Yahoo!ニュース

カツオ節は毒物?EUが輸入を認めない理由

田中淳夫森林ジャーナリスト

来年5月にイタリア・ミラノで開催される国際博覧会。テーマは「食」だ。

日本もその場を通じて、ユネスコ無形文化遺産になった「和食」を大いに広めたいところだ。

ところが、日本館のレストランで使用する国産の水産・畜産物の食材の多くが、EUの食品の安全規制に触れて持ち込めないそうである。たとえば毒魚とされているフグや、細かな規制のある(牛肉以外の)国産肉類、乳製品、そしてカツオ節だ。

とくに問題となるのは、カツオ節だろう。「和食」の魅力を広める好機と思われるミラノ万博で、肝心の和食の味を決めるダシを取るものだからだ。

しかし、なぜカツオ節がいけないのだろうか。

実はカツオの切り身をいぶす製造過程でタールや焦げの部分が発生し付着するが、そこに発がん性物質「ベンゾピレン」が生成されるからだという。その含有量がEUの基準を超える点が問題視されているのだ。また憶測だが、本枯れ節のように乾燥・熟成にカビを使う点も、カビ毒の恐れを指摘するとも言われている。

そのためヨーロッパの日本食レストランでは、国産のカツオ節はなかなか使えず、旨味調味料に頼る実情がある。だが、それでは本物の味ではない。

……このニュースを目にして、何を感じるだろうか。

カツオ節って、危険だったんだ! と、素直に思う人。伝統的和食の食材を危険視するEUがケシカランと思う人。そこに和食を締め出そうとする秘密結社の陰謀?を読み取る人だっているかもしれない(笑)。

いうまでもなく、カツオ節そのものは自然界の材料からつくられるものだ。カツオはもちろんカビ菌も、いぶす煙の元の木材も自然物である。自然なんだから安全なはずという思いを持つ人もいるだろうが、実は自然界で危険物質が生成されるケースは意外と多い。毒蛇や毒キノコなどの毒物だってその生き物自身が作り出すものだ。また無農薬野菜では、野菜そのものが天然性農薬様物質を生成するという研究も出ている。それで我が身をかじる虫を追い払うのだという。

とはいえ、本当にカツオ節が危険なのかどうか。本来は、毒性と摂取量のバランスを考えて論理的に判断すべきなのだが……。

日本政府は、万博で使用する分に限って持ち込みを認めてほしいとEUに要請している。安全性に問題がない点を説明した上で、万博会場以外で展示・提供しないからと、万博特例として国産カツオ節などの食材の持ち込みを認めるよう求めている。

しかし、これだって、厳密にはヘンだ。安全だと言いつつ規制そのものの撤廃を主張するわけではないのである。

ところで2015年夏に、フランスの大西洋沿岸のブルターニュ地方のコンカルノーにカツオ節工場を建てる計画が進んでいる。鹿児島県枕崎市の枕崎水産加工業協同組合などが出資して建設するのだ。原料のカツオはインド洋で調達し、技術指導も日本がして製造するという。

つまり政府の弱腰に、民間がしびれを切らして、海外進出を決めたのである。ある意味、これも日本の産業空洞化といえるかもしれない。そのうち和食の素材は全部海外調達になる?

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事