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心ふるわせる歌声が、デビュー前から話題 次代の歌姫・草ケ谷遥海の素顔

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「私は日本人が誇れるシンガーになりたいから、J-POPで世界に挑戦したい」

今年1月3日に日本テレビ系でオンエアされた、『第5回全日本歌唱力選手権 歌唱王』で、惜しくも優勝を逃したが、彼女が披露した「Listen」(ビヨンセ)は、その圧巻の歌声、圧倒的な表現力で視聴者をくぎ付けにした。ネット上でも「TVの前で号泣した」「鳥肌立った」「点数とかどーでもいいくらい感動した」と、絶賛の声が飛び交い、その実力を世に知らしめた――草ケ谷遥海(くさがや・はるみ)21歳。日本が世界に誇るシンガーになる可能性を大いに秘めた、次世代ディーヴァの素顔とは?

「『歌唱王』は応援してくれている人に、成長している姿を見せたかったので、あの場で歌えただけで幸せだった。でも負けた事は悔しい」

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「悔しかったです。勝ちたかったというより、今までたくさん練習してきて、成長した姿、結果を、昔から応援してくださっているお客さんも含めて見せたかった。決勝で歌った「Listen」は、何回も喉を壊して歌えるようになった曲で、それで勝負できたので、あの場で歌えただけでも幸せでした。でもやっぱり悔しかったですね。なんだかんだいって、自分、勝ちたかったんじゃんって思いながら(笑)、裏でめっちゃ泣いてました。思い出して、今も泣きそうです」。笑顔でそう語っていた草ケ谷は、大きな瞳に涙を浮かべながら、自信を持って臨んだ『歌唱王』での“ステージ”の事を思い出していた。歌へ賭ける強い想いと、負けず嫌いな性格をのぞかせた。

教会でゴスペルに、家でホイットニー・ヒューストンの音楽に出会う

草ケ谷は日本人の父と、フィリピン人の母を持つハーフで、生まれも育ちもフィリピンだ。幼い頃から習慣で、日曜日には親に連れられ教会に礼拝に通い、そこでゴスペル隊が唄う歌に出会い、衝撃を受けた。「こんなに大勢の人が歌って、色々な音が聴こえるのにちゃんとひとつになるんだって刺激を受けてしまって、3歳の時ゴスペルチームに入りました。教会の歌も覚え、家にあったホイットニー・ヒューストンのCDを聴いて刺激を受けたのもこの頃です」。三人姉妹の末っ子だった彼女は、勉強とスポーツができる姉達と、何もできない自分という思いがずっとあり、「面倒くさがり屋で、何をやっても続かないのに歌は違いました。心も体も自然に動くというか、人の前に立ちたいって思いました。歌だけは負けたくないという気持ちが、小さい時からありました」。そんな姉たちは今でも憧れだという。「お姉ちゃん達がいたから今の私がいる、いなかったら何もしていなかったかもしれません」。

「フィリピンから日本に来て、言葉が全然通じなくて、伝えたい事を伝える事ができなくて悔しかった。だからその分歌で伝えたいって思った」

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13歳の時から日本で生活を始めた。しかし言葉の壁に悩まされた。「日本語が全くしゃべれなかった。何もわからない状態で日本に来たので、親に何でこんなところに連れて来たのってめっちゃ拗ねてました(笑)。日本語ができないので、何も伝える事ができないのが悔しかった。伝えたい事を伝えられないのって、こんな地獄なんだって思いました。だから悔しかった分を、歌で伝えたいって思いました」。言葉が通じない歯がゆさが「日本語ができなかったから、日本語がわからない人にも伝わるような歌を歌いたい」という、彼女がシンガーとして最も大切にしている矜持は、この時の経験から芽生えていった。ちなみに日本のCDで最初に出会ったのは誕生日プレゼントとしてもらった青山テルマの「そばにいるねfeat.SoulJa」(2008年)だったという。「カッコいいこの人って思って。宇多田ヒカルさんもすごく好きで、初めて覚えた曲が「First Love」でした。「First Love」はフィリピンでも流れていたので、覚えて歌っていました」。

そして高校に入学し、徐々に日本語も覚え、様々なオーディションにエントリーするようになった。「フィリピンにいた時から『アメリカン・アイドル』とかオーディション番組を観ていて、自分もこういう場所に行きたいと思っていたので、日本に来て『X FACTOR OKINAWA JAPAN』があると知って、迷う事なく応募しました。自分がずっと強く思っていた事が、将来に繋がっているというか、強く願えば叶うんじゃないかって思って」。

「「X FACTOR OKINAWA JAPAN」に出場した事で成長できた」

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「X FACTOR OKINAWA JAPAN」(2013年4月~2014年3月)では、スーパー高校生として注目を集め、しかしオーディションの途中から、実力のある同世代の女子4人組グループ「Hey World」のメンバーとして、チャレンジを続ける事になった。もちろんソロ歌手でのデビューを目指して彼女にとっては、思いもよらない展開だった。しかしこのオーディションに参加した経験が、草ケ谷遥海という人間にとって、最高の財産になっている。「当時はただのわがままな17歳でした。変な自信があったのに、上手い人がまだこんなにいるんだって思い知らされて。でもそのままいいところまでいけるのかなと思っていたら、グループのメンバーになって。歌に関しては、本当にあの時が一番成長したと思いますし、人間としても成長できました。人を思うという事と、遠慮という事を覚えました。自分が自分がというよりも、足しすぎない事が、人の良さでもあるのかなという事を教えられました。それは人の優しさに触れたからです。生意気なので、もちろん時には怒られる事もありました。でもその時になんで怒られているのかという事を、きちんと教えてくれて。私は家では末っ子なので、年下の子を見ると「あぁ下か」という感じだったのですが、一緒に出ていた下の子達がすごく一生懸命で、それに感動して、年上の人たちは本当に気を遣って下さって、まさに日本の文化に触れる事ができました」。

日本に来た当初から、周りの人が草ケ谷に優しく接し、本人は人に優しくされる事が当たり前の事だと思い、感謝の気持ちが徐々に薄れていた。「人に優しくする事って、当たり前な事ではないという事を知りました。それを理解せずただただ生意気で、そういう性格は歌にも出るんだなって、昔の動画を観ると感じます。どこからこんな自信出てるんだろうって(笑)。だから歌は自分という人間の中身で変わると思いました」。

「パフォーマンスの前は、準備をしっかりしてその上で、ちゃんと成功させたいという気持ちからくる緊張が必要」

「X~」で注目を集めた草ケ谷はその後、「関ジャニの仕分け∞」(テレビ朝日系)「Theモーツァルト 音楽王No.1決定戦」(同)など、数々の音楽番組に出演。2014年に主演した「関ジャニ~」では台湾のカラオケ王、リン・ユーチュンに勝利し、話題を集めるなど徐々にその実力が世間に認められるようになってきた。負けず嫌いで、でも人前で歌う時は、それがどんな場所であろうとも、毎回極度の緊張と戦っているという。「リン・ユーチュンさんと戦う事になって、まず自分自身に勝とうと思いました。一番の敵が自分だから。だから自分ができないところを自分で克服できれば勝った気持ちになれるし、悔いも残らないと思って臨みました。緊張に負けてしまうと、全てが台無しになってしまいます。でも色々な緊張があるじゃないですか。練習不足からくる緊張、歌詞を覚えてないから緊張したり、でも練習もたくさんして、歌詞も覚えて、ちゃんと成功させたいという気持ちからくる緊張が、私は一番いいと思っていて。緊張は必要だし緊張しなくなったら終わりだと思う」。ストリートライヴでも、その向こうに何百万人という視聴者がいるテレビカメラの前でも、常に本番前はガチガチに緊張する。緊張すると饒舌になってずっとしゃべり続けているという。「このインタビューもそうです。ずっとしゃべってますよね(笑)。緊張している証拠です(笑)」。

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もちろん『歌唱王』の時は、その緊張がピークに達した。「失敗している自分の姿を想像して、嫌になってしまう緊張もあります。収録までにストレスが溜まって、歌に不安な部分もあったので、久々にボイトレの先生のところに行きました。『歌唱王』で歌う予定だった「Dreamin’」(JASMINE)を歌ったら、自分でも気になっているところを指摘され、「Listen」を歌ったら先生が泣いていて。また指摘されると思っていたら泣いてくれて、「上手いよ」って言ってくれました。で、私がずっと気にしていた事を言ってくれました。「自分を認めなさい」って。その時は自信をなくして不安だったので、できない事しか考えていませんでした。でもその時に一番必要な言葉をかけてくれて、「できないできないって思うのは大事だけど、やっぱりハングリー精神も大事だから」って。「自分ができるって思ったら成長なんてできないし、できないと思うのはいい。でもあなたはできるし、私の生徒の中で一番上手いんだから」って言ってくれて、それが自信に繋がりました。泣きました。ずっと自信を持って歌おうって思えなくて、上手く歌おうとばかり思っていて、それが自信に変わりました」。

「「Dreamin'」を聴いて、大丈夫じゃない自分がいても大丈夫なんだ、と言われている気がして、がんばろうという気持ちになれた」

彼女は本番当日、ボイトレの先生の言葉を自信に変え、全力でぶつかった。惜しくも負けはしたものの、決勝審査で歌った「Listen」では、番組史上最高得点を叩き出した。10代の頃は自分一人で何でもできると思っていたが、それができないことに気づいて、人からかけてもらう言葉のありがたみを実感している。「私は神様を信じています。日本に来た時もそうだし、これからも乗り越えなければいけない事がたくさんあると思う。でも、人は乗り越えられないものはないと思いました。必ず乗り越えられるから、その試練がある。それがあるからこそ、神様は私の周りには優しい人をたくさん引き寄せてくれる。人にめっちゃ恵まれています」。

草ケ谷が「歌唱王」で歌った「Dreamin’」も「Listen」も、夢に向かっている人に向けた応援ソングで、歌詞と彼女自身とがオーバーラップする、ある意味、草ケ谷のテーマソングともいえる。「「Dreamin’」は、まさに自分だって思いました。<ねぇ、まだ願えば叶うかな>というところは本当にそのまま自分の言葉のようだし、最後は<ねぇ、まだ願えば叶うから>ってなっていて、日本語の奥深さを知りました。この曲を聴いて、消えそうで消せなかった夢、見えそうで見えなかった夢、自分がダメな時があってもいいんだって思いました。大丈夫じゃない自分がいても大丈夫なんだよって言われているようで、がんばろうという気持ちになれました」。

「音楽は誰もが平等に楽しめるもの。耳や目が不自由な人にも、どうすれば届ける事ができるかを考えながらいつも歌っている」

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歌詞は、その意味はもちろん、作者がどういう気持ちで書いたのか、というところまでを深く考え、納得しなければ歌えないという。例えそれが自分に経験がないシーンでも、感情を限りなく近づけ、自分の体の中にきちんと入れ、何度も反芻し、歌う。その圧倒的な表現力は努力の賜物だ。「テクニックがあるからこそ、表現ができると私は思っていて、例えば語尾のわずかな吐息でも伝わり方が全然変わってくるし、自分がテクニックがあるとか、上手いと思われたいからとかではなく、伝わる歌にしたいから、テクニックは絶対必要だと思います。私がいつも気をつけている事は、音楽というのは、聴こえる人にしか楽しめないものではないという事。耳や目が不自由な人にもどうすれば届ける事ができるか、そして楽しんでもらえるのかという事をいつも考えて歌っています」。

「日本人が誇れるシンガーになりたいから、J-POPで世界に挑戦したい」

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テレビ番組などで、度々プロも唸らせるその歌は、国内はもちろん海外でも通用しそうなパワーがあり、日本人としては規格外のポテンシャルの草ケ谷。彼女の夢は世界に向いているが、まずは日本の音楽シーンでしっかりと記憶にも記録にも残るシンガーを目指している。「まずはメジャーデビューしたい。やっぱり日本で売れたいという気持ちが強いですが、大きくいえば世界に行きたい。日本人として海外に行きたい、日本人が誇れる世界的アーティストになりたいから、海外でも売れる曲が欲しいです」。世界中で受け入れられているK-POPに負けじと、J-POPを世界で歌い、発信していきたいという。「日本人って、歌となると自分の事を下から見すぎだと思う。『歌唱王』に出た時も、英語の歌を歌ったので「この人は(日本では)もったいないから、海外に行った方がいい」と言われ、それはそれで褒め言葉だと思いますが、日本人でも歌がうまい人は、メジャーにもインディーズ、アンダーグラウンドシーンにも、本当にたくさんいます。もう少しそういうシンガーを大切にして、音楽業界全体で応援して欲しいと思います。だから私は日本人が誇れるシンガーになりたいので、J-POPを海外に持って行きます」。

歌のうまさは言わずもがなだが、その強い志と魅力は人を惹きつけ、道をどんどん切り拓いていっている。3月11日(日)には、日本テレビ系の人気番組『行列のできる法律相談所 “気になる人大集合スペシャル第23弾!”』(21時~)に出演する。その歌は共演者を驚かせ、「心から歌っている」と大絶賛された。本人も「バラエティ番組に呼ばれる事を想像していなかったので、緊張しましたが、“気になる人”になっていたこと嬉しかったです(笑)」と語っているように、その実力を見せつけている。オンエアが楽しみだ。

4月19日Zepp DiverCityでのフリーライヴを実現させるために、クラウドファンディングに挑戦

道を切り拓いていっているという意味では、先日彼女は4月19日にZepp DiverCityで行うフリーライヴを「Road to Zeppプログラム」を使い、クラウドファンディングに挑戦すると発表した。この挑戦は、All-or-Nothing形式で100万円の支援が集まればフリーライヴは開催され、届かなければ、支援者からの支援は全て返金されるというもの。支援額に応じたリターンの内容も豪華だ。このライヴについて草ケ谷は「いつもの私ではなく、普段見られない草ケ谷遥海にしたいと思っています。みなさんに来てよかったって思ってもらえるように、自分が知らない自分を出せたらなと思っています。カバーはもちろんオリジナル曲も聴いていただきたいです」と意気込みを語ってくれた。

「SNSで届かないところまで届けたい」という思いで「死ぬ気で歌ってきた」草ケ谷遥海の歌は、伝わる

彼女はこれまでSNSやライヴを中心に歌を届けてきた。でも彼女は常に「SNSで届かないところまで届けたい」という想いで歌ってきた。ただ歌が上手いだけではない。素晴らしい表現力を駆使し、懸命に"伝える"。「死ぬ気で歌ってきた」。だから人に伝わる。彼女の歌を聴いた人は、確実に心を撃ち抜かれる。スケールの大きな規格外のシンガー・草ケ谷遥海の時代が今、始まろうとしている。

草ケ谷遥海オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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