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ハリルJAPAN正念場。本田圭佑のインサイドハーフ起用は吉か凶か?

小宮良之スポーツライター・小説家
シリア戦でインサイドハーフとしてプレーした本田圭佑(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、ロシアワールドカップアジア最終予選のイラク戦で選択を迫られている。これまで基本にしてきた4-2-1-3というフォーメーションではなく、4-3-3という布陣を用いるのか。変更の理由は、MF長谷部誠の故障離脱にある。「長谷部不在では中盤のバランスが取れない」と判断した上での苦肉の策と言える。

長谷部はDFラインの前の二人のボランチの一人としてプレーしてきた。守備では味方やスペースをカバーし、危険を察知できるし、攻撃ではシンプルなプレーでボールを動かし、連係も巧み。攻守両面で補完する動きができた。

ハリルホジッチ監督としては長谷部不在で、主に守備の弱体化を防ぐ急務がある。長谷部の老獪な仕事は、誰にでもできるものではない。就任2試合目のウズベキスタン戦、センターバックが相手2トップに気圧される状況で、それをサポートするポジションを取れなかった今野泰幸を、ハリルホジッチはハーフタイムで交代させ、一時は選出から外している。

指揮官は長谷部を戦術軸に据えてきたのだ。

イラク戦に向け、緊急的な4-3-3はシステムとして機能するのか?

インサイドハーフの仕事

そもそも、4-3-3というシステムの根幹はどこにあるのか?

例えば、ジョゼップ・グアルディオラとジョゼ・モウリーニョは同じ4-3-3でも、発想の出発点は対極にある。グアルディオラは能動的にボールを動かし、相手を圧倒するため、スキルが高く理知的な選手を配し、高い位置で攻め続けることを目的とする。モウリーニョは受け身的で、なにより守りを堅固にし、中盤にもポグバ、フェライニのようにフィジカルパワーのある選手を入れ、インテンシティで上回ってカウンターでけりをつける点に主眼がある。

ハリルホジッチ監督の4-3-3は、どちらかと言えば後者に近い。

システムの特色は、インサイドハーフに出る。

4-3-3では、4人のディフェンスラインの前にアンカーと呼ばれる選手を配し、前線に3人が並ぶ。インサイドハーフは、アンカーの前でFWとDFラインをつなげるのが仕事になる。中盤でボールを引き出し、動かす。サイドバックやFWが攻撃でも守備でもアドバンテージを取れるように、常にいいポジションを取ることが肝要。運動量以上に、賢さが求められるポジションだ。

インサイドハーフは四方の味方と連係してチームを回すだけに、自ずと敵のプレッシャーも受けやすい。数的同数、もしくは数的不利に陥りやすい性質がある。迅速なプレー判断と高い技術が不可欠で、動きの質と量も欠かせない。一方、相手のプレスをはがせると高い位置でボールを持て、敵陣で人がわき出すような攻撃を仕掛けられる。攻撃面で利点がある一方、連係の練度が低いと破綻する。

「4-3-3は時間を掛けたトレーニングが必要な戦術システムで、アジャストできる人材も限られている」

そういう意見は少なくなく、世界では主流ではない。もっとも、フランス代表のようにアフリカ系のパワーとスピードのあるMFが多いチームや、中盤に卓越した技術と頭脳を持った適任者のいるチームは、このシステムに挑んでいる。

では、ハリルJAPANは付け焼き刃の4-3-3システムを、不慣れな選手ばかり(所属チームの経験度も乏しい)で起動させられるのか?

本田インサイドハーフの可能性

直近シリア戦は、4-3-3でテストされた。中盤はアンカーに山口蛍、左インサイドハーフに今野泰幸、右インサイドハーフに香川真司が先発。序盤で香川が負傷交代し、倉田秋が入った。

その出来は、ハリルホジッチ本人も認めているように、散々だった。インサイドハーフはFWとの距離感が悪く、攻撃はノッキング。バックラインからのボールを真正直に受けるだけで、簡単にプレッシャーにかかった。猛然とプレスに行くも連動性はなく、立て続けに裏を取られる場面も見られた。シリアのように力の差がある相手でなかったら、もっと多くのピンチを招いていただろう。

「守備ゾーンで5mも相手を離したり、攻撃も前線がボールを受けに下がらず、距離が悪かった。中盤に人はたくさんいたが・・・。メンタルが100%でなければ、脆い部分で敗戦につながる。しかし勝てば、それがいいシステムになるのだ」

ハリルホジッチは楽観的だったが、勝ち負け以上に組織が機能しなかったことが気がかりだろう。

シリア戦で風向きが変わったのは、後半途中に入った本田圭佑が(浅野拓磨を投入後)右インサイドハーフにポジションを移してからだった。本田はアンカーやサイドバックとの適度な距離を保ち、右サイドで「攻撃の渦」を作り出した。さらに右に相手を引きつけながら、左大外のFWに入った乾貴士を有効に使い、攻撃を活性化したのだ。

本田の戦術的な理解度の高さは、代表内でも傑出している。昨年10月は、オーストラリア戦で1トップを任され、ゴールこそ決められなかったものの、チームプレーヤーとしてはほぼ満点の動きをした。ハリルJAPANでは右FWに入る機会が多いが、昨年11月のサウジアラビア戦のように左サイドにまわって長友佑都の攻め上がりを誘発するなど、どのポジションにいても独自の判断ができる。

もしイラク戦を4-3-3で戦うなら、本田のインサイドハーフは有力な一手になるだろう。

トップ下を使う4-2-1-3のほうが無難か?

もっとも、チームとしての問題は根が深い。

「中盤に問題はある」

ハリルホジッチが頭を悩ましているように、アンカーの山口も含め、今野、倉田とインサイドハーフの適性は厳しい。今年3月のUAE戦は勝利を収めたものの、戦術的には破綻しかけていた。しかも、山口、今野はケガを引きずり、イラク戦に向けては万全ではない状況。アンカーには井手口or遠藤航が入る可能性も浮上している。

しかし一番の安全策は、使い慣れた4-2-1-3に戻し、山口、今野、井手口、遠藤のいずれか二人をボランチ、トップ下に本田(or倉田)を起用することだろう。トップに大迫勇也、右に久保裕也、トップ下に本田、左に原口元気、ポジションは流動的に4人が連係する。中盤は分が悪いはずだが、前にボールが入れば脅威を与えられる。

結局、システムを使うのは選手である。今年3月のタイ戦は長谷部不在のまま4-2-1-3で戦ったが、こちらも目を覆う出来だった。早い話、中盤は長谷部を除いて適切な人材を見つけられていないのだ(監督のメンバー選考の問題でもある)。

いずれにしろ、本田が周り動かせたら、他の歯車もまわる。それがたとえインサイドハーフではないとしても。その経験、度胸、頭脳、技術は欠かせない。

長谷部離脱という試練を乗り越え、逞しく成長できるか?

ハリルJAPANは正念場を迎えた。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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