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意外に多い自動ブレーキ事故 2輪への導入は進むのか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
画像出典:Webikeバイクニュース

自動化による新たな問題

自動ブレーキによる事故が意外にも多く発生しているというニュースが最近話題になっていた。

いわゆる衝突被害軽減ブレーキというもので、人や障害物を検知して自動的に減速を行うシステムだが、これが誤作動するなどトラブルの報告が2017年に82件も国土交通省に寄せられていたらしい。中には歩行者がはねられる死亡事故も発生している。

同省によると、17年に利用者やメーカーから自動ブレーキを巡るトラブルが340件寄せられていて、専門機関が分析したところ、自動ブレーキが十分に作動しなかった88件のケースの中で72件の接触や追突事故が発生。

また、勝手に作動したケースも249件あり10件が事故につながっていたそうだ。同省によると、速度が高い場合や暗闇時に十分に作動しない可能性があり、動画を公開するなど性能を過信しないよう注意を呼び掛けている。

ご存じのとおり、4輪の自動運転化は世界中で急速に進んでいる。国内においても、自動ブレーキ搭載車は2016年時点で生産車の7割近くに達していて、政府もその割合を2020年には9割まで高めることを目指しているそうだ。

自動ブレーキが事故低減に大きく寄与していることは疑いようもない。ただ、そこに油断や過信が生まれると事故へとつながっていく。前述の例はクルマの自動化が進めば、それに伴って新たな問題も増えてくることを示唆している。

2輪向けの安全テクノロジーも進展あり

一方、2輪においても今後はアクティブセーフティの分野で新たな進展がみられそうだ。ABSやMSC(モーターサイクル用スタビリティコントロール)など2輪向け安全テクノロジーの開発で有名なボッシュでは、次の段階としてレーダーベースのアシスタンスシステムの開発を急いでいる。

ひとつは「ACC(アダプティブ クルーズ コントロール)」というもので、交通の流れに合わせて車速を調整し、前走車との安全な距離を維持することで追突を効果的に防ぐシステム。「衝突予知警報」は他の車両が危険なほど接近しているのにライダーが何も対処しないと、聴覚や視覚に訴える信号によってライダーに警告するというもの。

そして、「死角検知」は車両の周囲をモニターしてミラーに信号を表示するなど、ライダーが安全に車線変更できるように支援する。これらのシステムは既に4輪では一般化しているが、それを2輪にも応用するものだ。ボッシュではこれらのシステムの投入により、2輪事故の7件に1件を防ぐことが可能としている。

なお、2輪用アシスタンスシステムは2020年からドゥカティやKTMなどの量産モデルでも採用予定となっている。

2輪用自動ブレーキの問題点とは

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さて、話を戻して自動ブレーキだが、果たして2輪にも応用可能なのだろうか。ライダーに対して注意喚起や警告を行うアシスタンスシステムであれば、特に大きな問題もないだろう。あるとすれば信号音がうるさくてOFFにしてしまうことぐらいか。

ただ、自動ブレーキに関してはどうだろう。元々が不安定な乗り物で、ライダーがシートベルトなどで保持されていない2輪の場合、ライダーが意図していない場面でいきなりブレーキが効いてしまうことは恐怖以外の何物でもないだろう。

意図しないブレーキは危ない

自分はかつて実際にその恐怖を体験したことがある。10年以上前になるが、当時鳴り物入りで2輪に導入された、あるブレーキシステムがあった。

これが搭載されたニューモデルで首都高を走っていたときのこと、何回かポンピングブレーキしてタッチを確かめた次の瞬間、レバーを握っていないのにいきなり急ブレーキがかかってしまったのだ。

股間をタンクにしこたまぶつけてバイクから放り出されそうになったが、直線だったのでなんとか持ちこたえることができた。もしこれがカーブだったらと思うと今でもゾッとする。

もちろん、メーカーにも報告して改善を要求したし、後に自分でも調べてみるとこのシステムには学習機能が付いていたらしく故障も多かったようだ。それから間もなくして電子サーボブレーキ搭載車はカタログから消え、それ以来、同じようなシステムを導入しているメーカーはない。

こうした例からも、ライダーが意図しない状況で作動する自動ブレーキは危険が大きいと思う。とは言え、安全性向上のための研究は必要だ。ライダーに自動ブレーキの作動を知らせる事前の警告をどのように伝えるかなど、4輪とは異なる2輪の運転特性に合わせた新たなシステムの考案が必要だろう。

人間が作るものに絶対はない

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ここで言いたいのは、人間が作ったものに絶対はないということだ。冒頭で示した4輪の自動ブレーキのトラブルや事故も同じ。家電やパソコンでも電子製品はいつか必ず故障する。

それがクルマやバイクなど人の命を預かる乗り物では、決してあってはならないことだが、現実的には起きてしまう。そして運が悪いと事故につながる。事故に想定外はないのだ。

もちろん、メーカーは不断の努力で安全に取り組んでいると思うし、そう信じたいが、運転者である我々自身も「絶対はない」という心構えで普段からハンドルを握り、バイクに跨りたいと思う。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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