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着々と進む運転再開の道のり。JR北海道各線

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
原野の中を延々と走る線路。 根室本線(筆者撮影)

地震による停電などの影響で運転ができなくなっているJR北海道の各路線ですが、運転再開予定がJR北海道のホームページで公開されています。

JR北海道 運転再開見込み

私はかねてよりJR北海道という会社の現場力はかなり高い水準にあると考えています。その理由は、冬、雪が降る中できちんと列車のオペレーションを行うことができる会社だからで、東京や大阪の鉄道では雪が10センチも降ろうものなら大騒ぎになっているのに、北海道は雪が降る中できちんと列車を走らせていて、それも、夏ダイヤ、冬ダイヤなどなく、雪が降る冬期間でも列車は夏と同じダイヤで走行しているのですから、これにはかなり高い現場力があるということがわかるわけです。

そういう高い現場力というのは、職員一人一人の輸送を支えるという使命感の表れでもあるわけですが、それだけの使命感と現場力がある会社が、どうして経営危機なのだろうかと常日頃から思っているのでありますが、JRの経営危機の問題はさておき、今回の大地震の復旧の過程を見ていると、やはりこの会社の底力というものを感じるわけで、そういうことを北海道の皆様ばかりでなく、全国の方々に知っていただきたくこのコラムを書いております。

JR北海道各線の運転再開予定情報(JR北海道のホームページより抜粋)
JR北海道各線の運転再開予定情報(JR北海道のホームページより抜粋)

さて、ではJR北海道の何がすごいかというと、ひと言で簡単に路線の復旧、運転再開と言いますが、広大な北海道の大地を走る鉄道は、本州に住む私たちの想像を超えるスケールでありますから、線路を点検すると言っても容易なことではありません。

例えば、函館から札幌までの距離はどのぐらいあるかご存知でしょうか。

スーパー北斗が走る東室蘭経由で318kmです。

これは、東海道新幹線に換算すると東京から愛知県の豊橋を通り過ぎて三河安城の手前ぐらいの距離です。

札幌から最北端の稚内までの距離は約400km。合わせると東京からほぼ岡山までの距離に匹敵します。

また、札幌から東へ向かって根室までは約480kmですから、こちらは東北新幹線で東京から北へ向かって岩手県の一ノ関よりも遠い距離になります。

その他、函館線や石北線などを合わせると鹿児島から青森までの新幹線の距離以上の距離になりますが、これだけの距離の、それも在来線を

全路線くまなく点検しなければ運転再開できないわけです。では、そのJR北海道にどれだけの職員がいるかといえば、経営危機にある会社ですから決して十分な人数ではないはずで、各所で手分けしながら一つ一つの踏切や信号機の動作確認を行っているということになります。

復旧作業の状況を見ると多くの区間で「レールの研磨および踏切設備の点検及び動作確認を実施」と書かれていますが、地震発生直後の停電から数日間列車が走っていませんので、レールの表面が当然錆びています。前回のニュースでも書きましたが、レールの表面が錆びるとどうなるか。線路には様々な電気的な回路が設置されていて、例えば列車検知システムや踏切鳴動スイッチなどが、列車が走ることによって電気的に感知されて作動する仕組みになっています。ところが線路が錆びているとその回路が働かない可能性が出てくるわけです。

そうなると、列車が区間内を走行中なのに走っていないことになったり、踏切に列車が近づいてきても踏切が作動しない危険性が出てきます。そういうことを一つ一つ調べて確認しなければならないのです。全長2000km以上の全区間を、限られた人数で。

これは、やはり素晴らしい現場力があるということ以外の何物でもないわけです。

列車の感知システムは、右の線路と左の線路を車輪が短絡させて作動します。都市部の鉄道であれば列車は長編成ですから、1両に4つの車輪が付いているということは、10両編成であれば40個の車輪が付いています。もし、線路が錆びていたとしても、前の車輪が線路の錆を取りながら後ろの方の車両の車輪が一つでも短絡させることができれば電気回路を作動させることができますが、ローカル線というのは1両の列車ですから、信号回路や踏切回路が本当に作動するのかどうか、というようなローカル線ならではの不安材料も出てきます。そういうことが安全に直結してきますから、運転再開の前には、そういう不安材料を全部消して太鼓判を押す必要があるのです。そういう作業を原野の中や野生動物が出没する深い山の中まで、すべての路線で確認していくのですから、本当に大変な作業ですね。

こういう確認作業を一つ一つ片づけて行くことを、鉄道マンたちは使命感を持ってやっているのです。

私は別にJR北海道の回し者ではありません。

私のブログ等をお読みの皆様には、私はJR北海道に対してかなり高度な歯がゆさを抱いている人間であるということはすでにご存じかと思いますが、それはJR北海道という会社の経営に対する歯がゆさであります。昨今、いろいろ風当たりが強いJR北海道ですが、現場で働いている職員の皆様方は、鉄道輸送を支えるために絶え間ない努力をしているということを、地域の皆様方はもちろん、全国の皆様にもご理解いただきたいというのが私の考えです。

「うちのお父さんはJR北海道に勤めてるんだぞ。」

子供たちが胸を張って誇れる仕事をお父さんたちはしているのです。

それが鉄道マンの仕事です。

運転再開までの道のりには、そういう鉄道マンたちの見えない姿があるということを、ぜひ、ご理解いただきたいと思います。

花咲線の線路。こういう路線をしっかり守る鉄道マンの姿はなかなか乗客が目にすることはありませんが、そういう方々の地道な努力に支えられているのが鉄道なのです。(2018年4月 筆者撮影)
花咲線の線路。こういう路線をしっかり守る鉄道マンの姿はなかなか乗客が目にすることはありませんが、そういう方々の地道な努力に支えられているのが鉄道なのです。(2018年4月 筆者撮影)
えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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