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ハリルJAPANの岐路。本田圭佑を切るべきなのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ニュージーランド、ハイチ戦のメンバーからは外れた本田圭佑(写真:田村翔/アフロスポーツ)

エースである本田の立場

 ロシアワールドカップアジア最終予選、敵地でのサウジアラビア戦で本田圭佑が見せたプレーは、散々なモノだった。ボールを収められず、パスはタイミングが合わず、攻守の連係もちぐはぐ。右の翼は飛行不能に近かった。

「本田は終わったな」

 そういう感想や意見が渦巻いている。

 自身も低調なプレーを認めたように、代表選手にふさわしくなかった。ACミランからパチューカに移籍したが、実戦の少なさは深刻で、試合感覚を鈍らせているのだろう。危機的な状況にあることは間違いない。

 しかし、短絡的な「本田切り」で問題は解決するのか?

 10月、ハリルJAPANは本田を外し、ニュージーランド、ハイチと試合を重ねている。NZ戦、武藤嘉紀、久保裕也ら前線で先発した選手たちは、決して悪い出来ではなかった。シュートは決まらなかったものの、攻撃を活性化させていた。ハイチ戦、前線で抜擢された杉本健勇や乾貴士も才能の片鱗を見せている。指揮官が「就任以来、最悪のゲーム」と吐き捨てる中でも、それぞれ持ち味を発揮していた。

 しかし、もし彼らが本田の立場だったら――。きっと、銃弾を浴びせられるような厳しい批判に晒されていただろう。エースへの期待感と重圧は巨大だ。

本田を超える選手は出たのか?

 改めて、本田は本当に代表にふさわしくない選手なのだろうか?

 代表選手は、「過去の代表における実績と直近のパフォーマンス」という二つの要素で選ばれるべきだろう。チーム戦術に馴染むか。それは代表監督の腕の見せ所であり、選んだ上で判断されることである。

 本田は2010年南アフリカW杯で日本代表を決勝トーナメントに牽引している。以来、日本代表の中心で戦ってきた。2015年3月にハリルJAPANが発足して以降も、チーム最多得点(9点)。本田はフィニッシャーとして期待され、決して本意ではない右サイドのポジションであるにもかかわらず、その役目を果たしてきた。

 ハリルホジッチのシステムは、4―2―1―3、または4―2―3―1と表記できるが、両ワイドのアタッカーはゴールを仕留める役割を託されている。逆足(プレーするサイドとは利き足が逆)で中に切り込んでシュートを打てる。左サイドでは原口元気がこの仕事を任されているし、右サイドで台頭した久保裕也は右利きだが、中に切り込んでからの左足のシュートも得意としている。

 ただし、本田は代表の中でも貴重な左利きのプレーヤー。フィールドプレーヤーでは、他に小林祐希くらいだろう。これも、本田を選ばざるを得ない要素の一つになっている。

 そして、本田は豊富な経験によるものもあるが、チームを引き回す戦術的なIQも高い。本来はトップ下でのプレーを本人は希望も、サイドでも遜色なくプレーできるし、トップとしても機能。昨年10月のオーストラリア戦はプレッシングの起点となり、カウンターの"火付け役"としてスピードを高めていた。

 原口や久保は「ハリルの申し子」として台頭著しいが、複数のポジションに適応することはできていない。久保は6月のイラク戦、左サイドで沈黙。原口もトップ下としては凡庸な出来に終わった。

「本田を実力で抜き去った」

 その状況にはなっていないのだ。

本田への批判の理由

 しかしながら過去1年、本田のパフォーマンスは確実に下降線を辿っている。昨年10,11月の試合は違いを見せており、見切りをつけるのが難しい、というのが指揮官の本音か。今年のサウジ戦で本田は精彩を欠いたが、チーム自体も最低に近い出来だった。今年8月のオーストラリア戦でヒーローになった浅野拓磨、井手口陽介も、9月のサウジ戦は見せ場はなし。「活躍した」と太鼓判を押せるのは、決定機を防いだGK川島永嗣だけ。フィールドプレーヤーが合格点に達しない中、本田だけがやり玉に挙がってしまうのだ。

「選手でありながら、様々な事業に手を出しすぎている。ビジネスマンがボールを蹴る感じ」

 選手たちの間でも、本田への不満は思いの外に高まっている。「餅は餅屋、桶は桶屋」といったところか。副業と本業の境がなくなっていることが、批判理由の一つだろう。

 しかし、本田はその胆力を失ってはいない。ACミランでのラストゲーム、さらにパチューカでのデビュー戦で得点をもぎ取る。まさに、自ら道を切り開いてきた男の真骨頂だろう。こうした節目で点をゴールできるというのは、どの選手にもできる芸当ではない。

 ハリルホジッチが評価しているのも、この胆力にあるだろう。

 TIRAR EL CARRO(リヤカーを引く)

 スペイン語には、胆力でチームを引っ張る選手を指す表現がある。苦しい道のりでも、人々や荷物を載せ、重いリヤカーを引ける。リーダーとしての力強さというのか。代表のエースは、賞賛と同じ量の批判に晒される。重圧を受けながら、力を出し切る。並の選手にはできない。

 もし本田を切るなら、新たにリヤカーを引ける人材が必要になる。原口、久保は昨シーズンほどの輝きを所属クラブで放っていない。井手口、杉本はまだ成熟に時間を要する。W杯まで1年を切る中、代表は岐路に立っている。

 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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