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欧米の強豪国に走り勝つ!なでしこジャパンに注入された走力アップの秘訣とは。(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
多くの関係者が見守る中で行われた朝原宣治コーチの特別授業(C)松原渓

1月20日から都内で国内合宿を行っていたなでしこジャパンが、24日、東京都内の味の素フィールド西が丘サッカー場で最後のトレーニングを終えた。

2019年の女子ワールドカップ、2020年の東京五輪という大きな目標に向けて、なでしこジャパンが本格始動した。来年4月にヨルダンで行われるAFC女子アジアカップ(2019年ワールドカップアジア予選)に向け、今後は選手の絞り込みや戦術面の落とし込みなども進んでいく。

その中で、高倉麻子監督は今回の合宿を「フィジカル(を高める)キャンプ」と位置付けた。対外試合などは組まず、5日間、フィジカルトレーニングやウェイトトレーニングなどを中心に行った。

21日と23日には、ゲスト講師を招いての「特別授業」も行われた。

21日には、田中ウルヴェ京(みやこ)氏によるメンタル講義が行われた。そして、23日の午後には、08年北京五輪陸上男子400メートルリレーで銅メダルを獲得した朝原宣治氏によるスプリントトレーニングが行われた。

【注入された世界トップクラスの「走り」】

都内の体育館で約2時間にわたって行われたトレーニングの中で、朝原コーチからなでしこジャパンの選手たちに伝授されたのは「走り方のフォーム」ではなく、走りの基礎となる「体の使い方」である。

シンプルな動きの中で、体の中心や背骨、股関節などを意識し、効率的な走りにつなげるための体の動かし方を学んだ。

具体的なイメージを交えて講義を行う朝原コーチ
具体的なイメージを交えて講義を行う朝原コーチ

最初に、体の中心である「丹田(たんでん)」(おへその下)を固定し、いろいろな動きに対応するための基本動作を学んだ。続いて、4足で歩く「トカゲ歩き」で、足と腕をしっかりと連動させる。

その後は、ハードルをゆっくりとまたぐ動作や、ジャンプ動作を行った。骨盤を立てて体の軸を一定にし、体の上下左右の振れを少なくすることなどがポイントとして挙げられていた。

基本となる感覚を体に染み込ませた後は、いよいよ「走り」のトレーニングに突入。踏み込む際の重心の置き方や、空中で効率よく脚を入れ替え、足を交互に素早く動かすコツが指導された。最後は、17歳で10秒01をマークし、今や日本の短距離走のホープでもある桐生祥秀選手も取り入れているというメニューにも挑戦。

ポイントを説明しながら、朝原コーチが見本を見せると、選手やコーチたちから「おぉ〜」と歓声が上がった。

以前から朝原氏と親交があり、「なでしこ(の足)を速くしてほしい」と直々に打診したという高倉監督も、自らトレーニングに参加し、言葉に実感を込めた。

「私が現役の時に教えてもらいたかったな、と(笑)。立っているだけでかっこいいですよね。超一流の方なので、選手それぞれの消化の仕方や納得度も違うと思います。本当に意識してやり続けたら、(走り方が)変わると思います。」(高倉監督)

トレーニングに参加した28人の選手たちも、それぞれ、自分に合った強化のメニューを見つけたようだ。

「朝原さんの講義は、今まで意識していなかったことばかりでした。道具を使わずにできるメニューが多く、自分の体やマーカーがあればできるので、チームの練習後でも時間を作って継続したいです。」

そう話すのはMFの國澤志乃(AC長野パルセイロ・レディース)。

トレーニング後は朝原コーチに対し、質問の時間も設けられた。

【「やるか、やらないかは自分次第」】

小柄な日本人が、身体能力の高い欧米の選手たち相手に走り(当たり)負けないようにするためにどうすれば良いのか。日本のサッカーでは「日本人の技術の高さ」ばかりがフィーチャーされやすく、これまではその発想自体が希薄だった。

今回の合宿で取り入れたフィジカル強化のための様々な取り組みは、「個」を鍛えるための導入部分であり、選手たちの自覚を促したようだ。

U-20からの選出となったDFの北川ひかる(浦和レッズレディース)は、5日間の合宿を終えて、こう話した。

「フィジカルを高めることの大切さが分かりましたし、(日本のサッカーは)ポゼッションすることが一番というわけではないんだな、と実感しました。個人としてもいろいろな課題が見えました。」(北川)

また、同じくU-20から選出された市瀬菜々(ベガルタ仙台レディース)は、

「全身のウェイトトレーニングを続けて、世界で戦えるフィジカルをつけていきたいと思います。」(市瀬)

と、今年1年の目標を見据える。

合宿会場にはなでしこリーグの指導者や関係者も招待され、連日、スタンドや体育館でトレーニングを視察する姿が見られた。

「世界に対抗するためのフィジカルアップは必要だと考えていますが、それは日々のトレーニングでしかつかないものですし、リーグの皆さんと一緒にやっていきたいと考えています。それぞれのチームの考え方ももちろんあるので、こちら(代表)の考え方をお伝えして、うまく織り交ぜながら行きたいな、と。(継続する中で)選手たちの体がひとまわり強くなるといいなと思います。」(高倉監督)

合宿の最後のミーティングでは、新キャプテンとしてDF熊谷紗希(オリンピック・リヨン/フランス)が指名された。

このチームで臨む最初の大会は3月初旬のアルガルベカップである。そして、4月9日には熊本で、コスタリカ代表との親善試合が行われることも発表された。

今回の合宿で示されたフィジカル強化への新たな取り組みが、なでしこジャパンのサッカーにどのように反映されるのか、期待は高まる。

そして、その成果は、選手個々の継続的な取り組みにかかっている。

やるか、やらないかは自分次第ーー。

今回の合宿を通じて、多くの選手から聞かれたその言葉が、耳の奥に残っている。

(2)【監督・選手コメントに続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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