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柴崎岳のスペイン移籍話は消えるか?「煙を売る」の中身。

小宮良之スポーツライター・小説家
スペイン移籍秒読みが報じられる鹿島MF柴崎だが・・・(写真:アフロスポーツ)

「鹿島MF柴崎岳のスペイン、ラス・パルマスへの移籍は秒読み」

日本では、各メディアでそう報じられている。

スペイン大手スポーツ紙「MARCA」などの記事を基に、その「筋読み」は構成されている様子だ。パリSGのアタッカー、ヘセ・ロドリゲスの獲得交渉が暗礁に乗り上げ(高価すぎる)、その代わりの「Bプラン」として「レアル・マドリーに2得点した柴崎に切り替えるのでは」と。もっとも、日本国内の記事はずいぶん「先読み」し、「交渉は大詰めで移籍秒読みとなっていて27日には契約」と報じられたものだ。

先日、ラス・パルマスの現場に探りを入れたところの答えは明白だった。

「まったく聞いていない。その選手のことを知らなかった」

煙の正体

ラス・パルマスのフロントがなにを狙っているか、もしくはなにも考えていないか。定かではない。

しかしそもそも、最初に報じられたスペイン大手スポーツ紙「as」の報道の訳は、日本では微妙に変化していた。

正しくは「クラブがオファー」ではない。「(柴崎サイドから)クラブにオファーがあった」と書かれていた。つまり、柴崎の代理人を通じ、「柴崎はどうか」という打診があったに過ぎない。MARCAはクラブも興味を示し、「気に入った」としているが、実はクラブの見解は詳しく示されていない。「好きだ」と告白したら、「嫌いではないし、いい人だと思うよ」と返事したのを、周りが「付き合っちゃえよ」とはやし立てているのに近いのだ(一方でラス・パルマスは複数の他の選手にラブコールを送っている)。

移籍マーケットが開いた時期、こうした噂をやりとりする商売をスペインでは「vende humo」(煙を売る)と呼ぶ。真偽は怪しくても、噂(煙)を売るのだ。

その証拠に、asでは柴崎の写真が金崎夢生だったし、MARCAも左利きと柴崎を紹介している。プレーダイジェストを見て、左足で2本シュートを決めたからか。地元紙「ラス・プロビンシアス」も柴崎をウィングと適当に報道。今どき、youtubeでも確認できるようなプレーを確認もしていない。

言い換えれば、現地メディアにとって「話としては面白いから煙は売るが、交渉の信憑性が低い」ということだろう。)

ラス・パルマスが市場で求めているのは「得点力のあるセカンドストライカーで、サイドもできる選手」である。スピードがあって、独力で打開、もしくはフィニッシュする能力の持ち主。その点、ヘセは適役だった。

フロントが最優先で交渉しているのは、その条件に合ったアルゼンチン人アタッカーのホナタン・カジェリ(ウェストハム)、エルナン・トレド(フィオレンティーナ)の二人。さらに昨日は、バルサがパスを所有する左利きのサイドアタッカー、アレン・ハリロビッチ(ハンブルク)と「契約間近」の報道が出た。一方で課題は、夜のクラブでの飲酒事件が続くなど規律違反が絶えないFWセルヒオ・アラウホの放出だ。AEKアテネ移籍成立が秒読み(実はアラウホは柴崎にとってはキーマンで、この移籍が成立すると3つの外国人枠の一つがようやく一つ空きが出る。ただ、交渉しているのはアルゼンチン人選手で)。

柴崎はあくまで、マドリー相手の2得点という評判のみが先行している印象である。それが煙の正体だろう。

「大陸にマーケットを切り拓く」

MARCAはそういう表現で、柴崎の移籍を説明しているが、この感覚は20年前と比べて進化していない。日本人選手=日本企業のスポンサー契約獲得とユニフォーム販売やグッズの売り上げの飛躍的向上。単刀直入に言って、純粋な戦力としては見なしていないのが現状だ。

Jリーグから直接、リーガエスパニョーラ1部に旅立つのは、ハードルが高すぎる。仮に移籍が成立しても、継続的なプレーは考えられない。この時期の移籍は「応・即戦力」が条件となるだけに・・・。

今の柴崎はスペインの1部クラブでは、ポジションが見つからない。この連載ニュースコラムで以前も書いたが、もし柴崎本人が本当に世界最高峰リーグでの活躍を志すなら、2部からオファー(があるなら)を選択するべきだろう。彼にはそれだけの素養はある。それに躊躇いがあるなら、ドイツで探すべきで、それはタイミングさえ合えば見つかる可能性はあるのではないか。そこで奮闘し、プレーヤーとしてのキャラクターを確立するべきだ。

マーケットが閉じる31日まで、ラス・パルマスがすべての補強に失敗した場合、柴崎との契約に動く可能性もわずかだあるだろう。移籍金ゼロで獲得し、利益が出せるなら――。

ただし、プロサッカー選手はピッチに立つことが本分である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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