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日本eスポーツは一人のウソによって1年半遅れた

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

東洋経済が以下の様なニュースを報じました。以下、東洋経済オンラインからの転載。

日本の「eスポーツ」が世界に遅れる根本理由 プロライセンス制度は本当に必要なのか

https://toyokeizai.net/articles/-/325721

ここ数年、我が国のeスポーツ業界で論争を巻き起こしてきたJeSUによるプロゲーマーライセンス制度に対して、改めて「プロライセンス制度は本当に必要なのか」と問いかけ直す記事となっているワケですが、そこに驚くべき事実が紹介されています。以下、転載。

JeSUが同制度の必要性を主張するうえで「錦の御旗」として掲げてきたのが、景表法を管轄する消費者庁からの推奨だ。JeSU会長でセガホールディングス社長の岡村秀樹社長は、「安心安全、公明正大な賞金付き大会を開く仕組みはないものか、と消費者庁ときちんと会話をする中で、(JeSUのような)中立的な団体が(選手をプロとして)認める制度があれば安心でわかりやすいですね、という話があった」と語る。

ここまでならば、JeSUは日本で合法的にeスポーツを普及させるうえで、画期的な制度を作り出したように見える。

ところが、JeSUにライセンス制度を推奨したとされる消費者庁の担当部署に問い合わせると、異なる見解が返ってくる。いわく、「JeSUからライセンス制度の提案を受けた際、会話のやりとりの中で『それならわかりやすいかもしれませんね』と返答したことはあるかもしれないが、積極的に作るべし、と言ったことはない」(消費者庁の担当者)というのだ。

JeSUはそのプロライセンス制度の創出に際して、常に消費者庁の存在を文字通り「錦の御旗」として掲げながら、業界内で批判渦巻く同制度を正統化してきた。2018年2月18日に「ゲームと金」と題して行われたプロライセンス制度に関する座談会において、当時、JeSUのスポークスマンとして数多くのメディアに出演していた浜村弘一・副会長は以下の様に消費者庁とライセンス制度の関係について説明した記録が明確に残っている。

緊急座談会「ゲームと金」

https://www.twitch.tv/videos/230230810?t=01h16m05s

浜村:僕らもなにも官公庁と相談をしていないなんてことをずっと言われていましたけど、消費者庁と話してるんですよ。僕も消費者庁に5回も行って、来ても貰ったし。そこの中でどうやっていけるかというのを議論したんですね。

その中で僕らの中もプロなら行けるんじゃないかと思ってたんですけど、ちゃんと消費者庁の方から二つ方法があって、一つは取引付随性のない全然関係ないところがお金を出すなら問題ない。もう一つはプロライセンスなら、判りやすくその人が高度なパフォーマンスを出せるっていうことを言えるんで、報酬として払う。整理がしっかりと出来ますという言い方をされたんですね。

なので僕らはその意向を受けて、プロフェッショナルライセンスというのが良いんだねということで議論したんです。

上記を要約すると;

・消費者庁の方から1)第三者拠出、2)プロライセンスによる報酬の2つの賞金案が示された

・JeSUは、上記の様な消費者庁の「意向」を受けてライセンス制度の論議をした

この説明は上記「ゲームと金」座談会において初めてJeSU浜村副会長の口から発せられ、その後、繰り返しあらゆるメディアにおいて拡散されてきた説明であります。しかし冒頭でご紹介した東洋経済による取材では、それに対して消費者庁の担当官が「積極的に作るべし、と言ったことはない」と明確に異論を唱えているワケです。

もっと言うのならば、実はこれまで東洋経済以外にもライセンス制度の存在意義に疑問を持ち、消費者庁に対して同様の取材をかけたメディアは複数あります。そういう方々は、長らく本制度に対して疑義を投げかけて来た私のところにも取材に来るのが有る意味セットになっていたりするわけですが、ある記者からは消費者庁は「あれはJeSUさんのビジネスでしょ」などとかなり厳しい論調でJeSUのライセンス制度に対してコメントしているなどという報告も受けたことも有ります。(残念ながら当該コメントは記事として世には出ませんでしたが)

要はJeSUという団体は、その構想が発表された当初から疑念をかけられ、制度的な不要論が主張されていた同制度を、「消費者庁の意向」などという当の消費者庁の担当官すらも否定する「存在しないエピソード」を錦の御旗にしながらeスポーツ業界に乗り込み、業界に混乱をもたらした。その発端が浜村JeSU副会長の「ゲームと金」座談会での虚偽の説明であったということであります。

その後JeSUは2019年9月に自ら消費者庁に対して行った法令適用事前確認手続きの回答によって、自身が提供するライセンスに「法的な意義はない」ということを自ら証明してしまうワケですが、改めて一体、あの1年半に亘る騒動は何だったのか、と。

【参照】日本eスポーツ連合さん、うっかり自ら「プロ制度は不要」を証明してしまう

https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20190912-00142276/

JeSUと同団体の顔役でもある浜村弘一副会長は、業界に長らくこのような混乱をもたらした責任も一切とらず;

「JeSUが最も大事にしているのは、必ずしも日本の社会でポジティブに評価されていないゲームの印象を改善し、合法的にeスポーツを普及させること。自分たちのライセンス制度を何が何でも既得権益化したいという意思は、まったくない」

などと主張している様ですが、そもそも自分達が制度の正当性として掲げていた「消費者庁による意向」すらウソ八百であった団体が、何を仰るのやらと言ったところ。ご自身達のポジショントークを並べる前に、まずもってこの日本のeスポーツ業界における1年半の停滞に対して謝罪とその責任の取り方をキッチリと見せる事が「ゲームの印象を改善」に繋がるのではないのかな、と思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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