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メイウェザーとパッキアオがバスケ試合でまたも遭遇。リマッチかそれとも?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
8日、再会したメイウェザーとパッキアオ(写真:Clippers Media)

歴史は繰り返す?

 8日(日本時間9日)ロサンゼルスのステープルズ・センターで行われたNBAのゲーム、LAクリッパーズ対シャーロット・ホーネッツ戦(128-109でクリッパーズの勝ち)をボクシングの2大巨頭、フロイド・メイウェザー(米)とマニー・パッキアオ(フィリピン)が観戦。スポーツギャンブルに大金をつぎ込むメイウェザー。トレーニングの合間に自らプレーを楽しみ、フィリピンではプロリーグの選手兼コーチのパッキアオと2人のバスケットボール好きは有名。インターバルでパッキアオがTシャツをスタンドに配り、コートサイドに座っていたメイウェザーに握手を求めた。

 4年前の1月27日マイアミで、2人は同じくNBAのマイアミ・ヒート対ミルウォーキー・バックスをコートをはさんで観戦。試合後、言葉を交わし、ホテルの部屋で1時間ほど会談。同年5月2日の試合実現へ大きく前進した経緯があった。今回は話をすることはなく、すぐ別れたが、再戦締結の前兆ではないかとメディアは煽っている。

 両者が再びリングで対決するとなれば、もうマネーのことしか頭にない。何しろ第1戦は総収入が日本円で何と600億円を超える超デラックスファイトだった。その軸となったのはPPV(ペイパービュー)売り上げで4億3000万ドル(約473億円=1ドル110円として計算=以下同じ)にも上った。全米とカナダで460万件のPPV購買数を記録。メイウェザーのファイトマネーは2億2500万ドル(約247億5000万円)、パッキアオは1億6000万ドル(約176億円)に達した。

 もし第2戦が実現しても収益は前回の半分行けば御の字というのが一般的な見方だ。これは「世紀の対決」と呼ばれた一戦がスペクタクルに欠け、ファンの期待を大きく裏切ったことが影響する。だが売り上げが半分と仮定してもすごい金額に変わりない。アリーナでの遭遇は、ただの偶然ではなかったのかもしれない。

イージーマネー

 大みそか、米国メディアの報道でキックボクサー、那須川天心とのエキジビションマッチで900万ドル(約9億8000万円)稼いだといわれる”マネー”メイウェザー。今後もイージーマネー(楽な仕事で大金を稼ぐ)を求める姿が想像できる。よって、トレーニングに集中し体を絞って準備しなければならないパッキアオとの再戦はあまり魅力がないのかもしれない。表面上メイウェザーは「ボクシングは引退した」と広言している。

 日本でイージーマネーを得たメイウェザーに対しパッキアオは今月19日ラスベガスでエイドリアン・ブローナー(米)を相手にWBAウェルター級“レギュラー”王座の防衛戦を行う。キャンプ中に女性への不品行で訴えられるなど(それも2件)スキャンダルの帝王ブローナーを片づければ興行主のPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下の他の3人の世界王者との統一戦が具体性を帯びる。

ブローナー戦に備え最終調整に熱が入るパッキアオ(写真:MP Promotions)
ブローナー戦に備え最終調整に熱が入るパッキアオ(写真:MP Promotions)

 注目したいのはブローナーの背後にTMT(ザ・マネー・チーム)、メイウェザーのプロモーション会社が控えていることである。順当にパッキアオが勝ち、ウェルター級統一戦に進むシナリオが考えられる。同時にブローナーが勝って以前「兄貴」と慕っていたメイウェザーと対戦する展開もあるだろう。あるいは別の対戦相手が浮上するかもしれない。だがやはりメイウェザーvsパッキアオ2が具体化するとみる。ただ実現するかどうかは全く見通しが立たない。正直言ってボクシング業界は冷めている。逆に相変わらずメイウェザーに熱い視線を送るのが総合格闘技UFCだ。

UFCの旗頭ヌルマゴメドフ

 昨年からメイウェザーを挑発するアクションを見せるのがハビブ・ヌルマゴメドフ(UFCライト級王者)だ。27勝無敗のロシア人は昨年10月、一昨年メイウェザーと「異色対決」を戦ったコナー・マクレガー(アイルランド)に4ラウンド一本勝ち。試合後マクレガーのセコンドと乱闘騒ぎを起こしたのはいただけないが、PPV購買件数が250万件に達し、絶大なインパクトをファンに与えた。UFCの打倒メイウェザーの旗頭に君臨する。

 もっとも人気の方はマクレガーに負うところが大きかったかもしれない。何しろメイウェザーvsマクレガーは430万件のPPV購買をマーク。メイウェザーvsパッキアオにわずかに及ばなかったが、ボクシング試合歴代2位の驚異的な数字を残した。マクレガーにボクシングルールを強要したメイウェザーの是非はともかく、続・金満ファイトと形容したくなるような収益をもたらした。

 経済誌フォーブスによるとメイウェザーのファイトマネーは2億8500万ドル(約314億円)。仰天させられるのはパッキアオ戦の報酬を超えたことだ。ボクシングのデビュー戦の相手にさほどトレーニングに没頭しなくてもビッグマネーを得たことになる。ちなみにマクレガーも9900万ドル(約109億円)をゲットしている。まさにイージーマネーの典型。二匹目のドジョウ、那須川戦を入れると三匹目がヌルマゴメドフなのかもしれない。

UFCが送り込む刺客ハビブ・ヌルマゴメドフ(写真:MMAiunkie)
UFCが送り込む刺客ハビブ・ヌルマゴメドフ(写真:MMAiunkie)

すべては“マネー”次第

 だが今回、UFC側はボクシングルールではなく、UFCルールでの試合を要求している。これをメイウェザーがすんなり受けるとは考えられない。あれこれと難癖をつけて最後はボクシングルールを押しつけるはずだ。ヌルマゴメドフは30歳と41歳のメイウェザーをフレッシュさで勝り、マグレガーを終始圧倒しギブアップさせたように甘く見ることは禁物だ。一時キックや寝技の特訓を敢行したメイウェザーだが、今から思うとポーズに過ぎなかった。今さら相手の土俵で戦う冒険は冒さないに違いない。

 UFC側がヌルマゴメドフを擁してオファーを強制すれば、交渉は難航するだろう。妥協点を見出そうとすれば、どのあたりに落ち着くのか。ルール面でメイウェザーに好き勝手に動かされているUFCは今のところ譲歩する態度は見せていない。それでもすべては“マネー”次第。今後の成り行き、宣伝効果によって一気に実現に向かう可能性がある。

 一つ、4年前の一戦ではパッキアオが右肩の負傷を隠してリングに上がった背景がある。パッキアオ・ファンの中には「健康な状態でメイウェザー戦が見たい」と渇望する者も少なくない。地球規模の知名度ではパッキアオがメイウェザーを上回る。他方で米国では勢力拡大が顕著なUFCがメイウェザーにラブコールを送り、メイウェザーもイージーマネー獲得のチャンスを求める。「見積」ではヌルマゴメフを選択しそうなメイウェザーだが、有終の美を飾りたい気持ちがあるのならパッキアオ再戦になびくこともあり得る。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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