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「井上尚弥との対戦に運命的なものを感じる」 ノニト・ドネア WBSS決勝直前インタビュー Vol.2

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 “運命の一戦”が間近に迫っている。ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級の決勝戦、井上尚弥(大橋)対ノニト・ドネア(フィリピン)戦は11月7日、さいたまスーパーアリーナで挙行が決まった。WBA、IBF世界バンタム級タイトルもかけられた一戦は、日本ボクシング史上最大級のビッグファイトとして盛り上がりをみせている。

 本番まで2ヶ月を切った9月14日。ラスベガスにドネアを訪ね、じっくりと話をきいた。家族の昼食中にお邪魔したにも関わらず、丁寧に言葉を紡いでくれた。

 インタビューの大部分はスポルティーバの「井上尚弥に最大級の賛辞を贈るドネア。 それでも「多くの欠点がある」」に掲載されている。ここではその中に収まりきらなかったQ&Aから興味深いものをピックアップし、再構成した。  

 いつも真摯なドネアの言葉からは、ボクシングへの熱い想い、日本へのリスペクトと愛情が浮かび上がってくる。

日本の漫画、アニメから多くを学んだ

ーー日本で開催されたボクシング興行ではマイク・タイソン(アメリカ)が出場したものが最大規模ですが、日本人ボクサーがメインのイベントとしては今回の試合は史上最大かもしれません。発表会見で日本を訪れた際、規模の大きさは感じましたか?

ND : 会見は盛大なものでした。多くの人が出席したし、たくさんの人がこの試合の話をしていました。それほどのイベントの一部になれるのは光栄なこと。私にとってもエキサイティングだし、バンタム級最強同士の戦いを日本の人たちが目撃できるのも素晴らしいことです。

ーー少し意外なことに、日本びいきのあなたが日本で戦うのは今回が初めてになります。敵地ということになりますが、接戦になったとき、判定の行方は気になりますか?

ND : 日本で試合ができるのは本当にエキサイティングです。ずっと日本で戦いたいと思っていましたし、楽しみ。判定に関しては心配していません。私が考えているのはベストの力を出すことだけ。それ以外には何も考えていません。

ーー日本に対する心底からの尊敬が伝わってきますが、そこまで惹きつけられている理由はどこにあるのですか?

ND : 子供の頃から日本の漫画、アニメのファンだったんです。だから日本のボクサーの心情や特徴も理解できる。日本人はハードワーカーで、常にベストを尽くす人たち。日本のボクサーは“武士道”が背景にあるし、尊厳や忠誠心といった部分を重んじます。私自身も大事にしているそういった部分を、私は日本の漫画やアニメーションから学んだんです。日本のスーパーヒーローはいわゆるスーパーパワーを持っているわけではなくとも、正しいことをやる点に心を惹かれます。

ーーあなたのお気に入りの漫画が何かを聞かせてもらえますか?

ND : たくさんありますよ。まずは「ドラゴンボールZ」、「はじめの一歩」、そして「スラムダンク」。最近では「NARUTO-ナルト-」、「BLEACH」も好きです。これまでに本当に多くの漫画を読んできたから、他にもありますけどね(笑)

ーーあなたが「はじめの一歩」のファンであることは日本でも知られていますが、井上戦は一歩の中に出てきそうなストーリーでもありますよね。あなたが伊達英二で彼が一歩だとすれば、あなたが勝つことになりますが(笑)

ND : (大笑い)。本当に凄いですよね。実は私も彼が決勝に進み、私と対戦することになるのではないかと感じていたんです。運命的なものを感じます。私たちは常に互いをリスペクトし合い、同時にいつか戦ってみたいと思っていた。それが現実の話になるんですから。

モチベーションが薄れた時期を乗り越えて

ーーここで白状しますが、2014年10月、ニコラス・ウォーターズ(ジャマイカ)に6回KO負けを喫したあと、私は「ドネアは引退すべきだ」という趣旨のコラムを書いたことがあるんです。

ND : そうなんですね、別に大丈夫ですよ(笑)。多くを成し遂げた後で、長く現役を続けて傷ついて欲しくない、ということですよね。

ーーはい、しかしそれから5年が過ぎて、あなたは依然として世界王者なのだから、私に見る目がなかったのでしょう(笑)。これまで実際に引退を考えたことはあるんですか?

ND : 家族のことを考え、引退を意識したことはあります。家族が大事だから、我が儘になるべきではなく、戦い続けることが危険だと感じたら引退するつもりです。ただ、そのときは引退を決断するには至りませんでした。まだ自分には伸びしろがあるように感じたのです。まだ学べると思ったし、自分の立ち位置を認識し、もっと賢明に戦えると考えました。

ーーそれまでは賢明には戦えていなかったということでしょうか?

ND : ウォルターズ戦を振り返っても、父親(トレーナーのノニト・ドネア・シニア)の指示通りに戦えば勝っていたでしょう。しかし、私は欲張りになり、自分のエゴに負けてしまった。あの試合のトレーニング期間は5週間しかなく、スタミナが欠けていると感じていました。だからKOを狙いにいき、逆に相手のパンチに捕まってしまいました。しっかりとしたトレーニングを積み、父親のゲームプラン通りに戦えていたなら、打ち合いにはならなかったはずです。自分のベストの出来で負けたわけではなかったので、あそこで引退しようとは考えませんでした。

ーーなるほど、よくわかりました。これまで数々の難敵と戦ってきましたが、一番強いと思ったのは誰ですか?

ND : うーん、強い選手はたくさんいましたが・・・・・・総合的にはやはりギジェルモ・リゴンドー(キューバ)を挙げなければいけません。対戦した中では最も洗練され、賢明な選手でした。カール・フランプトン(イギリス)もとても良い選手で、彼との試合も非常に難しいものでした。フランプトンとの試合もチェスマッチと呼べるものになり、彼の方が私より良いゲームプランを用意して来ました。最強の相手を選ぶなら、どちらも“ジャッカル”という愛称を持つリゴンドー、フランプトンの2人ですね。

ーーいつか現役を離れる時が来て、その後は何をするつもりですか?

ND : やりたいことはいくつもあります。ボクサーのマネージャーになるか、トレーナーとして選手を育てたいですね。それと同時にジムも経営し、成功させたい。選択肢は存在するので、何をするのがベストか考えていきたいです。興味深く感じられて、楽しめることが見つかれば、ボクシングから離れるかもしれません。何をやるにしても人間的に成長していきたい。人生はギフトなのだから、常に笑顔で過ごせるように、楽しめることをやっていきたいんです。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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