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IBF王者アンカハス直撃インタビュー「井岡一翔との統一戦の行方、井上尚弥との過去」

杉浦大介スポーツライター
Amanda Westcott/SHOWTIME

ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)

IBF世界スーパーフライ級王者(防衛9度) 

北ダバオ州パナボ出身 1992年1月1日生まれ 29歳

戦績:33勝(22KO)1敗2分

以下、インタビューは英語/ビサヤ語の通訳を通じて収録された

井岡から対戦を望まれたことは名誉

――大晦日に日本で井岡一翔選手と統一戦を行うのではないかという話が出ています。その件について現時点で何か言えることはありますか?

ジェルウィン・アンカハス(以下、JA) : まだ交渉の途中で、契約が成立したわけではありません。ただ、井岡が対戦を希望する相手として、私の名前を挙げてくれたことを名誉に感じています。この試合が実現すれば、統一戦の機会が手に入ります。これまでIBF王座を9度防衛してきましたが、王座統一は私の目標の1つでもありました。今はトレーニングを積み、陣営から契約成立の報が届くのを待っているところです。

――井岡選手との統一戦はあなたの希望でもあったと聞いていますが、キャリアのこの時点でこの試合を望んだ理由は?

JA : ローマン・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳)、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、シーサケット・ソールンビサイ(タイ)といった強豪との対戦も望んでいましたが、彼らは受諾の意思を示してはくれませんでした。そんな中で、井岡だけが私との統一戦を望んでくれたのです。井岡は世界的に高く評価されたビッグネームでもあります。そんな選手との統一戦を希望するのは当然のことです。

――実際に試合が決まったら、どのように戦うつもりでしょう?

JA : 難しい戦いになることは間違いないでしょう。これまでの経験を生かして戦わなければいけないと思っています。試合が決まったら、井岡のフィルムをたくさん見て、適応を進めていかなければいけません。厳しい試合になることを覚悟していますが、一方でそんな戦いができることを名誉に感じています。

――開催地は日本になると伝えられていますが、敵地での戦いへの不安は?

JA : まったく問題はありません。私はこれまでメキシコ、英国、アメリカでも戦ってきました。敵地での不利は心配していませんし、ファンからの相手選手への声援にも惑わされることはありません。たとえ井岡の地元でもあっても構わないですし、私にはどこでも戦う準備ができています。

Amanda Westcott/SHOWTIME
Amanda Westcott/SHOWTIME

――すでに来日経験はあるんですよね?

JA : 2012年頃、山中慎介、亀田兄弟のスパーリングパートナーとして日本に行ったことがあります。日本は大好きだったので、再来日が待ちきれません。日本に関して最高なのは、夜間に外を歩いても安全に感じられるところ。人々は親切で素晴らしかったですね。そんな話をすれば、私が日本で戦うのもまったく問題ないというのがわかって頂けると思います(笑)

――年末までに制度が変わるかもしれませんが、日本では入国後に数日間〜10日間の隔離が義務付けられることは気になりませんか?減量も厳しい最終調整の時期に、ホテルから出られないというのは難しい条件だと思いますが。

ショーン・ギボンズ(プロモーター/インタビューに同席) : 隔離は4日間のみだと聞いています。それが問題になる選手もいますが、アンカハスはふらふらと遊びに出たいと考えるタイプではありません。仕事のために日本に行くのであり、彼は規律の正しさに定評があります。ロサンジェルスでもハリウッドの近くに家を借りているんですが、観光になどまったく出かけていないはずです。

大舞台に向け、ワイルドカードジムでトレーニング

――話は少し戻りますが、9月に渡米した際、11月に試合を予定しているという話も出ていました。その防衛戦の話はもうなくなったのでしょうか?

JA : アメリカに来たとき、11月にリングに上がるという具体的なプランがあったわけではありませんでした。プロモーターのショーン・ギボンズから、アメリカの方がよりパンデミックを気にせずに次の試合に向けた準備ができると聞いて渡米したのです。9月に渡米以降、主にカリフォルニアのワイルドカードジムで調整してきました。ラスベガスでもトレーニングをしましたが、拠点は常にロサンジェルスです。

――今回、同じMPプロモーションズ傘下のジョナス・スルタンと一緒にニューヨークに来ました。2018年5月に一度は対戦したスルタンを、今ではセコンドでサポートしているんですね。

JA : かつて私のタイトルに挑んだジョナスを、今では助け、アドバイスを与え、元気付けたいと思ってセコンドについています。彼とはもともと知り合いではなかったのですが、タイトルマッチで対戦後に仲良くなったんですよ。フィリピンは多くの島で構成された国ですが、私たちは同じ地域の出身で、ともにビサヤ語を話すことも友情を育む一因になりました。

――これまで何戦くらいセコンドに入ってきたんですか?

JA : 4月、ジョナサン・ロドリゲス(メキシコ)を相手に行った防衛戦の前に、私はジョナスをスパーリングパートナーとして雇ったんです。同じキャンプで時間を過ごし、そのスパーリングの途中から、私は彼にテクニックの指導を始めました。その試合後、私は一度、フィリピンに帰ったんですが、ジョナスはそのままアメリカに戻り、8月にカリフォルニアで一戦こなしました。今回のジョナスの試合の際は私が彼を助け、私の次のタイトル戦時には逆に助けてもらうつもりです。同じジョベン・ヒメネス・トレーナーの傘下ということもあり、互いに支え合う良い関係が築けていると思います。

――今後、日本での試合が決まると想定した場合、年末までのスケジュールはどうなるのでしょう?

ショーン・ギボンズ : これからロサンジェルスに戻り、トレーニングに励みます。試合が無事に成立したら、年末に来日するまで、ワイルドカードジムで準備する予定になっています。

――あなたはすでに9度の防衛を果たしてきましたが、ビッグファイトはなかなか実現しませんでした。そのことにフラストレーションは感じていましたか?

JA : 私が学んだのは、辛抱強く機会を待つのが大事だということです。支えてくれるチームを信頼していますし、私にできるのはしっかりとトレーニングをして準備を整えておくこと。先ほどから話が出ている通り、井岡戦が具体化しています。その試合こそが私にとってのビッグファイトになるのです。

井上尚弥戦が実現しなかった真相

――まだ気が早すぎるかもしれませんが、井岡戦後にはどんなプランを思い描いているのでしょう?

JA : 幸運にも井岡に勝つことができたとしたら、その後、さらなる統一戦に臨むのが理想です。ただ、所属プロモーターの違いもあって、簡単ではないのは理解しています。その時々で最強の相手と戦っていきたいですね。バンタム級に上げて、軽量級ではNo.1の評価を得る井上尚弥(大橋)と戦うことができたら最高です。

――数年前、スーパーフライ級時代の井上選手と対戦できる機会があったが、受諾しなかったという話を聞きました。それは本当の話でしょうか?

ショーン・ギボンズ : その件についてはジェルウィンは知らないので、私に答えさせて下さい。井上と対戦するオファーがあったのは事実です。ただ、その当時、ジェルウィンにはまだ向上の時間が必要だと私は感じていたのです。報酬は悪い額ではありませんでしたが、もう少し待てば数倍が手にできると考えたことも付け加えておきます。20万ドル程度のファイトマネーで勝負をかけるのではなく、時期を待つべきだと考えたのです。そして、今、目論み通り、私たちにとって勝負の時が来ました。井岡に勝てば、その先にはより高額の報酬での井上戦も見えてくるに違いありません。

10月30日、NYで評判高かったカルロス・カラバヨを下す貴重な勝利を挙げたジョナス・スルタン(右)と。かつての挑戦者は今では貴重な練習パートナーになった。 撮影・杉浦大介
10月30日、NYで評判高かったカルロス・カラバヨを下す貴重な勝利を挙げたジョナス・スルタン(右)と。かつての挑戦者は今では貴重な練習パートナーになった。 撮影・杉浦大介

――これまで対戦した中で最も強いと思った選手は?

JA : まずはジョナスの名前を挙げなければいけませんね(笑)。現在、同僚になったというだけではなく、彼のタフネスは本当に素晴らしいからです。ダメージを与えられたかなと思うと、その度に打ち返してくるので、最後まで気の抜けない相手でした。日本に行った時には、山中の強さにも感銘を受けました。一見するとそんなに力を込めたようには見えなくとも、山中の的確なパンチは一発で相手を眠らせる破壊力がありました。

――あなたのフェイバリットファイターは?

JA : フィリピン人にとってやはりマニー・パッキャオこそが憧れの存在であり、それは私にとっても同じです。

――今後、ボクサーとしてどんなキャリアを過ごし、人々にどういったふうに記憶されていきたいと思っていますか?

JA : ボクサーとして出来る限りのことを成し遂げ、引退後もボクシング界に残って貢献を続けたいです。若いボクサーたちを指導し、チャンピオンを生み出すのを助けたいですね。これからもずっとフィリピン・ボクシング界の助けになれたら素晴らしいと考えています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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