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盛り上がる都市のハロウィン──「キャラ探し」の時代

松谷創一郎ジャーナリスト
昨年(2014年10月31日)の渋谷ハロウィンの様子

今年のハロウィンは土曜日

今年も10月31日のハロウィンが近づいてきました。ここ5年ほどで急激に盛り上がり、既にバレンタインデーを上回る経済効果があると言われるこのイベントは、昨年にも増して社会を賑わせています。

もはや定着したと言っていいハロウィンが強く注目を浴びるきっかけとなったのは、都市のストリートで自然発生的に生じた動きでした。具体的には、東京・渋谷のセンター街に、さまざまなコスプレをした若者たちが集い、路上でパーティーをするかのように騒いだことです。はっきりとした人数は不明ですが、筆者が昨年ひと通り観察したところ、5~10万人ほどが路上に滞留していたと推定されます。それは、ひとがぶつからない程度の満員電車で乗客がゆっくり移動していくような状況でした。

そんな昨年のハロウィン(10月31日)は金曜日でしたが、今年は土曜日。よって、人出はさらに増える可能性があります。それにしても、なぜこれほど都市のハロウィンは盛り上がってきたのでしょうか?

渋谷ハロウィンの4要素

そもそもハロウィンとは、アメリカを中心としたキリスト教の秋祭です。日本では1979年公開のホラー映画『ハロウィン』(ジョン・カーペンター監督)によって認知が広がり、1980年代には地方自治体で仮装パレードが始まったという記録が見られます。

日本でより本格的に広がるのは、90年代後半からです。具体的にはふたつのきっかけがありました。ひとつは、90年代中期頃から東京中心部を走る山手線の一車両を専有したパーティーです。参加者のほとんどは欧米の外国人で、97年には2人が逮捕されるほどの騒動になりました。もうひとつは、より積極的な地域イベントです。その代表的な成功例は、カワサキハロウィンです。今年で19回目となるこのイベントが始まったのも97年のこと。パレードだけで10万人以上を動員する、大きなイベントに成長しました(※1)。2000年代以降は、地域のハロウィンイベントが東京都港区(六本木)や豊島区(池袋)など、さらに拡大していきます。また東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなど、ハリウッド発のテーマパークも10月はハロウィン仕様に変化します。

昨年、参与観察に行った筆者(中央)と、友人のバズーキスタンさん(右)ととまいさん(左)
昨年、参与観察に行った筆者(中央)と、友人のバズーキスタンさん(右)ととまいさん(左)

一方、渋谷が大騒ぎになるのは、ここ5年ほどのこと。昨年、筆者が参与観察したところ、そこに集う若者たちにはある程度の共通点が見えました。

まず、参加者の多くは若者ですが、とくに目立つのは大学生です。その理由は、ハロウィンがちょうど学園祭の期間と重なるからです。授業は休講となるのでコスプレの準備をする時間もたっぷりあり、また学園祭にコスプレで参加してそのままハロウィンに流れるというケースもあります(※2)。高校生もそれなりにいますが、夜の渋谷でそのことを積極的に明かすひとは多くありません。また、昨年は金曜日だったので、会社帰りの若い女性が顔だけハロウィン用メイクをして参加する姿も少なくありませんでした。

さまざまなコスプレをした参加者たちは、互いに声をかけ合ってスマートフォンで写真を撮り、FacebookやTwitter、Line、Instagramなど、ソーシャルメディアに載せます。渋谷ハロウィンの最大の目的は、写真だと言ってもいいほどです。仲良くなるきっかけを得て(撮影)、その関係を深め(写真/記憶の共有)、そして関係を広げて新たな友人を獲得する(ネットで再会)――ソーシャルメディアとスマートフォンの普及とともに、渋谷ハロウィンは盛り上がってきたのです。

昨年、非常に多かったのは制服+血のりの組み合わせのコスプレ(筆者撮影)。
昨年、非常に多かったのは制服+血のりの組み合わせのコスプレ(筆者撮影)。

撮影のきっかけであるコスプレにはさまざまな種類がありますが、昨年もっとも目立っていたのは血のりや傷口をつけたゾンビメイク。衣装では、女子高生制服やディズニー系、かぶりものなどでした。昨年であれば、大ヒットした映画『アナと雪の女王』や『マレフィセント』、当時ブレイクしていた日本エレキテル連合のコスプレも散見されました。

そうした特徴を一言であらわせば、「ドンキ的」ということになるでしょうか。それらのほとんどはオタク文化の文脈を引くものではなく、ドン・キホーテやAmazonなどで2000~5000円ほどの価格で買える安価なパーティーグッズです。血のりメイクや、ミニスカポリスやセーラームーンなどセクシーな衣装は、まさにドン・キホーテで販売している商品です。なお、アニメやマンガのキャラクターを模したオタク文化系のコスプレは、全体的にはごくわずかです。

そして、もうひとつのポイントは、やはり渋谷という街です。チーマーと呼ばれる男子高校生が渋谷に登場したのは80年代後半から。そこから派生して集団性を持ったのが、コギャルと呼ばれる女子高生たちです。1993年、センター街で大量の女子高校生が一斉補導されますが、コギャルが注目され始めたのはこの頃から。〈コ〉ギャルブームは96~97年をピークに10年ほど続きますが、そのとき一貫して中心的な場だったのは渋谷センター街でした(※3)。常に歩行者天国であるセンター街は、ひとびとが滞留しやすい環境になっています。新宿にも歌舞伎町のシネシティ広場(旧コマ劇場前)や池袋にもサンシャイン通りがありますが、この両者よりも駅からの距離が近く、ひとが行き交いやすい場所です。

大学生、ソーシャルメディア、ドン・キホーテ、そしてセンター街──この4つが、渋谷ハロウィンの主要な構成要素です。それらは、以下のような構図としてまとめられるでしょう。

※4
※4

ハードルの低い都市のイベント

渋谷ハロウィンは、川崎や池袋のような仕掛けはなく、あくまでも自然発生的な現象です。ここ数年のマスコミの注目や、アイドルなどのハロウィンソングのリリースは、あくまでもこの社会現象を後追いしたものなのです。

そうした渋谷ハロウィンという現象は、フラッシュモブと呼ばれるものに区分できます。これは、互いに面識のない多くのひとびとが、ネットで示し合わせて都市の公共空間で起こすイベントのこと。2000年代以降、海外のフラッシュモブの代表的なものとして挙げられるのは、ストリートでいきなりダンスをするドッキリ企画です。日本では、2003年に映画『マトリックス・リローデッド』が公開するにあたって、匿名掲示板・2ちゃんねるで示し合わせたひとたちが、映画のキャラクターの衣装で電車に乗るというフラッシュモブを起こしました。

2005年6月8日、サッカー日本代表がW杯出場を決めた直後の渋谷駅前(筆者撮影)
2005年6月8日、サッカー日本代表がW杯出場を決めた直後の渋谷駅前(筆者撮影)

またフラッシュモブの前提に、ストリートをジャックして大騒ぎするという発想があります。その端緒は前述した90年代のコギャルでしたが、2002年の日韓ワールドカップ・サッカーも大きな転機となりました。日本代表の勝利に酔う若者たちが、渋谷のスクランブル交差点をハイタッチしながら行き交い、ハチ公前で大騒ぎしたのです。これは現在まで続き、その交通整理のために現れたのが2013年のDJポリスです。

コギャル、マトリックスオフ、サッカー代表戦――渋谷ハロウィンはこうした文脈を引き、現在は人数的に世界最大のフラッシュモブとなったのです。

もちろん本家のハロウィンは、古代ケルト民族やキリスト教に出自を持つアメリカの年中行事なので、祭の一種だと言えます。しかし日本ではその宗教性と伝統性が脱臭化され、都市のイベントとなっています。一方、それとはべつに神輿を担ぐような神社の祭も存在します。そうした地域の祭と都市のハロウィンの決定的な違いは、参加ハードルの高さです。地域の祭は、終わるまでそれなりの責任を負って参加することが要求され、しかも参加者は近所のひとたちです。そのハードルは決して低くありません。一方、渋谷ハロウィンは、誰でも自由に参加し、自由に離脱できます。

おそらく若者たちにとって、ハロウィンは待望されていたイベントだったはずです。なぜなら地域の祭は、商店街と年寄りを中心に構成されており、参加する若者も地域に根ざしたヤンキーばかりなのが実状です。多くの若者たちにとって、そうした地域の祭はとてもハードルが高いのです。川崎市や豊島区など、都会の自治体がハロウィンを積極的に仕掛けて成功した理由もここにあります。従来の祭とは異なる、都市の若者に合うイベント/祭としてハロウィンは見事にハマったのです。

「自分探し」から「キャラ探し」へ

ハロウィンの特徴は仮装/コスプレですが、これも一般に広く浸透したのはここ10年ほどです。コスプレとは、ふだんの当人とは異なる非日常的な異装をすることですが(だから、看護師がナース服を着てもコスプレとは言われません)、大昔から仮面舞踏会は存在し、70年代後半頃からオタク界隈でもすでに行われていました。それがストリートで見られるようになったのは、90年代後半の秋葉原からです(※5)。2000年代に入ると、プリクラやカラオケ屋、ラブホテルなどでコスプレ衣装を常備するところが増え、徐々に浸透していきます。

また、ハロウィンの盛り上がりと比例して2010年代に見られるようになったのは、「制服ディズニー」と呼ばれる、女性たちが学校制服を着てディズニーランドを楽しむ現象です。現役の高校生ではなく、すでに高校を卒業した大学生や社会人が制服を着てディズニーランドを楽しむのです。それは、私服通学が可能な都立高校の生徒が〈コ〉ギャルブーム時代に独自の制服姿で通学していたこととも関連します。

こうした現象は、コスプレ(異装)が決して自分を覆い隠す「仮面」などではなく、「キャラ(コスプレ)」であることを意味します。それは、「本当の自分」という切り口でより明確になるでしょう。「仮面」は「本当の自分」を覆い隠すためのものですが、「キャラ(コスプレ)」はその状況に応じた「もうひとつの本当の自分」です。逆に言えば、そこでは「本当の自分」という問題設定そのものが成立しないのです。

こうした自己像の異なりは、他者との関係性においても変化をもたらします。それは以下のような図で見るとわかりやすいでしょう。

画像

「一元的自我モデル(仮面型)」では、他者との関係が「深い/浅い」という基準で測られますが、「多元的自我モデル(コスプレ型)」では、趣味によって複数の関係を使い分けるなどしてキャラを切り替えます。これは現在の40歳前後で分かれる傾向にあり、無論のこと若い世代の多くは「多元的自我モデル」です。なぜならコスプレ的振る舞い(キャラ)は、携帯電話や都市化によって流動化・複雑化する社会でこそ生じる適応形態だからです。一方でそれは、「自己同一性」と訳されることもあるアイデンティという概念が、日本では耐用年数を過ぎたことも意味しています。日本社会は、ずい分前から「(本当の)自分探し」から「(もうひとつの)キャラ探し」に移行しているのです(※6)。

それは具体的なコミュニケーションにも顕れます。前述したような、都市のハロウィンにおける撮影コミュニケーションもそうですが、LineやTwitterのアカウントは簡単に教え合います(電話番号やEメールアドレスはそもそも使いません)。むかしのドラマに出てくるような、相手の電話番号をゲットするかどうかで一喜一憂するようなことはありません。連絡先はとりあえず交換し、面倒くさい相手はブロックすればいいだけだからです。

社会学者の辻泉は、それを「引き算の関係」と表現しました。携帯電話がないむかしのように、段階的に関係を深めて友人を増やしていく「足し算の関係」ではなく、ひとまず連絡先だけ交換して場面によって友人との関係を使い分ける「引き算の関係」に移行したのです(※7)。

渋谷ハロウィンとは、こうした若者たちのコミュニケーションの状況を端的に表す現象でもあるのです。

次の週末ハロウィンは5年後

最後に、今年のハロウィンについて触れておきましょう。すでにカワサキハロウィンでは25日に10万人を超えるパレードが大盛況のうちに行われました。31日の渋谷は、土曜日ということもあり日中から昨年以上の盛り上がりを見せる可能性があります。すでに警察は昨年の数倍の警備体制をとると表明しており、参加者をいかに誘導するかが気になるところです(※8)。

東京都の「HALLOWEEN & TOKYO」キャンペーンポスター。
東京都の「HALLOWEEN & TOKYO」キャンペーンポスター。

一方、昨年問題となったのは、ハロウィン後に残された路上のゴミでした。そこで東京都は、きゃりーぱみゅぱみゅをスペシャルサポーターに招き、「HALLOWEEN & TOKYO」キャンペーンを企画しています。これは、カボチャランタンのデザインをしたゴミ袋を都内各所で配布するというもの。渋谷でも30、31日はほぼ終日配布される予定です。自治体の配布物としてはかなりデザインが良く、効果もそれなりに見込めるという点で、渋谷ハロウィンに好意的な東京都の姿勢がうかがえます。

ただ、昨年の時点で渋谷のキャパシティはいっぱいの状況でもありました。今年はそれ以上の混雑が予想されるため、警察が早い段階で規制をかける可能性もあります。そうなると、おそらく渋谷から恵比寿や原宿に徒歩で移動したり、またターミナル駅の新宿や池袋の周辺にも多くのひとびとが集まったりする可能性もあるでしょう。

そして、来年2016年の10月31日はは月曜日、再来年の2017年は火曜日と、次に週末のハロウィンを迎えるのは、東京オリンピックのある5年後の2020年になります。その頃、都市のハロウィンはまたべつの姿を見せているかもしれません。

※1……これ以外にもハロウィンの認知が日本で広がった一件として、1992年10月、アメリカ・ルイジアナ州で留学していた日本人高校生(16歳)が、ハロウィンのイベントで30歳の男性に射殺された事件も挙げられる。連日大きく報道されたこの事件は、最終的に刑事事件では被告の無罪が確定した。

※2……先日筆者とともにネット番組『WOWOWぷらすと』(2015年10月15日)に出演したキャスターの玉木碧さん(『Oha!4 NEWS LIVE』など)は、昨年まで通っていた青山学院大学で学祭とハロウィンを掛け持ちする学生がいたと話していた。

※3……〈コ〉ギャルの歴史については、拙著『ギャルと不思議ちゃん論──女の子たちの30年戦争』(2012年/原書房)を参照のこと。

※4……ウェンディ・グリスウォルド『文化のダイヤモンド:文化社会学入門』(1989=1998年/小沢一彦訳/玉川大学出版部)、成実弘至「ファッション:流行の生産と消費」 佐藤健二・吉見俊哉編『文化の社会学』(2007年/有斐閣)所収などを参照し、筆者作成。

※5……森川嘉一郎『趣都の誕生:萌える都市アキハバラ』(2003→2008年/幻冬舎文庫)。

※6……なお、「本当の自分」を信じるひとが複雑化する社会と衝突し、世界の「真理」や「真実」を求めてカルト宗教や極端な政治組織に取り込まれることは、いまだに後を絶たない。オウム真理教の事件はその最悪の帰結だった。その多くが現在の40代半ばから50代半ばの1960年代生まれに集中していたように、この世代は経済的に豊かながらもそれゆえに社会の複雑化が進む80年代に青春期を送った過去を持つ。

※7……土橋臣吾、南田勝也、辻泉編『デジタルメディアの社会学[改訂版]――問題を発見し、可能性を探る』(2013年/北樹出版)。

※8……朝日新聞2015年10月25日付「ハロウィーン商戦、過熱ぎみ 市場規模はバレンタイン級」

■関連

・「WOWOWぷらすと コスプレとハロウィン」2015年10月15日配信(動画アーカイブ)

・「WOWOWぷらすと コスプレとハロウィン」2015/10/15(テキスト版)

・ギャルはこのまま終わるのか?――相次ぐギャル雑誌の休刊とギャルの激減(2014年12月)

・ルミネをこじらせて――「ありのままで」からの逆走(2015年3月)

・「一発屋芸人」はなぜ生まれるのか?――「ラッスンゴレライ」が大ヒットする理由(2015年2月)

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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