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北朝鮮、感染者を処刑か…金正恩式「新型コロナ対策」の冷酷無比

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の準軍事組織・労農赤衛軍の兵士ら(ウェブサイト「朝鮮の今」より日)

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1月29日、新型コロナウイルス感染症への対策は「国家存亡に関わる重大な政治的問題」であるとする記事を掲載した。

記事は「人々の健康と生命を脅かしつつ世界的範囲で伝播している新型コロナウイルス感染症が、わが国に絶対に入らないようにしなければならない」と強調。続けて「すべての党組織では、新型コロナウイルス感染症の伝播を防ぐための事業を国家存亡に関わる重大な政治的問題と認識すべき」と訴えた。

1月末の段階で「国家存亡」にまで言及するとは、北朝鮮はどの国にも増して、新型コロナウイルスの脅威を重く受け止めていたと言えるかもしれない。それもそうだろう。同国の防疫・医療システムは極めて脆弱であり、新型コロナウイルスの感染が広がって社会が混乱するようなことになれば、金正恩体制を土台から揺るがす事態につながりかねないからだ。それを防ぐために、金正恩党委員長はあらゆる手段を動員するだろう。

しかしまさか、さすがにここまでやるとは思わなかった。韓国紙・東亜日報の敏腕記者で、脱北者でもあるチュ・ソンハ氏が自身のブログで伝えたところでは、北朝鮮当局はこれまでに少なくとも3人の新型コロナウイルス感染者を処刑しているというのだ。

そのうちの1人は、中朝国境近くの埠頭を管理する貿易会社の保衛指導員だという。

保衛指導員とは、外国企業や外国人と接する貿易会社や各機関を監視するため、秘密警察の国家保衛省から派遣された要員のことだ。件の保衛指導員は、無煙炭と鉱物の密輸出(制裁破り)で相当なシェアを占める強盛貿易会社に派遣されていた。

このようなイケイケの貿易会社に派遣された保衛指導員は、中国との国境都市・新義州でも相当な有力者の地位にある。どうやらそのことが、気の緩みを誘ったらしい。

チュ・ソンハ氏によると、2月14日に彼を診断した医師は、新柄コロナウイルスの感染者と判断した。しかし、当時は信頼できる診断キットが平壌にしかなかった。患者を平壌に送らなければならない。

しかし移送に先立ち、取り調べが行われた。北朝鮮はウイルスの侵入を防ぐため、1月22日に国境を閉鎖している。それから3週間後に症状が現れたことが解せなかったからだ。

取り調べの結果、保衛指導員は規則を破り、中国人と接触していたことが発覚した。埠頭にはいつも、中国から船が来ている。夜間にこっそり中国へ渡り、密輸などで小遣い稼ぎをするのは難しいことではなかったのだろう。

チュ・ソンハ氏によれば、金正恩氏は2月初、防疫規定の違反者には軍法を適用するよう指示。これを受け、保衛指導員は2月16日に銃殺されたという。新型コロナウイルスの感染が疑われたためではなく、金正恩氏の指示を軽く見たことが咎められたということだ。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

公開処刑を繰り返し、恐怖政治で権力を維持してきた金正恩氏は、新型コロナウイルスとの戦いでも同じ手法を用いているようだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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