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勝ち点16に3か国が並ぶ大接戦。厳しい現実を忘れた日本の暢気

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

シリアにホームで1−1。結果に加え、試合内容もよろしくないーーとは、衆目の一致する見解であるハズだ。ところが、結果を受けての報道を見る限り、批判的な内容は少ない。よかった箇所を可能な限り見つけ出し、期待感を抱かせようとする、よくいえば優しい報道が目立つ。

いまに始まった問題ではない。従来と変わらぬ、驚くに値しない話だが、どうして毎度、こうなってしまうのか。悪いモノを悪いとストレートに述べることは確かに芸がない。だが、よい箇所を必死に見つけようとする姿は、不自然。まさに木を見て森を見ず、だ。大局観に乏しい、アゲアゲ報道になる。

2018年ロシアW杯、アジア最終予選は残すところ3試合。日本はB組で現在、首位に立つ。だが、2位サウジアラビア、3位オーストラリアとの差はわずか。日本がシリアと戦った翌日、サウジアラビアとオーストラリアが直接対決を行い、結果は3−2でオーストラリアだった。

その結果、日本の消化が1試合分少ない暫定順位ながら、3チームが同じ勝ち点(16)で並ぶことになった。もし、サウジアラビア対オーストラリアの一戦で、サウジアラビアが勝利していれば、オーストラリアは大きく後退し、サウジアラビアと日本のマッチレースの様相が濃くなった。つまり、日本が2位以内(自動出場)に入る可能性は増した。日本の望む所だったが、結果はその逆に終わった。残り試合が1試合多いとはいえ、日本はサウジアラビア、オーストラリアとの試合を残している。次戦(6月13日・テヘラン)の相手も、シリアより少し強そうなイラク。予断を許さない情勢だ。

かつてない接戦である。開催国枠で出場した2002年日韓共催W杯を除けば、ジョホールバルの戦いで知られる1997年フランスW杯予選以来だ。

楽勝ボケ。暢気。なによりメディアにその自覚がない。シリア戦後の報道で目立ったのは、インサイドハーフで起用された本田圭佑と、起用したハリルホジッチを評価する声だ。

本田はハリルホジッチが「所属チームで出場機会が少ない選手は使わない」と言ったにも関わらず、一度も落選しなかった監督から寵愛を受けている常連中の常連だ。ハリルホジッチの下で出場数は20試合を越える。にもかかわらず、4−3−3のインサイドハーフで試されたのは、最終予選残り3試合という段になった今回がほぼ初。遅すぎである。いままでいったい何やってきたのか。それこそが突っ込むべきポイントだ。

写真:岸本勉/PICSPORT
写真:岸本勉/PICSPORT

次戦対イラク戦は、先述したように、敗戦が許されない大一番だ。本田のインサイドハーフが、そこで機能すると強い確信を抱いたなら話は別だが、実際は、そこまでよい出来だったとは思わない。

プレッシャーを浴びたり、スピードを上げた時、踏ん張りが利かなくなっている点こそが本田の問題。シリア戦でも、利き足ではない右足でのシュートだったとはいえ、2度の決定的場面で、いずれもバランスを微妙に崩していた。正直、入りそうな雰囲気はしなかった。

もはやFWとしての決定的なアクションは望めないが、インサイドハーフとしてならボロは出にくい。インサイドハーフが適役に見えたというより、アタッカーとしての迫力不足を改めて露呈させた一戦。僕にはそう見えた。

前から述べているのは守備的MFだ。適役というのならこちら。他の原稿でも触れたことだが、日本の一番の問題点は、4−3−3のアンカーに山口蛍が収まったことだ。長谷部の戦線離脱で、彼が守備的MFを仕切ることになったが、そのポジションの選手が備えているべき存在感というものが発揮できていない。仕切れていないのだ。キャラ的には、本田こそが適役。だが、いまという時期を考えれば、これも机上の空論になる。

本田ともに乾貴士を評価する声もある。だが、彼が交代選手としてピッチに登場したのは後半15分で、試合後、彼本人も認めていた通り、シリア選手の体力面は、落ち始めていた頃だった。プレッシャーが厳しくない中でのプレーだったことを考慮すれば、あれくらいやるのは当然だ。割り引いて考える必要がある。

とはいえこの場合、突っ込むべき相手は乾ではない。ハリルホジッチだ。彼は、就任当初こそ乾を招集したものの、その後、実に約2年間もメンバーに加えようとしなかった。ずっと見切っていた。いまさら招集した理由は、彼がバルセロナ戦で2ゴール挙げたから。状況的に呼ばざるを得なくなったので呼んだ。呼ぶべきタイミングはいくらでもあったのに、イラクとの大一番を控えたいまとなってしまった理由は、見る目がなかったからと言われても仕方がない。

汚名返上と行きたいのなら、少なくとも試合の頭から起用するべきだった。後半15分からの出場では、テスト時間は30分。しかも相手の体力を考えれば、その中身は甘くなる。よく見えて当然。

監督采配は、突っ込みどころ満載であるにもかかわらず、そこは触れず、希望的な話をしようとする。「どうせ皆さんは私のことを叩くのでしょ」と、ハリルホジッチは試合後、自虐的な言葉を吐いていたが、そうした心配は杞憂に終わった。読みは大きく外れることになった。

予選で、かつてないピンチを迎えているにもかかわらず危機感ゼロ。メディアの息づかいは、ファンに即、伝染する。となれば楽観ムードは、日本中に蔓延する。それこそが、日本にとっての一番の敵だ。もしこれで、B組の3位に沈み、プレイオフに回ったなら間抜けだ。とんだお笑い種である。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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