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「避難命令」が一番強い避難情報ではありません。

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

■一番強い避難情報は?

避難準備情報、避難勧告、避難指示、避難命令。さて、この中で一番強い避難情報は何でしょう?

答えは、避難命令?

ブブー。不正解です。

実際に学生に質問したところ、「避難命令」という答えがたくさんありました。この問題はちょっと意地悪な質問ですよね。ありもしない「避難命令」を選択肢にいれていますから。

でも、避難命令が一番強い避難情報だと思い込んでいたら、避難指示が出ても、「まだ避難命令は出ていない」と誤解しかねません。

■避難情報の種類と名称変更

避難情報の種類は4つ。ついこの間まで、市民はこの4種類の違いを当然わかっているものとして、情報が出されていたように思います。しかし、現実は違いました。たとえば平成28年には、老人施設の職員ですら「避難準備情報」の意味を知らず、9名もの高齢者に犠牲が出た災害もありました。

避難勧告と避難指示がどちらが強いのかを知らないのも、特別に情報にうとい人ではなく、普通の人でもいくらでもあることでしょう。

そこで、避難情報に関する名称の変更が行われました(平成28年12月26日公表)

  • 避難準備情報は、「避難準備・高齢者等避難開始」に、
  • 避難勧告は、そのまま変更なしで「避難勧告」
  • 避難指示は、避難勧告との差をわかりやすくするために「避難指示(緊急)」です。
  • そして、日本には避難情報としての正式な「避難命令」はありません。

■避難準備・高齢者等避難開始 避難勧告 避難指示(緊急)

「避難準備・高齢者等避難開始」は、この先「避難勧告」や「避難指示(緊急)」が発令されることが予想される場合に出されます。だから、避難の準備をしましょうと言う意味です。ただし、高齢者や障害を持つ人など、避難することが困難な人は避難を開始しましょうという情報になります。

「避難勧告」の「勧告」も、日常生活ではあまり使わない言葉ですね。勧告は、国語辞典的には、誰かにこうした方が良いと公的なしかたで告げて勧めるという意味です。「おすすめ」と表現すると軽い感じがしますが、勧告はかなり強い勧めで、従うべきものというニュアンスがある言葉でしょう。

避難勧告は、「災害による被害が予想され、人的被害が発生する可能性が高まった場合」に出されます。意味合いとしては「速やかに避難しましょう」です。ただし、避難所に避難するのではなく、状況に応じた避難行動が求められます。

「避難指示(緊急)」は、「災害が発生するなど状況がさらに悪化し、人的被害の危険性が非常に高まった場合」に出されます。緊急に避難しましょう、避難所に行かなくても自宅内でも急いでより安全な場所に行きましょうという意味です。

■避難命令はなぜないのか

日本には「避難命令」という制度はありません(「警戒区域指定」され「立ち入り禁止」「退去命令」が出されることはあります)。国によっては避難命令があり、無理に避難させられたり、避難しないと処罰されることもあります。日本は、そのような無理強いはしないということです。

実際に避難行動を取るときには、様々なことを総合的に判断しなければなりませんから、その地域全体に「避難命令」を出すことは、難しいのでしょう。

ただし、正式な避難命令という制度はなくても、避難命令という言葉はわかりやすい言葉です。そこで、防災放送などでは「避難命令」という言葉が使われて、迅速な避難ができてこともありました。

■避難情報の使い方

正式な用語というものは、いい加減な使い方はできません。しかし、どれほど正しく正確な言葉でも、その意味が私たちに伝わらなければ「情報」としての価値はありません。

災害など緊急事態発生時には、周囲に様々な情報があふれます。そうかと思うと、行政が届けたいと思った情報がなかなか伝わらないこともあります。あまりにも状況が急変すると、避難準備も避難勧告もなしに、いきなり避難指示(緊急)が出されることもあります。

私たちの周りには多くの情報があるはずです。テレビ、ラジオ、スマホ、インターネット、防災無線など。たとえば、新潟市のホームページには、次のように情報伝達手段一覧が掲載されています。

防災行政無線(固定系)・緊急速報メール(エリアメール)・にいがた防災メール・緊急告知FMラジオ・新潟市緊急災害情報ホームページ・Twitter・テレビデータ放送・ヤフー避難情報・ホームページ代理掲載。

そして「情報」は、行政やマスメディアが流すだけではありません。

雨の激しい音。裏山から水が湧いたり、小石が落ちる音。高齢者が語る昔の災害の話。近所の人々の声などなど。

ある地域では、いち早く土砂崩れの前兆を察知した人が、近所の人々に声をかけ、みんなで難を逃れることができました。

東日本大震災の後、多くの人に聞いた話です。

「自分はまったく逃げる気はなかったのだが、近所の人にしつこく「避難しよう」と言われて避難して命拾いした。無理に引っ張ってくれなかったら、自分は死んでいた」。

有用な情報は、様々な場所にあるのでしょう。逃げ遅れず、また慌ててパニックにならず、自分とみんなの命を守って行きたいと思います。

「避難命令」はありません。「避難指示(緊急)」が、一番強い避難情報です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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