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なぜ嫌婚? 独身たちの主張なき抵抗

2015/09/15(火) 17:07 配信

オリジナル

誰もが結婚するのが当たり前だったのは、40年前のこと。
いまどき「結婚してこそ一人前」とはさすがに言われないが、相変わらず、結婚しないでいることには「理由」を求められる。
それでもなぜ、未婚化が進むのか。
社会学者の水無田気流さん、恋愛ブロガーのはあちゅうさん、男性学を専門とする田中俊之さんの3人が語る。
(Yahoo!ニュース・AERA編集部)

皆婚から嫌婚へ

水無田 若い人たちが結婚しないのは主として経済的な理由からであるのは統計調査でも明らかですが、ここ30年くらいで「一生結婚するつもりはない」、つまり積極的に結婚しようとしない独身者は、男性が約5倍、女性が約2倍に増えています。

はあちゅう 29歳の私の周りには、結婚を後回しにしている女性が多いです。大学院を出て、バリバリ働いているような子が多いかな。

水無田 都市部に住み、仕事を持ち、経済的に困窮していない。「家庭を運営する能力がある」と一般的にはみなされるのに結婚したがらない人たちのことを、私は「嫌婚派」と名付けました。週刊誌AERA(朝日新聞出版)の2015年6月22日号(独身男女622人調査でわかった「嫌婚」の正体
では、年収がある程度以上ある人たちを対象に調査し、「嫌婚派」にはどんな志向があるのかを分析しています。

水無田気流(みなした・きりう)/1970年生まれ。詩人、社会学者。 個人の幸福と家族規範の関係について精力的に調査・分析。著書に『「居場所」のない男、「時間」がない女』など。

考えなければ結婚しない

田中 その「嫌婚派」も、主義や主張があって結婚しないというわけではないのでは。例えば夫婦別姓でいたいから籍を入れないとか、結婚制度に反対だから未婚を貫くとかではなく、特に理由もなく結婚していない。逆に言うと彼らは、特に理由なく結婚していくこともあり得るでしょう。僕は39歳になるまで結婚していませんでしたが、なぜかと聞かれたら答えに困ります。もしかしたらもっと早く結婚していたかもしれないし、ずっと結婚しなかった可能性もある。結婚しない決定的な要素が何かは、本人たちに聞いてもなかなか答えが出ないのではないでしょうか。

水無田 「今の若者は結婚しない」と嘆いている人の多くは、1970年代の高度経済成長期の感覚を引きずっているのでしょう。当時は生涯未婚率から逆算すると、一番高いときで男性98%、女性97%が一生に一度は結婚していた。先進国でも驚異的な婚姻率で「皆婚時代」と言われ、結婚していない人には何らかの理由や原因があると考えるほうが普通でした。70年代の日本人は、何も考えなくても適齢期になるととりあえず結婚していったわけですが、今は何も考えなければ結婚しないという状況になっている。

はあちゅう 頑張らないと結婚できない、みたいな感覚はありますね。

趣味や仕事は成果が見えやすい

水無田 「嫌婚派」は、最も大事にしたいものは「趣味」だと答えた人が多かった。結婚すると生活を変えなければいけないことが透けて見えるから、おもしろい仕事や一人でいる自由など優先順位の高いものがあると、なかなか結婚が優先順位の第1位にはならない。

はあちゅう 趣味や仕事は、成果が見えやすいからおもしろいのだと思います。ゴルフや料理って、かけた時間やお金に成果がついてきて、どんどん上達していきますよね。でも恋愛は頑張ったぶんだけ返ってくるものではないし、成果や成長も見えづらい。成果主義が浸透した社会でみんな「自己成長マニア」みたいになってしまっていて、フェイスブックでも、投稿内容の質よりも「いいね!」の数を気にしている。そういう気質の現代人からすると、恋愛はコスパが悪いととらえられてしまうのかも。

はあちゅう/1986年生まれ。ブロガー、作家。 慶應義塾大学在籍時にカリスマブロガーと呼ばれる。電通、トレンダーズを経てフリー。著書に『半径5メートルの野望』など。

成果主義時代のコスパ感覚

水無田 結婚もまさに、成果主義を阻むものですね。相手ありきだから、自分でコントロールできる人生の領域が狭まる。子どもができるともう、しっちゃかめっちゃか。仕事をしながら結婚して子どもを2人産んで、仕事も家事も育児も完璧にやろうとしたら、一人でいたときの自由な時間がほぼ灰燼に帰すくらいに生活が変わってしまうわけで、多くの女性が「時間貧困」に陥ってしまいます。男性のほうも、稼いできたお金を自分の趣味だけには使えなくなる。日本の世帯はお小遣いシステムが圧倒的に多いので、月3万円程度のお小遣いと称する小銭で生活することになるなら、それまで趣味に打ち込んできた人からすると「結婚はコスパが悪い」ということになると思います。

はあちゅう 自由や成長という犠牲を払ってまで結婚するのだと考えたら、結婚相手に求める理想が高くなるのは当然ですよね。 

70年代は「お膳立て婚」だった

水無田 経済が右肩上がりで「皆婚」だった時代は、はっきり言って、誰を選んでもハズレがなかった。誰と結婚しても、夫が働き、妻は専業主婦で、子どもを2人ほど育て、家を建てて......といった安定した生活が待っていた。となると、それほど真剣に選ばなくても、周囲の人たちにお膳立てされるままに、多くの人たちは結婚していったわけです。お見合い結婚と恋愛結婚の数が反転したのは60年代半ば以降ですが、70年代の「皆婚時代」は果たして本当に恋愛結婚ばかりだったのかというと、かなり疑問が残ります。

田中 今のように何人か付き合ってから見定めるという恋愛スタイルもなかったでしょうし。

水無田 お見合い結婚と恋愛結婚の中間くらいの「お膳立て婚」だったのでは。企業は社員のお嫁さん候補として、未婚のお嬢さんを「お預かり」する感覚で採用し、同じ"いけす"の中で職場結婚して、上司が仲人になっていた。女性にとって結婚は「生活保障財」で、愛のために結婚したという人は少数派のはずです。それなのに、結婚には大恋愛が必要だという前提が、なぜかまかり通っていませんか。

大恋愛をしたという見栄

はあちゅう 本音はどうあれ、大恋愛の末に結婚したという建前は必要なんじゃないですか。結婚って「一生守ります」と誓いを交わせるくらい好きな相手が一瞬でも存在した証しになるからです。自分は一生続くほどの大恋愛をしたんだ、という見栄のようなものがあるのでは。

田中 なるほど。自由に恋愛をしていい社会で、大恋愛を経験したことがないというと成果が出せていない印象があるし、「あの人には愛される能力がない」「愛する能力がない」といった否定的なイメージも持たれがちですよね。

水無田 一生涯、安定した愛情を抱けないと、欠陥人間のように見られてしまうのは大きな問題ですね。だって恋愛って、うんと能力がいるものじゃないですか。90年代に恋愛結婚の前提がいよいよ本格化し、今は9割以上だと言われますが、「お膳立て婚」から「自己責任婚」になり、自分の責任で相手を探すようになってきてからは、結婚相手の理想像に対するこだわりが強くなり、妥協できなくなってきているように思います。

はあちゅう SNSなどで他人のスペックが見える化されるので、勤め先やファッションがどうとか、イクメンになりそうな人がいいとか、最高の理想像を頭の中で思い描いてしまいがち。

理想のハイパーインフレ

水無田 今年6月に週刊誌AERAが実施した独身男子の座談会でも、結婚相手に対する理想は「ハイパーインフレ状態」だと感じました。「共働きしたいので意識が高い人がいい」(37歳、サービス業)とか「社会常識のある自立した女性が理想」(36歳、コンサルティング会社勤務)とか。女子磨きを適度にとどめている「原石級」の女性がいい、とまで! つまり、男性には年収や学歴、女性には容姿や家事能力といった条件にプラスして、お見合いの釣り書きには書かれないような能力を求めている。やはり相手に対して恋愛感情が湧かないと結婚はしたくない、ということと深い関連があるようです。

はあちゅう 大恋愛の末に結婚したいという理想はあるけど、結婚したいくらい情熱的になれる相手が見つからない。女性誌の恋愛特集には「何年も彼氏がいない"日照り続き"の女子はどうすれば恋ができますか」というものが多くて、やっぱり自分の時間が楽しくて、相手のことを考える時間が削られるから、恋愛しづらい。恋愛の末の結婚がよしとされているのに、まず恋愛ができない。

水無田 恋愛を経ねばならないプレッシャーというのが、かえって結婚を遠ざけていますよね。「お膳立て婚」から「自己責任婚」になり、相手のことを自ら調べて「恋愛するに値する相手かどうか」を、SNSなどさまざまな情報から確認するところから始めなければならない。

はあちゅう 知らなくていいことまで知ってしまったり、余計な情報も入ってきたりしますよね。

SNSで恋愛力が試される

水無田 SNSの衆人環視のもとで恋愛や結婚の能力が試され、欠陥のある相手を選ぶと「情弱(情報社会に疎い人)だ」と見下されてしまう現実があります。第1志望の大学や企業に入れなくてもそれなりに人生を頑張れるけど、恋愛や結婚がうまくできない人間だとみなされるのはつらいことです。周りの目を意識するからこそ、相手の理想がどんどん上がっていくのでしょう。

田中 それもあるでしょうが、本当に結婚したくて高い理想を並べているわけではなくて、単なる「言い訳」なんだと思いますよ。僕は冒頭から言っているように、結婚しない理由は特にないのだと思っています。「なぜ結婚しないの」と聞かれて「何となく」と答えるよりは「理想の相手が現れないから」と答えたほうが、周りの人に納得してもらいやすい。だから理想を高く設定し続けなければならないんでしょう。

「男性不況」の到来

水無田 サラリーマン世帯でも共働きが多数派となった今、結婚したからといって男性が大黒柱の役割をひとりで背負わなくてもいいはずだと思うでしょう。ところが現実は、女性の6割は非正規雇用。年間を通じて給与所得がある女性でも7割が年収300万円以下です。子どもを産むと正社員だった女性でも6割が離職し、無収入になります。女性が出産後も仕事を続けるのは難しいから、何としてでも安定した稼ぎがある男性と結婚したい、という方向に流れていく。女性にとって結婚が「生活保障財」である状況が変わらないのです。20代、30代の男性の給与水準が下がっていて、昇給もかつてのようには見込めないという話を大学の授業ですると、女子学生の反応は「私もしっかり稼げるようになろう」ではなく、「大変、そんなに優良物件が減っているんだったら、もっと婚活を頑張らないと」です。

はあちゅう 以前テレビ番組で女子大生と結婚やキャリアについて話したとき、結婚後は仕事をしたくないという専業主婦願望が思った以上に強くてびっくりしました。都内の大学に通っている女子学生でそのくらいなら、地方はもっと多いだろうと。

水無田 最近は、製造業など男性向けの職場や雇用が減る「男性不況」で、女性の就業が多い医療福祉などの第3次産業が全就業者の7割を占めています。今年度の大卒新卒者の内定割合は女子が男子を上回りました。それなのに、女性が出産してからも働き続ける環境が整っておらず、育児の担い手は母親だという価値観が根強い。職場でも育児の場でも「ジェンダー・セグリゲーション(性別分離)」が高い、つまり男女で役割の差が大きい社会が続いています。

田中 学生時代までは男女の差を意識せずにきたのに、就活や仕事、結婚で男女差を思い知らされるという話はよく聞きます。

田中俊之(たなか・としゆき)/1975年生まれ。武蔵大学社会学部助教。 「男性学」を専門とする。著書に『<40男>はなぜ嫌われるか』など。

水無田 結婚・出産・育児をしている先輩たちが突然、ジェンダー・セグリゲーションの高い社会に放り込まれて右往左往する姿が、若い世代に結婚に二の足を踏ませているのかもしれません。政府は女性活躍を推進していますが、女性が職場に進出していくなら、同時に男性の地域社会や家庭への進出も促さなければなりません。

ない袖は振れない男

田中 大学生にデート中の食事の支払いについて調査すると、男子の半数が全額もしくは自分が多めに払ったほうがいいと答えました。一方、女子は4分の3が割り勘か自分が食べた分を支払えばいいと答えています。結婚するための費用は、結婚式、結婚指輪や婚約指輪、新婚旅行などをゼクシィの言う通りにそろえようとすると600万~700万円はかかります。これらを自分で払えないのに結婚するわけにはいかない、とプレッシャーを感じる男性もいるのではないでしょうか。「ない袖は振れない」と言いますか。

はあちゅう いまどき、そんな気概のある男性、いますか?

田中 気概というか見栄ですね。女性がしたいことを尊重するというより、俺がこうしてあげたいということですから。女性に気持ち良く結婚式をさせてあげられない俺、結婚指輪を買ってあげられない俺には結婚する資格がない、と。

水無田 経済的なことだけでもないようです。前述のAERAの調査をさらに分析すると、女性は男性のほうからアプローチしてほしいと考えているし、男性は自分が気に入った女性を口説いて付き合いたいと思っていました。

払ってほしい女

はあちゅう そうであってほしいですね。

水無田 え、はあちゅうさんも?

田中 プロポーズされたい?

はあちゅう されたいです。

田中 へえ~。自分からではダメなんですか?

はあちゅう はい。何となく合意があったとしても、プロポーズはしてほしい。デートでも男性に払ってほしい派です。昭和の男性像に惹かれるんです。ネットでそう書くとたたかれますが(笑)。

水無田 調査結果と同じです。参考になりますね(笑)。今は男女とも自分と同レベルの学歴、職歴の相手と結婚したいという「同類婚志向」が進んでいて、男女の年齢差も初婚は平均1.7歳差と縮んでいますが、やっぱり男性が「半歩先」。年収差も、飲食の割り勘比率も、近接はしてきていますが、同等にはならないんですね。結婚観や恋愛観が「昭和レジーム離れ」をするには、時間が必要ですね。

田中 そこは論理ではなく、感情や志向の部分なので、なかなか変わらないですよね。

はあちゅう 恋愛中って相手を減点方式で見てしまいがち。子育てしてくれなさそう、家事してくれなさそう、だから結婚できないかも、と減点しながら見定めるわけですが、結婚したら相手を加点で見ないと、自分が負け犬になったような感覚になってしまう。だから結婚によって、相手との関係を前向きに考えられるようになる気がします。

水無田 私は夫と大学院生時代から9年くらい付き合っていたんですが、入籍したほうが各種控除を受けられてお得だし、生活費や資料代も折半できると説得されて結婚しました。

はあちゅう コスパですね(笑)。

水無田 2人とも非常勤講師で、大海の荒波を手漕ぎボートで進むような生活から少しでも楽になりたかったからですが、結婚してしまうと「これは愛がないと続かない」と実感しました。愛かコスパの二択というよりは、両方のバランスがそれぞれの夫婦に必要だと思いますね。

恋愛と結婚は両立しない

田中 恋愛は感情だからコントロールできないものなのに、それを結婚という制度に押し込めてコントロールしようとするわけですから、そもそも恋愛と結婚は両立しない気がします。結婚には安定性が求められるが、感情は不安定だし人間関係も不安定。そこに窮屈さを感じるのは当然では。結婚と恋愛の中間くらいの形態でお墨付きがもらえるようなものがあるといいですよね。

水無田 愛という移ろうものが、たった一人の相手に死ぬまで永続するという前提が結婚ですよね。愛ゆえに結婚するなら、愛がなくなったら離婚するのが誠実だという考え方もあります。

はあちゅう フランスのPACS(連帯市民協約)のような「ユルい結婚」がいい。日本では結婚にまつわる手続きが面倒すぎます。例えば姓が変われば法人登記している会社の代表名も変えなければいけないし、株の名義変更、パスポート再発行など、さまざまな役所や機関に出向いて手続きをしなければいけない。

田中 2人とも姓を変えなくても結婚に似たようなものを選択できれば、手続きの面倒さが省けるということでハードルは下がるのかもしれません。

水無田 それでも日本では教会や宗教の縛りがあまりないから、結婚自体は書類が受理されさえすればできます。結婚を重荷にしているのは、手続きの問題よりも「規範」では? 女性のほうが男性の姓に変える慣例や、「一家の大黒柱」と「専業主婦」になるというテンプレートに対するプレッシャーが大きい。かつ、大恋愛の末の結婚でなければならない、といった「規範」が先立っている。

田中 かくかくしかじかのことをしなければ結婚だとはみなさない、という厳しさがありますよね。

結婚したら勝ち?

はあちゅう 結婚しなくても不都合はない、と思いたいですが、恋愛コラムを書いていると、「結婚もしていないくせに恋愛を語るな」などと批判されることが多い。結婚しなければ説得力がないとみなされるのはすごく悔しいですね。結婚が「勝ち」だと考えている人があまりに多いから、結婚という型にはまったほうが楽だと感じることがあります。社会人がスーツを着るのは、スーツを着ない人が少数派なので「なぜスーツを着ないのか」と聞かれるよりも、着たほうが楽だから。それと同じで「なぜ結婚しないのか」と30代後半や40代でずっと聞かれ続けるくらいなら、とりあえずしておくか、という動機で結婚するかもしれません。結婚したくてたまらない、というロマンチックな動機とはほど遠い。

田中 結婚が「勝ち」で、テンプレートの家族が幸せだというイメージが強いから、未婚者や離婚経験者のことをたたきやすい風潮がある。叩いている人たちに考えてほしいのは、自分がそうなれなかったときに自分で自分をいじめる状況をつくってしまっているということ。家族の定義を狭めておくことは、そこから外れた人をたたいてスッキリすること以外に、誰にとってもメリットはありません。

水無田 家族の一員や会社の正社員といった「所属」はあっても、内実はけっこう乖離していることもあります。結婚していても家庭内別居状態で仮面夫婦を続けるような形は昔からあり、かつてはそれに耐えなければならない重圧も強かった。今はその重圧はかろうじて軽減されてきているけれども、それで得られるものはかつてほど大きくはない。自分の自由な時間を犠牲にしなければいけなかったり、給与水準が下がっている中で一家を支えなければいけなかったり。男性も女性も旧来の昭和的な家族観にこだわっていると、負担ばかり重くて、幸せになれる可能性は高くなくなるような気がします。

田中 では新しい夫婦像は何かというと、大人がわかっていませんよね。大黒柱ではない男性の生き方や、専業主婦ではない女性のあり方のモデルを示せていない。子どもの頃から見ている「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」などのアニメや、洗剤や食品のCMは、いまだにサラリーマンと専業主婦の夫婦モデルが主流のままです。そんな環境で若者が勝手に「新しい夫婦像はこれだ」というものを出してくることは考えにくい。ではこれから結婚はどうなっていくかというと、自分たちなりに心地いい家族をそれぞれにつくっていくしかないと思う。一人で生きていきたい人は独身でいればいいし、結婚したい人はすればいいし、自分の母親とうまくいっているのであればそれも家族だし。

仕事から逃避婚

はあちゅう 結婚って宗教のようですよね。みんなが結婚によって幸せになれると信じているから、自分も信じることで救われる、みたいな。あとは人生に何らかの区切りやリセットができるような期待とか、仕事がつまらなくなったときの逃避とか。どれも結婚そのものの魅力とはいえないように思います。

田中 だいたい、結婚していない人をワーワーと責めたり急かしたりすること自体が、結婚というものが弱体化していることを証明しているじゃありませんか。僕は結婚に「ありがとう」、「お疲れさま」と言いたい。プロ野球のどんなスーパースターだって、いつか引退する時がくる。かつてスターだったからといって常にポジションを用意しておくとチーム全体にすごく迷惑がかかってしまいます。もちろん結婚もかつてはスターだったが、今の日本においてスターであり続けることはできない。まだ引退はしなくていいけれど、中心選手ではないということをわかっていただいて「ありがとう」とみんなで伝えて、徐々に引退への道を示していけたらいいですよね。

水無田 人間は、自分の幸福の源泉だと信じているものを捨て去ることがなかなかできない。それが形骸化していたとしても認めたくないから、旧来の結婚観・家族観という怪物がずっとうごめいています。しかし、その結婚観がどのように生まれたかというと、多くの人が主体的に選択した結果とは言いがたいように思います。70年代の「皆婚時代」に結婚について客観的に考えていた人がどれほどいるでしょうか。今の若い世代のほうがよっぽど、恋愛や結婚について真剣に考えざるをえない状況にあるように思います。それなのに「皆婚」のプレッシャーから自由になる一番の方法が結婚することだというのは、すごく矛盾していますし、悲しい現実ですよね。

動画(約12分)


Yahoo!ニュースと週刊誌AERA(朝日新聞出版)は共同企画「みんなのリアル~1億人総検証」をはじめました。身近な問題や社会現象について、AERA編集部の取材による記事に動画を組み合わせてわかりやすく伝え、読者のみなさんとともに考えます。今回のテーマは「結婚は愛かコスパか」。5回の連載の中では、読者のみなさんからのご意見も紹介していきます。意識調査にもぜひご協力ください。Facebookやメールでコメントをお寄せくださった方には、AERA編集部から取材のお願いでご連絡させていただく場合があります。
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映像監修:古田清悟

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