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被害女性9人の連続レイピスト「いつも通りのやり方」で公開銃殺

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
咸鏡北道穏城郡の住宅建設現場(撮影:デイリーNK)

北朝鮮では年末を迎え、各機関や職場で総和(総括)が行われている。これは、一年間の生活、仕事を振り返って自己批判するというものだが、同時に行われているのが、犯罪に対する取り締まりの強化だ。

このところ禁止が伝えられていた公開処刑が、最近になってまた復活したようだ。そんな中で、女性9人に性的暴行を行った男が公開の場で銃殺されたと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が伝えてきた。

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先月19日午前11時、咸鏡北道の穏城(オンソン)にある江岸(カンアン)高級中学校そばの空き地で、公開裁判が行われた。動員された多くの住民が見守る中で、9人の女性に性的暴行を行った容疑で逮捕、起訴された男性Aに対して死刑判決が言い渡され、即時執行された。「銃殺は以前と変わらぬ方式で行われた」(情報筋)とのことだ。

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現地在住の39歳の男Aは、穏城駅から南西方向の鍾城(チョンソン)に向かう道の途中にある赤い岩の付近で犯行を繰り返していた。山の中腹にあり森に囲まれ人気がなく、女性は昼間でも通るのを躊躇(ためら)う場所だった。

Aは物陰に隠れ、ターゲットの女性が通りかかると覆面をかぶって女性を脅かし、性的暴行を働いていた。町では「あそこは危ない」との噂が立っていたが、具体的な情報は伝えられておらず、商売で行き来する女性たちが日没後に1人で通らないように用心するにとどまっていた。

今年9月、穏城駅に向かっていた21歳の女性がこの地点でAに襲われた。「性的暴行は、される方にも問題がある」とみなす社会的風潮から、性的暴行の被害に遭っても沈黙する女性が多い。国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が10月に発表した北朝鮮の性暴力に関する報告書の中でも、そのような社会実態について、被害女性たちが血のにじむ証言を行っている。

(参考記事:「私たちは性的なおもちゃ」被害女性たちの血のにじむ証言を読む

それでも、この21歳の女性は勇気をもって保安署(警察署)に通報した。

通報を受けた保安員(警察官)は、この地点で1ヶ月に渡って張り込みを行った。そして、女性に性的暴行をふるおうとしているAを発見し、逮捕に至った。取り調べでAは9人の女性を襲ったことを自白。保安署からの連絡を受けた被害女性たちはようやく自らの被害について語ったという。

Aと同時に裁判を受けたのは、60代の人身売買ブローカーのBだ。10年近く北朝鮮と中国を頻繁に行き来し、密輸と人身売買を行ってきた。ある日、Bは保衛部(秘密警察)から監視されていることに気づいた。いつものようにワイロでもみ消そうとしたが、通じなかったもようで、中国への逃亡を図った。

(参考記事:中国奥地で売られた「少女A」の前に現れた救世主

しかし、北朝鮮当局から協力要請を受けた中国公安当局により逮捕され、強制送還された。数ヶ月に渡る保衛部での取り調べを受け、裁判にかけられたBに対しては、無期懲役刑が言い渡された。

人身売買取り締まりに「運悪く」引っかかり、教化所(刑務所)送りとなったBだが、ほとぼりが冷めれば、ワイロやコネを駆使して刑期を短縮させ自由の身になるだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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