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保育園落ちて嬉しい「不承諾通知」歓迎の問題からお妊婦様問題、マタハラ問題を1つの問題として議論しよう

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
保育制度の改善を訴え新宿駅前で集会(写真:ロイター/アフロ)

●“認可保育園に落ちてよかった現象”とは

2月9日BUSINESS INSIDER JAPANで『「保育園落ちてもいい」親たち。待機児童の一方で「不承諾通知」歓迎と内定辞退続出の訳』という記事が掲載された。待機児童問題のもう一つの顔、“認可保育園に落ちてよかった現象”として、2つの女性を例に挙げている。

1つは、認可保育園に普通に申請したけど落ちてしまった女性が、まずは認可外保育園に子どもを入園させ、時短で週2〜3回の出勤で体を慣らしながら復帰できるため、むしろ認可に落ちてよかったという事例。

もう1つは、確信犯で不承諾通知を受け取った女性の事例。申し込める5枠に対し、そもそも1園しか申し込んでおらず、会社に「認可保育園に落ちた」と伝え育休を継続。こちらも認可外の保育園に預け、週に2〜3回短時間で子どもを預けて保育園生活に慣らし、育休を1年取得して職場に戻った。

いずれも職場には復帰しているのだが、その戻り方について「自分で采配する人」がいる、「待機児童問題の抜け穴」としてこういうことが可能になってしまう、「不承諾通知」は育休延長を主張するための恰好の材料だ、というような内容が記事に綴られている。

1歳の4月入園は激戦。0歳の4月入園では子どもも小さいし、産後の体で仕事も育児も家事もと抱え込むのは不安。最終的にはきちんと職場復帰を果たしているので罪悪感はない。だから、このような「あえて不承諾通知」を受け取り「自分のタイミングで復帰」する女性が多いと記事にある。このようなことをする女性の心理として、復職後の仕事と子育ての両立があまりに過酷だから。復帰後の過酷なワークスタイルの問題にもっと目を向けてほしいと記事は締められている。

仕事しながら子育てする女性は、みんな大変だ。中には大変でも、保育園が決まるとともにきちんと復帰する女性もいる。大変だからといって、すべての女性がこのようなことをするとどうなるか。

記事では、「不承諾通知」や「内定辞退」は、正確な保育ニーズが不明になるなど、周囲に深刻な影響があるとも触れている。一人が内定辞退をすると、本当はそこの保育園に入れた人が入ることができず、他の人の内定先も変わってしまう。入れなかった保護者は追加募集に応募しなければならず、保活を長引かせる原因の一つになるという。

さて、皆さんはこれに対し、どのような反応か?

●1歩進むと“お妊婦様問題”や“モンスターワーママ問題”に

2つの事例とも最終的には職場復帰しているが、私のもとには、確信犯で復帰しない事例も届いている。

1月末に横浜市の認可保育園の選考結果が配送された。ある親たちで保育園に入れたかどうかを話題にしていた時のこと。一人が「うちはわざと入れない保育園を1~2つだけ書いて落ちた。今年も同様に申請して2年まるまる育休取得して、これで正当な理由で退職できる」と言った。

わざと落ちるのが、「正当な理由」?復帰のために、席を空けて待っている職場の対応は水の泡。フォローする周りの社員もフォロー損。もし代替要員が入っていたら、復帰予定の期間で派遣や契約社員と契約しているはずだから、その人たちの職歴にも影響を及ぼしてしまう。

さらにこれが進むと「お妊婦様問題」「モンスターワーママ問題」になっていく。代替要員なんて知ったことか、というお妊婦様の事例がある。

妊娠している社員が「これ以上仕事は続けられない。けれど産休育休は取得したい」と言い出した。「復帰はしないと約束してくれるか」と上司が問うと、それを「マタハラだ」という。辞めるのなら、代わりのスタッフが必要だ。本人は子どもを保育園に入れるために復職証明が必要なのか、実際は復帰しないのに、そこまで最大限に権利を利用して辞めるつもりのようだった。代替要員を入れるか入れないか、代替要員の期間も決められない職場の迷惑などまるで考えていない。おまけに「他から転職して来ないかと誘われている」と平気で話す。「では、そちらに転職したらどうか」と上司が言うと「迷惑を掛けるのは、転職先に悪いので」と言うので「うちに迷惑掛けるのはいいの?」と問うと「退職勧奨ですか!マタハラですか!」と言い返してくる。社会人としての常識すらなく、どうしようもなかったという。

わざと保育園に落ちるのは、1歩間違えば「お妊婦様問題」や「モンスターワーママ問題」といった自己都合の権利主張型に見えて来てしまう恐れがある。

・お妊婦様とは、

妊婦が「妊娠」というカードを最大限に利用して、仕事や周囲への気遣いをせずに過剰な権利意識で職場に迷惑を掛けたり、周囲を傷つけたりする行為

・モンスターワーママとは、

感謝の気持ちや共感能力に乏しく、権利ばかりを主張して、育児をしていることで職場に迷惑を掛ける行為

参考記事:マタハラ防止で出没しはじめる、お妊婦さま!

●「不承諾通知」歓迎問題、お妊婦様問題、マタハラ問題を1つの問題と捉えよう

妊娠・出産・子育てしながら働く女性が、いくつものグループに分かれてしまっている。フリーランスや女性経営者に見られる、産休もろくになく産んですぐに復帰する人。育休を取得し、保育園に申請してそれが決まればきちんと復帰する人。普通に申請して保育園に落ち、それを良かったと思う人。わざと保育園に落ち、育休を延長する人。そもそも復帰する気がないのに育休を取得する人。強引に育休を取得する自己都合のお妊婦様。そして、本気で保育園に入り仕事をしたいのに、何年も落ちて復帰できない「保育園落ちた、日本死ね」と思っている人。ホワイト→グレー→ブラックと女性たちのあり方が、グラデーションしている。

そして、このような様々な女性たちの姿勢が、マタハラ問題にも繋がっている。あるマタハラを起こしてしまった職場では、初めて産休育休を取得した女性が、ひどい制度の取り方をした。産休育休から復帰するたびにまた次を妊娠し、無断での遅刻や早退・欠勤を繰り返すなどマナーがなく、立て続けに3人産んで辞めて行ったそう。これを機に上層部が「産休育休制度には反対!」という態度になり、本当に働き続けたい女性社員にも妊娠と同時に辞めるよう促すマタハラを起こした。お妊婦様が悪例となり、本当に働き続けたい女性へのマタハラへと繋がってしまうことがある。(なお、私は2人目3人目の妊娠で連続して制度を利用することが悪いとは思っていない。2018年2月20日追記)

「お妊婦様問題」などという言葉を使うのは良くない、それを武器に会社がマタハラをする、このような言葉を広めるなという人もいる。つわりで辛いので休憩が多い、体調不良で休む、育児で残業できない、夜勤できないなどは、やむを得ないこと。それに対して会社が「それはお妊婦様だ」と正当な権利行使を抑制しかねない、という懸念からだ。

私もマタハラ防止が施行される以前に、お妊婦様問題の記事を目にすると「今はこういう記事を書かないで欲しい。本当にマタハラで苦しんでいる女性が余計に辛い立場に追い込まれる」と思っていたので、このような懸念はとてもよく分かる。

けれど、上記の例でも分かるように、お妊婦様問題に悩んでいる会社は現実にあるし、お妊婦様がマタハラ問題の間接要因の可能性もある。すべての問題は繋がっている

不承諾通知を歓迎する人たちがいるという記事が出てきている以上、マタハラ問題、お妊婦様問題、すべて同じ机の上に乗せ一緒に議論していかないと、一連の問題は解決に向かって行かない。大事なのは、このような様々な女性がいることを会社も社会も認識すること。そして、個々のケースに応じた対応をきちんとすることだ。

マタハラもあってはならないが、お妊婦様もあってはならない。問題の端と端とをきちんと抑えないと、一連の問題は正しい位置に納まっていかないと私は思う。

保育園に落ち続けた女性の参考記事:

保育園4回落ちた。夫婦フルタイム申請でも保育園に落ち続け“幼稚園難民”へ。原因は夫の所得なのか?!

フリーランスや女性経営者の参考記事:

産休制度もなく保育園申請ポイントも低い。増えているフリーランスの仕事復帰に立ちふさがる高き壁とは

切迫流産で医師より安静の指示を受けても休めない。働きながら妊娠するフリーランスや経営者の厳しい現実

一時保育の申請に深夜2時から並ぶ。フリーランスや女性経営者の預けたいのに預けられない苦しい実態

取引先に妊娠を告げた途端、仕事が激減。マタハラから守られていないフリーランスや女性経営者の苦しい実態

●これら一連の問題に対し、現状どうすればいいか

まず、産休育休制度の共通認識を広めよう。産休・育休は「仕事を継続するためのサポート制度」である。「権利」という言葉をあえて使うのであれば、「働き続けるために行使する権利」であって「今まで働いたから得られる権利」ではない。あくまでも“架け橋制度”と認識してもらいたい。

けれど、出産や育児にトラブルは付き物で、産後の体調が思わしくない、子どもが病気や障害を持っているなど、予想外のことが起こることもある。また、実際に産んでみると子育てが大変で仕事との両立が不安になることもあるだろう。そのような場合は、その都度きちんと会社に相談すべきだと思う。待っている会社側への負担を減らすように心掛けた行動が必要だ。もし正社員で働くのは苦しい、仕事をセーブしたいと思ったら、パートなどの緩やかな働き方でもいいから、制度を利用したら何かしらの形でも働き続ける努力をして欲しいと思う。

働き続けたい意思を示しているのに、会社が制度を使わせてくれなかったら、その時は「マタハラだ」と抗議すべきだ。マタハラが市民権を得て、措置義務も施行された今なら、以前より声を上げやすいと思う。

会社側には、女性社員を一括りにせず、様々な女性のケースに合わせた対応をしてもらいたい。様々な女性がいることを知ってもらいたいし、それに対応できる上司を育成してもらいたい。また、お妊婦様が出ないよう、新卒で入社した時から「この制度はどういう制度なのか」を教育する研修をするといい。

そして、政府や行政もこのような一連の問題が起こっていることをきちんと把握し、育児給付金取得者とその後職場復帰した人の人数をきちんと発表して欲しい。育児給付金を取得したのに復帰しなかったのは、お妊婦様で不正受給にあたるのか、マタハラで会社側の違法行為なのか、保育園に入れなかったからなのか、そこには相反する問題が潜んでいることも追及して欲しい

待機児童問題がなく、申請すればその時点で誰でも保育園に入れれば、このような「自分で采配出来てしまう問題」は起こらない。

理想は、育児の多様性がもっとあることだ。待機児童問題に左右されて、保育園入園の時期が一律に0歳の4月に殺到するのではなく、子ども一人一人の成長や体調、性格に合わせたタイミングで入園でき、希望する時期に確実に入れれば、復帰の調整など会社側の負担は少なくて済むし、あえて保育園に落ちて嘘を付く必要などなくなるはずだ。けれど、この理想にたどり着くのには時間がかかるし、たどり着けるかも今の国の方針では定かではない。

現状でやれることは、先述もしているが、「不承諾通知」歓迎問題、お妊婦様問題、マタハラ問題を1つの問題として捉え、会社側はどうして行けばいいか、女性たちはどうすればいいかをみんなで議論し、あるべき姿を共通認識として作っていくことだと思う。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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