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中学校教員の8割が月100時間超の残業 働き方改革「上限規制」の対象外

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
中学校教員の8割が月100時間(過労死ライン)を超えて残業している

■教員は上限規制の例外

政府が進める働き方改革において、残業時間の上限を「年間720時間以内」「月100時間未満」などとすることが、3月に決定された(「時間外労働の上限規制等に関する政労使提案」)。この上限規制の対象からはずされた労働者がいる――公立校の先生たちだ。

上限規制については、それに違反した企業には罰則が科されることになっている。企業にとっては重大な規定であり、上限を超えないよう経営努力が要請される。ところが、公立校教員のように上限規制をはずされてしまえば、この働き方改革の時代においても、その長時間労働にはまったく歯止めがかからないままとなる[注1]。

このような理由から、本記事では教員の労働時間に上限を設けることの重要性を、統計資料から明らかにしたい。

■「週の勤務時間数」から「月の残業時間数」へ

「時間外労働の上限規制等に関する政労使提案」(2017年3月17日)
「時間外労働の上限規制等に関する政労使提案」(2017年3月17日)

働き方改革の上限規制において参考とされたのが、いわゆる「過労死ライン」である。厚生労働省は、過労死の労災認定基準として、心疾患や脳疾患が発症する前の一ヶ月間に約100時間以上、または2~6ヶ月間に毎月約80時間以上の残業があった場合に、業務と発症との関係性が強いとしている。

そこで、月「80時間」「100時間」の残業という基準から教員の勤務実態を整理したいのだが、じつは調査の多くは、週当たりの勤務時間数をたずねている[注2]。つまり、「月」ではなく「週」について、「残業時間数」ではなく「勤務時間数」が調査されてきたのだ。したがって、過労死ラインの観点から整理するには、「週の勤務時間数」を「月の残業時間数」へと数値を変換する必要がある。

■「過労死ライン」の月100時間超の残業 中学校教員で8割

小中学校教員における1ヶ月の残業時間数
小中学校教員における1ヶ月の残業時間数

教員の勤務時間数については、私もこれまで何度も言及してきた連合総研の調査報告書に詳しい。だが、この調査でもまた、週あたりの勤務時間数が用いられている。

そこで、調査報告書に記載された数値をもとにして、週あたりの法定労働時間(40時間)以上の勤務時間を残業とみなし、その値を4倍(4週分=約一ヶ月分)にして、一ヶ月あたりの残業時間数を算出しよう。

週に60時間勤務している場合には、一ヶ月あたりの残業時間数は、(60時間-40時間)×4週=80時間 となる。そして週に65時間勤務の場合には、(65時間-40時間)×4週=100時間 が一ヶ月あたりの残業時間数となる[注3]。

さて、計算結果を示した図は、学校現場の過酷さを私たちに教えてくれる。

中学校の教員の8割が、過労死ラインの「月100時間超の残業」をしている。小学校でも、半数強がそれに該当する。ハードルを少し下げて、「月80時間超の残業」でみてみると、中学校では9割弱、小学校では7割強にまで達してしまう。

■異常事態を見過ごしてよいのか

イメージ(素材提供:写真素材 足成)
イメージ(素材提供:写真素材 足成)

基本的に小中ともに厳しい勤務状況であるが、そのなかでもとりわけ、中学校教員の8割が「月100時間超の残業」はまったくの異常事態である。職員室のなかにいる教員の大多数が、おおよそ毎月にわたって100時間を超える残業をしていると考えられる。

先述の連合総研の報告書では、教員は他職種よりも圧倒的に勤務時間が長いことが示されている。しかも本記事の分析から見えてきたのは、教員の勤務時間は単に長いだけではなく、過労死ライン100時間を超えるという異常事態である。

だが、それでも残業時間数の上限は設けられない。その理由は、先日の拙稿「教員の出退勤 9割把握されず」にも書いたとおり、いわゆる「給特法」などの法律により、教員には残業代が支払われず、そもそも残業をしていないことになっているからである。

法律上は、定時に仕事は終わっているのであり、職員室に残っているとすればそれは好き勝手に残っているだけとみなされているのだ。だから、勤務時間に上限を設けるという発想自体が、法律と矛盾してしまう。

この矛盾は、簡単には解けない根深い問題である。だが、先生たちは今日もまた、朝早くから夜遅くまで、(残業代もないままに)過労死基準を超える勢いで、働き続けている。早急な法改正と上限規制が必要である。働き方改革から教員を排除してもよい理由など、どこにもないはずだ。

  • 注1:なお、私立学校と国立大学附属学校の教員は、時間外労働における上限規制の対象となっている。
  • 注2:たとえば、日本の教員の勤務時間が世界一であるとして話題になったOECDの調査(2013年実施)では、一週間あたりの勤務時間数が、調査対象国・地域間で比較されている。
  • 注3:連合総研の調査報告書には、週の勤務時間数のカテゴリは「60時間以上」が最大である。ただし、連合総研が4月26日にマスコミ宛てに送付した補足資料に、週に「65時間以上」勤務している教員の割合(%)が記載されている。私はその資料を入手し、月に100時間の残業を算出した。なお、一ヶ月あたりの残業時間数の計算方法は、日本教職員組合の「緊急政策提言」(2017年2月27日)に記載してあるものを参照した。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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