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ベトナムで恥をかき、国内では閑古鳥が鳴くKリーグの深刻度

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
Kリーグの試合会場(写真提供:FA Photos)

盛り上がるJリーグとますます失墜するKリーグ。日韓プロサッカーの対照的な状況がいつにも増して如実に現われている。

Jリーグの話題はここで詳しく説明する必要もないだろう。DAZNと交わした大型中継権、ACLでの躍進と韓国のサッカーファンたちが羨ましがることばかりが続くだけではなく、先週末はつにい先週末はヴィッセル神戸のルーカス・ポドルスキが鮮烈デビュー。その活躍は韓国メディアでも報じられた(サガン鳥栖のチョ・ドンゴン、ガンバ大阪のファン・ウィジョの活躍も、もちろん報じらた)。

盛り上がるJリーグとは対照的に、Kリーグは散々だ。先週末はリーグ戦を中断してオールスターを開催。それもはるばるハノイまで飛んで、東南アジア競技大会(SEA)に出場するU-22選手中心のベトナム代表と対戦したが、0-1で敗れてしまった。

「祝祭ではない屈辱で終わったKリーグ・オールスター」(『Newsis』)、「ハノイで恥、Kリーグ・オールスター衝撃敗」(『聯合ニュース』)と韓国メディアもあきれ気味だ。

そんな韓国メディアをウォッチしている中で、こんな記事も見つけた。

「Jリーグ長崎、“観客数水増し”摘発で懲戒危機」。スポーツ新聞『スポーツ・ソウル』の記事で、記事では2010年に発覚した大宮アルディージャの観客水増し疑惑にも触れながら、「日本でまたもや“観客水増し”事件が起きた」としていたが、韓国が言えた立場ではないというのが正直な感想だ。

というのも、ほんの数年前までは韓国Kリーグでも観客数の水増しがあったからだ。ひとつやふたつではない。ほぼすべてのクラブが“水増し”していたと言ってもいいかもしれない。

筆者は1997年からKリーグを取材しているが、当時は試合記録紙の観客数欄が、「1万2000人」、「9800人」となぜかどの会場も切りの良い数字だったし、記者席に座っていると、クラブ関係者がスタンド全体を見渡しながら、「今日は1万人としよう」という場面に出くわしたこともある。

当時はプロ野球とKリーグの観客数比較が頻繁に行われていたこともあって(今もだが)、プロ野球の観客動員数を意識した“水増し”もあったほどだった。

そうした悪習が断ち切られたのは、2012年からだ。

それまでは集計も申告も各クラブ任せで、多くのクラブがバラまいた無料招待券(これが水増しの温床になっていた部分もある)なども含めて「入場観客数」としていたが、2012年から実際にスタジアムに入場した人数のみを集計して発表するようになった。

正確な数字を把握するために、チケット発券業者が集計結果を発表するようになり、集計が正確になされているかを確認するために、Kリーグが各試合会場にマッチ・コーディネイターを派遣するようにもなった。

この結果、2012年のKリーグ観客動員数は計352試合で241万9143人(平均7157人)に。前年度は283試合だったにもかかわらず、303万586人(平均1万2709人)だったことを考えると、 “水増し”がどれだけ横行していたかがよくわかるだろう。

そういった悪習を断ち切ったことは評価できるが、Kリーグが深刻なのはその観客数がまったく伸びないことだ。

(参考記事:転げ落ちるように落ちていくKリーグの観客動員数がさらに激減…その原因はどこにあるか)

7月27日にKリーグは、今季クラシック(1部リーグ)のクラブ別有料入場者数(今季の22節まで集計)を発表しているが、平均1万人を突破しているのはFCソウル、全北現代、浦項スティーラーズの3クラブのみ。あとは8000人以下で、クラシック最下位の江原FCの1試合平均は2022人しかならない。

しかも、平均観客数がすべて「有料入場者」とも限らない。

Kリーグの観客数の少なさは以前から指摘され有名だ。最近は人気低迷の原因として、スタ―選手たちの相次ぐ海外進出、それもこの夏に増加したJリーグ進出も関係していると言われているいるが、原因はそれだけではないだろう。

(参考記事:なぜ今、韓国人選手のJリーグ進出が増えているのか。加速するK→J移籍の背景)

とりわけ市民クラブの低迷ぶりは深刻である。

Kリーグでは平均観客数とともに、「有料観客数」と「有料比率」も併せて発表しているが、6位の仁川ユナイテッド(6449人)の有料比率は52.5%(3385人が有料)、最下位の江原FC(2022人)に至っては1335人(66%)だけが有料入場者だったというのだ。

ここまで少ないと「本当にプロリーグなのか」と思えてくるほどでもある。Kリーグの深刻な不人気ぶりを示しているのは言うまでもないだろう。

(参考記事:Kリーグが企業からも地方自治体からも愛されていない理由)

人気も話題性も観客動員数でも、Jリーグにどんどん突き放されていくKリーグ。かなり深刻なように映るのは、私だけはないような気がする。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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