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ビットコイン支配するのは中国、それともマシン 安い電気求め移動するマイナー【フィンテック最前線】

木村正人在英国際ジャーナリスト
ビットコインのマイニング工場(写真:ロイター/アフロ)

「ビットコイン採掘させる電力会社」

 [上海、ロンドン発]暴騰を続ける仮想通貨ビットコインの60%は中国の巨大マイナーによって採掘(マイニング)されています。

 その理由は(1)CPU(中央処理装置)やGPU(リアルタイム画像処理に特化した演算装置)、ASIC(特定用途向け集積回路)といったコンピューター部品が安価に手に入る(2)人件費が安い(3)中国の電気代が非常に安いことに尽きます。

 ビットコインの取引を承認するには幾何級数的な計算が求められます。マイナーがGPUやASICを大量に使って計算すると膨大な電力が消費されます。

 日本のように電気代の高い国でビットコインを採掘しようと思っても、とても採算が合わないのです。

 中国の電力会社は余った電気を無駄にするぐらいならとビットコインを採掘させているという噂も聞こえてきます。

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 統計サイトstatistaで1キロワット時の電気料金を比べてみると、オーストラリアは0.49ドルなのに対し、中国は4分の1以下の0.11ドルです。この安さが大量のマイナーを生み出しているのです。

 中国の電気料金が安いのは、安価で大量に手に入る石炭を使って発電しているからです。

 中国が今後、パリ協定に応じて温室効果ガスの排出量を減らしていけば、電気料金は次第に上がります。いずれ中国でもビットコインを採掘するのは採算が合わなくなります。

 昔、ビットコインのマイナーだったという上海在住の中国人フィンテック関係者は筆者に「最初、電気代よりビットコインが生み出す利益の方が多かったが、しばらくすると採掘競争が厳しくなり、電気代がかさんで赤字になった」と振り返りました。

 「GPUを使っていたのは3年ぐらい前までの話で、今では最先端の専用チップ、プリント基板、マシンを使わないと追いつかない。ブロックチェーンの世界ではいずれ人間の力は及ばなくなり、マシンが支配するようになる。その日はすぐそこまで来ている」

 上海在住の起業家ウェイ・ワング(33)はこう証言しました。

 「アメリカで暮らしていた5~6年前、中国の友人からマイニング・マシンを買ってほしいという依頼があった。しかし届くのに半年もかかった。注文が殺到して品物がなかったからだ。最初、価格は120ドルぐらいだったが、6000ドルを前払いしなければならなかった」と言います。

友人から頼まれて購入したマイニング・マシン(ワング提供)
友人から頼まれて購入したマイニング・マシン(ワング提供)

 「最近では巨大ダムの近くにマイニング・マシンを大量に積んだコンテナ車を横付けて、余った安い電気でビットコインを採掘している。知人のマイナーの話では1時間に5000~6000ドルの電気代がかかるそうだ。花畑を探して移動する養蜂業者のように、マイナーのコンテナ車は安い電気を求めて移動している」

 中国ではビットコインは違法ではありませんが、グレー・ゾーンの中で扱われています。

 完全に禁止するとブロックチェーン技術の開発に出遅れてしまい、かと言って野放しにするとビットコインを使った海外への資本逃避に拍車がかかりかねません。

 日本では今年4月の改正資金決済法施行で、取引業者を登録制にして利用者保護が強化されました。オーストラリアや中国でも同じように規制する動きが出ています。

 中国人民銀行は金融機関や決済機関がビットコインを扱うのを禁止しています。今年 1 月以降、中国人民銀行はビットコインを使ったマネーロンダリング(資金洗浄)や詐欺スキームを追放するため、ビットコイン交換所に立ち入り検査を実施しました。

 今後、ビットコインなど仮想通貨に対する規制は次第に整備されていくでしょう。

 匿名性を持つ仮想通貨 Monero(マネロ)コア・チームのリカルド・スパグニ=南アフリカ在住=にビットコインの今後についてスカイプを通じてインタビューしました。

Monero(マネロ)コア・チームのリカルド・スパグニ(本人提供)
Monero(マネロ)コア・チームのリカルド・スパグニ(本人提供)

 ――ビットコインの利用者が増え、処理能力が限界に近づきました。処理能力を上げる方法をめぐり開発者やマイナーが対立し、8月、中国のマイナーがビットコインキャッシュを立ち上げました。分裂をどうみますか

 「ビットコインの取引スピードを早める2つの方式をめぐる対立で、私は長続きするとは思っていません。分裂は一時的なものに終わるでしょう」

 ――ビットコインの技術は時代遅れになったのでしょうか

 「ある意味ではそうでしょう。いろいろなことが分かってきて、技術は進歩しているからです。もし技術をアップデートするかどうかを議論するなら、ブロックサイズを大きくするより、ブロックチェーンの中に保存する情報をできるだけ少なくするのが最善かつ可能な方法です」

 「しかしビットコインもマネロも他の仮想通貨も全く逆の方向に進んでいます。情報をできるだけ多く保存しようとしているからです。ブロックチェーンの中に必要最小限の情報を保存するのが一番良い方法です」

 ――ブロックサイズを大きくしたビットコインキャッシュ(8MB)より、ブロックの中の情報量を抑えるビットコイン(1MB)の解決策の方がベターだったのでしょうか

 「ブロックの中に保存する情報量を抑えるというビットコインの解決策の方が間違いなくベターだと思います。すべてのデータをチェーンに保存しておこうというのが伝統的な考え方です。時間の経過とともに研究者や開発者も学び、チェーンをできるだけ増やさないことを目指しています」

 ――ブロックチェーン技術は80%近くを中国のマイニングパワーに頼っています

 「これまでもマイナーの影響は過大評価されてきました。ビットコイン、仮想通貨でマイナーの役割はとても重要です。しかし最終的にはマイナーはルールに従わざる得ないのです」

 「ルールを守らなければ、彼らはシステムから蹴り出されるでしょう。これが今回のビットコイン分裂から学んだ一番大きな教訓です。マイナーがルールに従わなければネットワークには彼らを蹴り出す力があることを証明したわけです」

 ――ビットコインキャッシュが蹴り出されるということでしょうか

 「今回、ビットコインからビットコインキャッシュが分裂しました。オンライン交換所ビットベイやコインベース、そしてビットコイン・ワレットはビットコインキャッシュの分裂を支持していません。彼らはビットコインキャシュが存在しないかの如く無視しています」

ビットコインのエコシステム(筆者作成)
ビットコインのエコシステム(筆者作成)

 「新しいエコシステム(生態系)も分裂する必要があります。ビットコインキャッシュは新しいオンライン交換所やワレットを一晩にして生み出す必要があるのです。エコシステムをゼロから構築しなければならないのです」

 ――分裂は民主主義の結果なのでしょうか。それとも内戦なのでしょうか

 「内戦と表現した方が良いでしょう。ビットコイン・コミュニティーの中でクーデターが起きました。軍隊、すなわち一部のマイナーたちが反乱を起こしてコミュニティーを支配しようとしました」

 「それに対して人々は自分たちの意見を言ったのです。『ブロックサイズを大きくするより、情報量を抑えた方が良い』と」

 ――コミュニティーの中で誰が一番影響力を持っているのでしょう

 「ビットコインキャッシュをみているとマイナーはこれまで思われていたほど大きな影響力を持っていないことが分かりました。マイナーもルールに従わざるを得なかったわけです。これは大変、重要なポイントです」

 「参加者は力を持ちました。少なくともはっきりしたのは1つのグループがコミュニティーを支配することはできないということです」

 ――どうして一部のマイナーはビットコインキャッシュの分裂を支持したのでしょうか

 「おそらく初めは、マイナーは純粋にブロックサイズを大きくすることを望んでいました。しかし振り返ると、マイナーはビットコインをコントロールする力を持っていることを誇示したくなったのでしょう。理由はともかく、途中からは完全にビットコインを支配するという(政治的な)動きになっていきました」

 「ハッシュレート(採掘速度、マシンの計算力の測定単位)で比べると、ビットコインキャシュのそれはビットコインに比べると非常に限られています。実際、ビットコインキャシュを採掘しているマイナーの数は限られています」

 ――マイニング工場はどうして生まれるのでしょう

 「利益を得られるからです。複数の仮想通貨の採掘は利益を生み出します。会社、個人は利益になるから仮想通貨を採掘します。これは悪いことではなく、資本主義です。しかし永遠には続きません。やがて終わりが来ます。こうしたビジネスは儲からなくなれば、プレーヤーは去っていきます」

 ――誰かがビットコインの価格をつり上げているのではないでしょうか

 「たくさんのマニピュレーション(相場操縦)が行われているのは明白です。同じことは株式市場でもすべての世界で起きています。それを防いだり、避けたりする方法はないと思います」

 「こうした会社は利益になるから採掘を始めたわけで、長期的には利益が出なくなると、新たなチャンスを求めて別のことを始めるでしょう」

 ――あるマイニング会社はGPUを輸送するのにジャンボジェット(ボーイング747)を借り切ったというニュースが報じられました

 「もし家の前に流れる川に金が埋まっているとしたら、できるだけ採掘しようと思うでしょう。だから今、新しいマイナーがどんどん参加してきています」

 ――これは仮想空間のゴールドラッシュですか

 「私が関わっているマネロも採掘されています。多くの人々は、機会が限られていることを理解しています。いずれゴールドラッシュは終わります。時間は限られているのです」

 ――いつ終わりますか

 「今すぐではありません。しばらく続いたあと終わるでしょう」「そのあと、多くのマイニング会社は潰れるでしょう。大量のGPUがイーベイで安売りされることになるでしょう」

 「仮想通貨の淘汰が進み、おそらくビットコインは生き残るでしょう。マネロも生き残ることを願っています。大崩壊がやってきます。バブルは持続不可能です。これは暗号通貨、仮想通貨のドット・コム・バブルなのです」

 ――ブロックチェーン技術には中国マイナーの力が必要なのですか

 「マイナーは必ずしも中国である必要はありません。安い電気、安い部品、GPUが壊れたら直す人手が要ります。結局、中国のリソースが今、世界中で一番安いのです。だからそれを利用しているだけです」「ビットコイン分裂はうれしいニュースではありませんでしたが、ブロックチェーン技術が発展していく上で必要なプロセスだったと思います」

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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