大事です。ライブラリーですから国立国会図書館でやるとか。ダイバーシティーを重視している企業と連携するとか」

「僕の趣味なんかより、この障害を知って」

ヒューマンライブラリーはこの秋も横浜市や東京のシブヤ大学で開かれるなど、各地で少しずつ増えてきた。そうした広がりを反映し、明治大学でのイベントには今年、昨年より約70人多い約300人の「読者」が集まった。

宇陀未来さん(38)もその1人。休日を利用して三重県から来たという。三重県職員で、障害者雇用関係の部署にいる。

宇陀さんは、対話の相手に貝谷嘉洋さん(46)を選んだ。彼は筋ジストロフィー症で、年々筋力が著しく弱っていく。

筋ジストロフィー症の貝谷嘉洋さん(左)と、三重県の宇陀未来さん(撮影:野村幹太)

宇陀「今はどういう状態なんですか」
貝谷「見た目そのまま。動いていないところは動かない。でも、手はちょっと動いている。たくさん動けないだけで、機能は全廃していないんだよね。筋ジストロフィーの場合、使っていればある程度(筋力を)維持できるので。筋肉って、鎧みたいなものなんです。だからぶつかったりすると、人より痛がる」

貝谷さんには電動車いすが欠かせない(撮影:野村幹太)

宇陀「こういう場所では、だいたい障害に特化した質問をされると思うのですけど、そういうことばかり話すのって嫌じゃないですか? 趣味のこと聞いてくれよ、とか思いませんか?」
貝谷「そんなことはないですよ。僕ね、もっとね、自分の障害のことを気づいてよ、と思う。みんな忘れちゃう。障害というのは(人々の認識から)消えちゃうんだよね、ある時にふっと」

対話の後、宇陀さんは「こうして発信してもらう機会が増えると、私たちが30回言うよりも、ぱっと伝わって(障害者への配慮が)進むんじゃないかと思いました」と語った。来年度は、自分の町でもヒューマンライブラリーを実施できたら、とも話した。

小学校教員、盲目の教授と向き合う

小学校で教壇に立つ町田晃大(27)さんには、障害者に関する授業予定があった。そのためには、自分が障害者への理解を深めなければならない。そう考えて盲目の大学教授・堀越喜晴さん(59)と向き合った。

盲目の大学教授、堀越喜晴さん(左)と小学校教員の町田晃大さん(撮影:野村幹太)

町田「目が見えないって、本当に真っ暗な感じなのか。そういうところからして、あんまり分かっていないです」
堀越「(私は)記憶がある前に眼球を取りましたから、見えたことを全く覚えてないんですね。光が分からないから、当然、闇も分からない。『見えない人は闇の中で生きている』と言われますけども、闇ってどういうものか。これも分からない。『じゃあ、闇がないなら常に明るいのか』って皆さんおっしゃるんですけど、そうでもない」

「明日、小学校で子どもたちに話します」

堀越さんの話は続く。

「障害者に対するイメージってとっても両極端。まず、視覚障害者に限らず、何もできないだろう、って。そうじゃないと分かると、超能力があるかのように、何でもできるんじゃないか、って思うらしい。両極端。中間がない。すごく不思議だな、と思うんです。普通じゃなくて駄目か、普通じゃなくすげえか。そのどっちか。とってもおもしろいですね」

帰り際、町田さんは言った。

「もっと勉強しないと。教える僕たちの方が(マイノリティーへの)知識がなくて、間違った知識を教えていることが多々ある。とりあえず、明日は学校なので。『きのう、こんなイベント行ってきたよ』って話して、こういう人たちがいるんだよ、って子供に教えたいですね」

多くの「マイノリティー」と多くの「読者」が向き合う1日。彼ら彼女らの肉声は次の動画で。

[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:野村幹太
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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