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「子産まない身勝手」自民・二階氏の無能・無知―必要なのは保育士の人員確保、女性の自己決定権

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
東京都・新宿駅前で行われた保育制度の改善を訴える集会(写真:ロイター/アフロ)

 自民党の二階俊博幹事長が今月26日、都内の講演で「子供を産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と発言したことが人々の反発を買っている。SNS上の反応を見ると「国として少子化対策でやるべきことをやらず、子どもを産み育てにくい社会にしておきながら、個人の選択の問題にするな」との批判が相次いだ。子育ての困難さの大きな要因として、待機児童問題があり、その原因はブラックな労働環境による保育士の人員不足だ。また、そもそも、個人の選択である「子どもを産む、産まない」という選択肢に政治が口を出すこと自体、憲法13条の幸福追求権や、性や生殖における個人の自己決定権「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」に反することだ。

〇二階氏発言への反発

 案の定、二階幹事長の発言は人々の反発を買った。

 日本の少子化には様々な要因があるが、子どもを安心して育てられない要因として、匿名の母親が「保育園落ちた。日本死ね!!!」とブログで書いたことが大きな反響を呼んだように、待機児童問題を無視することはできないだろう。そしてその背景にあるのは、ブラックな労働環境による保育士の人員不足と、政府の無策である。

〇保育士不足が負の連鎖

 保育士達からの労働相談を受けている介護・保育ユニオンの池田一慶さんは、「現在、保育所の運営費は、運営主体にかかわらず9割が公的資金です。人員不足を解消するためには、国や自治体からの予算を増やす必要があります」と語る*。

 だが、一方で保育園運営の合理化も同時に進められているため、保育関係に予算があてられても人件費が削減されているのだという。そのため、人員不足がさらなる人員不足を招くという悪循環となっている。

 「保育士の人員が少ないため、新人の保育士が十分な経験を積む前に、いきなり担任としてクラスを任されてしまったり。無理をさせられているのに、失敗をすると、園長などから厳しく叱られ、精神的にきつくなるということが非常に多いです。また残業が常態化している上、残業代が支払われないケースも多い。だから、保育士の離職率は2割と高く、ますます人員不足が深刻になるという悪循環。ある保育園では、園長も含め一度に何人もの保育士が辞めてしまい、保育所自体の運営ができなくなるということもありました。人員不足を解消するためには、労働基準法違反が横行するような労働環境を改善すること、『全産業平均より月給で約10万円低い』という保育士の給料を上げることによって、約60万人以上いる保育士資格を持つ『潜在保育士』を保育所に呼び戻さないといけないでしょう」(池田さん)

週刊SPA!特集での筆者取材から https://nikkan-spa.jp/1440150

〇憲法にも国際政治の共通概念にも反する二階発言

 子育て支援とは別に、そもそも、女性が子どもを産む、産まないという個人の選択に、政治家が口を出すこと自体がおかしいとの指摘もある。

 個人の自己の生命、身体にかかわる自己決定権は、日本国憲法第13条の「幸福追求権」に含まれると解釈される。立憲主義においては、憲法は権力の暴走から個人の権利を守るものであり、国家が個人の「産む、産まない」という選択に介入しようとするならば、憲法第13条に反することになる。

 また、国際政治においても、人々、特に女性達の自らの性や生殖に関する自己決定権=「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」では、女性がいつ子どもを産むかについて選択し、自ら決定する権利は、最も重要なものとされている。リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、1994年、国際人口開発会議でまとめられ、国際政治での共通概念とされているものだ。日本においても、

女性は妊娠・出産や女性特有の更年期疾患を経験する可能性があるなど、生涯を通じて男女が異なる健康上の問題に直面することに留意する必要があり、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要である。

出典:内閣府男女共同参画局

として、2015年に閣議決定された第4次男女共同参画基本計画に明記されている。

 つまり、今回の二階氏の発言は、憲法にも、国際政治の共通概念にも、政府与党の閣議決定にも反するもの、と言える。おそらく、二階氏は、近いうちに自身の発言を取り消し、謝罪することになるのだろうが、上から目線で勝手な発言をするのではなく、少子化問題や女性の自己決定権について、真摯に学ぶ必要があるのではないか。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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