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服もミニマリストが主流に ~フォーエバー21撤退の理由~

米澤泉甲南女子大学教授
ファストファッションブームの立役者だった。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

流行語大賞もファストファッションだった

 フォーエバー21が10月末で日本から撤退する。国内に展開する14店を閉店し、ECサイトも閉鎖するという。

 流行のファッションを誰もが気軽に楽しめる。お金をかけなくてもおしゃれができる。ファッションを民主化したと言われるファストファッションの代表格がフォーエバー21だった。高いファッション性と流行を取り入れた幅広いデザインに定評があり、2009年4月の上陸時には原宿の店舗に開店前から長蛇の列ができた。

 2008年にすでにオープンしていたH&Mなどとともにファストファッションブランドの大型店は原宿、銀座といったファッションの街を塗り替えていった。それに伴い「ファストファッション」という言葉も広く使われるようになり、2009年の「新語・流行語大賞」ではトップテン入りを果たすほどの社会現象となった。

 しかし、それから10年でフォーエバー21は日本市場からあっけなく消えてしまう。なぜ、一世を風靡した人気ブランドが、ここまで凋落してしまったのか。そこには単に流行が移り変わっただけではない理由が存在するのではないか。

時代は「ユニクロでよくない?」へ

 ファストファッションが話題になり始めた2008年は、「エビちゃんOL」で人気に火がついた蛯原友里を起用した『AneCan』が創刊された年でもあった。巻き髪、ワンピースにハイヒールという華やかなモテ系ファッションがまだ人気継続中の時代だったのだ。

 エレガントでコンサバティブな女らしいファッションのOLがユニクロを日常的に着ることなどありえなかった。ユニクロを着ることは「ユニバレ」「ユニ被り」とまだ、さげすまれていたのである。

 しかし、2010年代も半ばに入った頃から風向きが変わってくる。ファッション誌が「ユニクロでよくない?」と言い始めたのだ。現在では、すっかりファッション誌でもデイリーブランドとしての地位を確立し、「ユニクロで30日コーデ」「ユニクロ通勤」は当たり前になっている。ユニクロ自体のクオリティやデザインが進化したことももちろんだが、ごく普通を意味するノームコアが注目されたことによりスニーカー、パンツ、デニムといったカジュアルなファッションが一般化したことも大きい。

 10年前までスカートにヒールの靴を合わせていた女性たちまでもが積極的にユニクロを身につけるようになったのだ。東日本大震災を経て、動きやすく、心地よい、エフォートレスなファッションが求められるようになったことも挙げられる。

 フォーエバー21のように華やかで流行性が強いが、クオリティはあまりよくないブランドよりも、ユニクロのようにベーシックでシンプルかつクオリティも比較的高いブランドが好まれるようになったのだ。アスレジャーなども注目される中、機能性も改めて重視されるようになった。

ファストファッションからスローファッションへ

 さらに現在は服を所有することが敬遠される時代だ。『服を買うなら、捨てなさい』『フランス人は10着しか服を持たない』『クローゼットがはちきれそうなのに着る服がない!』。

 ベストセラーにはいかに少ない服でシンプルなおしゃれをするかを書いた本が並んでいる。なるべくモノを持たないミニマリストがもてはやされる昨今、服を買うことよりも服を捨てることが流行していると言っても過言ではない。

 かさばる服をなるべく所有したくない、家にモノを置きたくないという人のために、エアークローゼットなどのサブスクリプションも充実している。所有するよりも共有することに人々の目が向き始めているのだ。

 毎週のように発売されるファストファッションを次から次へと買うようなことは敬遠されるようになった。エコやサステナビリティも意識されるようになってきた。いい物を長く使う「ていねいなくらし」もブームになる中で、ファストファッションの負の側面にようやく人々が気づき始めたのだろう。

 フォーエバー21が撤退を余儀なくされたのは、ファストファッションからスローファッションへと今、ファッションが転換期を迎えているからなのではないだろうか。

甲南女子大学教授

1970年京都生まれ、京都在住。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。扱うテーマは、コスメ、ブランド、雑誌からライフスタイル全般まで幅広い。著書は『おしゃれ嫌いー私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『筋肉女子』など多数。

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