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「睡眠薬を糖尿病治療に使えると誤解与えた」 NHKガッテン! 番組HPで謝罪

楊井人文弁護士
NHK総合2月22日放送「ガッテン!」のワンシーン(画像を一部加工しています)

NHKは2月22日放送の生活情報番組「ガッテン!」で、「睡眠薬で糖尿病の治療や予防ができる」などの行き過ぎた表現で誤解を与えたとして、26日夜、番組のホームページに「深くお詫び申し上げます」との謝罪記事を掲載した。NHKには放送直後から「睡眠薬の不適切な使用を助長しかねない」と批判が寄せられていたといい、インターネット上でも医療現場から問題を指摘する声が出ていると報じられていた【追記あり】

NHKガッテン!番組ホームページの謝罪文(一部)
NHKガッテン!番組ホームページの謝罪文(一部)

問題の放送は「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」と題して、熟睡で血糖値が改善することや必要な睡眠時間などについて医療研究の成果を交えて解説する内容。だが、番組内では「睡眠薬で糖尿病が治療できる」というテロップなどがあり、糖尿病治療のために睡眠薬を推奨するような場面があった。この点について、NHKは「行き過ぎた表現や短絡的な表記があり、あたかも睡眠薬を糖尿病の治療や予防に、直接使えるかのような誤解を与えてしまいました」と問題を認めた。

また、番組では睡眠薬の名前が特定できる映像や「副作用の心配がなくなっている」といった説明もあった。こうした点についても「あたかも番組や病院が、この薬だけを推奨しているかのような印象となってしまい、配慮に欠けていました」「運動障害の副作用は少ないとはいえ、悪夢や頭痛などの別の副作用は報告されており、大変不適切でした」と記した。

そのうえで、「睡眠障害の治療には、生活習慣の改善など様々な選択があり、睡眠薬を使用するかどうか、どの種類の睡眠薬を選ぶかなどは、かかりつけの医師や睡眠専門の医師の判断に従ってください」と呼びかけ、「この混乱を招いてしまった原因は、ご出演して頂いた専門家ではなく番組にあります。お詫び申し上げます」と書かれていた。批判の高まりを受け、3月1日の次回放送前を待たずに謝罪した。

「ガッテン!」は前身の「ためしてガッテン!」を含めると約22年続く長寿番組。現在は毎週水曜の夜(NHK総合)に放送されている。

【追記】「学術団体として看過できない」関係2学会が見解

日本神経精神薬理学会と日本睡眠学会は2月27日、今回の番組について「学術団体として看過できない問題点が確認された」として、同じ内容の見解を各学会のホームページで発表した。日本神経精神薬理学会事務局によると、同日、NHK宛てにメールと郵送で見解を送付したという。

見解では、「番組で取り上げられた睡眠薬については、既存の臨床試験データにおいても血糖降下作用は確認されていません」とし、「根拠に乏しい効能効果を視聴者に向けて強くアピールしており、糖尿病患者に過大な期待を持たせたばかりか、医療現場での混乱を招いています」などと厳しく批判。経緯の説明や訂正などの対応を求めた。

日本神経精神薬理学会の池田和隆理事長兼執行委員長(東京都医学総合研究所)は、日本報道検証機構の取材に応じ、学会の見解は26日にNHKが番組ホームページで表明した見解や謝罪も踏まえて、発表したものだと説明。「今回、NHKはかなり迅速に対応し、主な問題点にも言及しており、一定の評価はできる。放送に至った経緯も含め、我々が提起した疑問点についてもきちんと検証して回答してほしい」と話している。(NHKにも見解を求め、回答があり次第、追記します。)

(*)日本睡眠学会ホームページに掲載された見解

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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