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「ガンバ大阪を離れるなんて考えたことない」韓国代表FWファン・ウィジョ インタビュー後編

金明昱スポーツライター
アジア大会では9得点を決める活躍で韓国を金メダルに導いた(写真:ロイター/アフロ)

 今季、リーグ戦の真っ最中、ファン・ウィジョはガンバ大阪を一時、離れることになった。8月に開催されたジャカルタで開催されるアジア大会に出場するためだ。

 上位進出のためにも、貴重な得点源を手放すのはチームにとって、苦渋の決断だったに違いない。だが、ファン・ウィジョは韓国代表に不可欠な選手ということで、G大阪は彼をアジア大会に送った。

 オーバーエイジ枠にはファン・ウィジョ以外に、トッテナムのFWソン・フンミン、ロシアW杯で活躍したGKチョ・ヒョヌ(大邱FC)が選ばれ、U-23以下の選手の中にはFWファン・ヒチャン(ハンブルガーSV)や”韓国のメッシ”と呼ばれるイ・スンウ(ヴェローナ)も選出された。

 金メダル獲得に向けた本気度は、メンバー構成からしても明らか。表面的な目標こそ優勝だったが、金メダルを獲得することで”兵役免除”の恩恵を受けられるというもう一つの大きな目的もあった。

 ただ、Jリーグで絶好調のファン・ウィジョに向けられた韓国国民の目は懐疑的なものだった。「ほかの若手の海外組を呼ぶべきではないのか」――。

 さらには、アジア大会代表を率いるキム・ハクボム監督が、城南FCを指揮した時代に重宝したFWだからと、“コネ選出”したとの批判まで始まった……。そんな状況で、ファン・ウィジョはアジア大会を戦っていた。

※インタビュー前編:「遠藤保仁選手は視野が広く頼りになる」韓国代表FWファン・ウィジョ(ガンバ大阪)インタビュー前編

「U-21日本代表は自信にあふれていた」

――アジア大会の話を聞かせてください。金メダルを獲得して、自身も9得点でオーバーエイジ枠の選手としてもしっかりと役割を果たしましたね。

 大会を振り返ってみても、とても満足する結果を残せたと思います。試合が始まる前からの目標は金メダルでした。FWとしてゴールを決めて勝利に貢献することができましたし、大きな自信を得た大会でした。

――決勝戦で戦ったU-21日本代表ですが、誰か印象に残った選手はいましたか?

 今回、戦ったU-21日本代表は3バックを採用するチームでしたが、試合を重ねるごとに成長していたと思いました。実際、私たちよりも若い選手でしたが、チーム全体が自信にあふれていましたね。それにとても落ち着いてプレーしていることには驚きました。負けないという気迫もありましたし、本当にいいチームでした。

――Jリーグ期間、特にガンバ大阪としては残留争いの最中だったので、大事な得点源をアジア大会に送りたくなかたったと思います。当時、チームとはどのような話し合いをしたのでしょうか?

 チームは私にはとても良い機会ということで、快くアジア大会に送ってくれました。チームが苦しい時期に送りだすのはすごく難しい話になると思っていましたが、最後には「金メダル取って帰ってこい」と気持ちよく送り出してくれたんです。チームにはとても感謝しています。だからこそ結果を残さないといけないという気持ちになりましたし、実際に金メダルを取って帰ってきたら、クラブ関係者や選手たちも喜んでくれて、うれしかったですよ。

「アジア大会ではゴールを決めることで認められると信じてプレーした」と語るファン・ウィジョ(筆者撮影)
「アジア大会ではゴールを決めることで認められると信じてプレーした」と語るファン・ウィジョ(筆者撮影)

「批判はゴールで変わると信じた」

――アジア大会前、ファン選手をオーバーエイジ枠で選出したことで、韓国の世論がざわつきました。アジア大会で代表を指揮したキム・ハクボム監督が、城南FC監督時代にファン選手を使っていたことから、“コネ選出”との批判がありました。そうした批判は耳に入っていたのでしょうか?

 ええ。私ももちろんそのことは知っていました。ただ、できるだけ周囲の声を耳に入れず、そこに神経を使わないようにしました。試合に勝つことが大事なので、自分のコンディションを維持することだけに集中して試合に臨むように心がけました。とにかく目標の金メダルを取ることができれば、自分に対する批判も変わると信じていました。実際、ゴールをたくさん決めたことで、周囲の目は大きく変わったと思いますし、それが高く評価してもらえるならとても光栄なことです。

――日本でもたびたび報じられていたのが、韓国がアジア大会で優勝すると“兵役免除”を得られるという話です。韓国のプロサッカー選手、ひいては各競技の代表選手にとってはかなり大きな動機になると思います。

 仮に私が兵役免除の恩恵を受けていなければ、来年、私は軍隊に行くことになっていました。今回は運よくアジア大会に出場することができたということ。それに、優勝した延長線上でその恩恵を受けられたわけです。途中で敗退していれば、それは叶わなかったわけです。ただ、現在の良いコンディションを維持しながら、今後もプロサッカー選手として専念できる状態が続くことは、アスリートにとってとても大きなことだと思います。

(※五輪は銅メダル以内、アジア大会金メダルで約2年の兵役免除の恩恵を受けられる)

――アジア大会では、プレミアリーグのトットナムでプレーするソン・フンミン選手とも一緒にプレーしました。彼はどのような選手でしょうか?

 彼とは同い年で仲の良い友達ですが、すごい選手ですよ。みなさんご存知の通り、プレミアリーグでも活躍していますし、アジア大会では自分の欲を表に出すことなく、チームのために献身的にプレーしていました。守備も積極的にしていましたからね。相手の守備は必ず彼を警戒するので、私にスペースがたくさんできたおかげで、ゴールをたくさん決められたと思います。

――セリエBのヴェローナでプレーするイ・スンウ選手とは、アジア大会期間、同じ部屋だと聞きました。日本では“韓国のメッシ”と知られていますが。

 “韓国のメッシ”って誰がつけたんですかね(笑)。でも、韓国サッカー界でも期待されている存在であるのは間違いありません。一緒に生活しましたが、彼は韓国にはなかなかいないキャラクターです。明るく快活な性格ですし、そうした性格がプレーにも現れていると感じます。まだ20歳と若いですが、本番になってもガチガチに緊張をするようなタイプでもありませんし 物怖じしない。そういう意味ではいいプレーがたくさんあったと思いますね。それに試合前はしっかりと準備する選手で、サッカーに対する勉強や研究もたくさんしている選手です。

「FWの守備で安定感が生まれる」

――ファン・ウィジョ選手は2013年から2017年途中までKリーグの城南FCでプレーしましたが、JリーグとKリーグのサッカースタイルに違いはありますか?

 Jリーグは細かいパスプレーを重視し、Kリーグはスピードとフィジカル重視するスタイルが特長だと思います。ただ、そこまで大きな違いがあるのかというと、そうでもありません。どちらが優位だということではなく、スタイルの違いでしかありません。私が韓国でプレーしていた時の特長を生かしつつも、日本のサッカーにどれだけ合わせていけるのか。その能力は求められると思います。今はKリーグとJリーグで経験したものを生かして、もっといいプレーができるように努めているところです。

――ファン選手は前線から積極的にボールを取りに行く意識が高いと感じます。そのスタイルは韓国にいたときから変わらないのでしょうか?

 フォワード(FW)が前線からプレスをかけることで、中盤にも安定感が生まれると私は思うんです。ミッドフィルダー(MF)も守備をしっかりとすることで、最終ラインにも安定感が増すと思います。ゴールキーパー(GK)もそうです。守備はFWから始まるという意識は常に持っています。韓国でもそうでしたが、前線から積極的にボールを取りにいくことで、失点が少なくなる試合が多かったです。FWとしてゴールを決めることがもっとも大事ですが、守備意識を高めるのはとても大事なことだと思います。

「残りの試合でももっとゴールを量産してチームをJ1残留に導きたい」と熱く語ってくれた(写真提供・GAMBA OSAKA)
「残りの試合でももっとゴールを量産してチームをJ1残留に導きたい」と熱く語ってくれた(写真提供・GAMBA OSAKA)

――かつてJリーグで活躍したチェ・ヨンス(ジェフユナイテッド市原、京都パープルサンガ、ジュビロ磐田)やファン・ソンホン(セレッソ大阪、柏レイソル)など、「韓国の伝統FWが登場した!」と言われています。そのことについてはどう感じていますか?

 チェ・ヨンス氏、ファン・ソンホン氏は共に韓国を代表するストライカーでしたが、そのような選手と比較され、評価されるのはすごく光栄なことです。Jリーグでもたくさんゴールを決めてチームに貢献した選手と知っていますが、もっと努力してそうした偉大な先輩たちに一つでも近づけるように頑張りたいですね。

「ケインやベンゼマの動きを見る」

――同じFWで動きなどを参考にしている選手はいますか?

 海外の試合映像をたくさん見て、FWの動きを参考にしました。ゴールする瞬間の動きですね。ボールがないところでのポジショニングや動き出し方、タイミングなど、実際に試合中に試しながら、自分の感覚を研ぎ澄ませています。名前を挙げるなら、トッテナムのハリー・ケイン選手、レアル・マドリードのカリム・ベンゼマ選手の選手の動きはよく見ています。

――アジア大会での活躍もあり、9月の国際親善試合(コスタリカ、チリ)では約1年ぶりにA代表にも復帰しましたね。

 代表に久しぶりに声がかかったのはもちろんうれしかったです。それに、コンディションも良かったので、ある程度できる自信もありました。コスタリカに2-0で勝ち、チリに0-0で引き分けましたが、自分がゴールを決められなかったのは悔しい。また10月に親善試合がありますが、まだ呼ばれるのかは分かりませんが、とにかく今はJリーグで結果を残すことが大事だと思います。いいプレーを続けていれば、代表にはまた呼んでもらえるでしょう。

――韓国代表の新監督にパウロ・ベント監督が就任しました。2010年から2014年までポルトガル代表監督を務めた方ですが、9月の国際親善試合ではコスタリカ戦とチリ戦で指揮をとりました。何か感じることはありましたか?

 第一印象はとてもカリスマのある監督だということ。それに、韓国サッカーを未来に向けて成長させていく気持ちの熱い監督だと思いました。指導も一つ一つが細かくて、本気で取り組む姿勢が選手にも伝わっていると思います。4年後のワールドカップ(W杯)に向けて、計画的にチームを成長させてくれるとみんなが期待していると思います。

「チームを離れるなんて考えたことない」

――アジア大会やJリーグでの活躍が認められ、サポーターやファンの間では「いずれチームを去るのではないか」と心配している人も多いと聞きます。

 はは、どこも行きませんよ(笑)。チームを離れるなんて考えたことありません。とりあえず今はJ1に残留できるように頑張らなければいけない。J1に残れば、また次のシーズンに備えて準備できるわけですから。

――これからの目標について教えてください。

 個人的にはもっとゴールを決めたいですし、チームとしてはJ1残留のために全力を尽くしたい。残りの試合で勝ち点3を取ることだけを考えていきたい。ゴールをたくさん決め、残留争いに勝つことができれば、この上なく幸せなシーズンになると思います。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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