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チーム最多30本塁打を記録しながらCJ・クロンがレイズから見限られた裏事情

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
チーム最多の30本塁打を放ちながら40人枠から外されたCJ・クロン選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLBは現地20日に、MLBの公式戦に出場できる最低条件である40人枠の設定期限日を迎え、各チームは来シーズンに向け選手の入れ替えを行った。すでに本欄でも紹介しているように、ダイヤモンドバックスはその一環で、日系ブラジル人のボー・タカハシ投手を新たに40人枠に加えている。

 タカハシ投手の場合は夢のような大抜擢だが、その一方で悲劇ともいえる扱いを受けた選手がいる。MLB公式サイトが報じたところでは、レイズは新たな40人枠を設定するに当たり、4選手をDFA(40人枠から外す措置)にしたのだが、その中に昨シーズンのチーム最多本塁打を記録しているCJ・クロン選手が含まれていたのだ。

 改めて振り返ると、昨シーズンのクロン選手は今年2月にエンゼルスからトレードされ、シーズン開幕から一塁手兼指名打者として出場を続け、.253、30本塁打、74打点を記録し、本塁打と打点でチーム二冠王に輝いている。特に本塁打はチーム2位のウィルソン・ラモス選手でさえ14本塁打に留まっており、チーム唯一の大砲といえる存在だった。にもかかわらずレイズはクロン選手をDFAにしたのだ。

 地元紙が報じたところでは、DFAされたクロン選手はウェーバーにかかり、7日間以内にクレームがなければFA選手の資格を得る(少し横道に逸れるが、21日に巨人が獲得を発表したクリスチャン・ビヤヌエバ選手も同日にDFAされているので、彼も現在はウェーバー中でまだFA選手になっていないはずなのだが、この時点で正式発表してしまうのは契約上の部分で問題はなかったのだろうか…)。

 「昨年(2018年シーズン)CJが我々のためにしてくれた働きを考えれば、今回の決断は本当にタフだった。彼がチームに戻ってきてくれる道を完全に閉ざしているわけではない。だがこのチームは出場機会を与えるべき多くの選手がおり、現時点で彼を残すことは得策ではないと考えた。

 彼がしてきたことを簡単に埋められるとは思っていない。ただ我々は楽観的に捉えているし、選手みんなでそれをカバーしていきたい。それが自分の役目だと思っている」

 今回の決断に関し、チェイム・ブルームGMは以上のように説明している。ただレイズはクロン選手が同意さえすればマイナー契約を結び、チームに残留させることも可能なのだが、同GMの説明を聞く限り、チームは残留というオプションはほぼ考えていないようだ。日本のメディアではDFAのことを「戦力外」という表現を使うが、今回ばかりは戦力外に近い措置だったといえる。

 クロン選手がDFAされた理由は2つある。まず1つは若手有望選手のプロテクトだ。MLBには「ルール5ドラフト」という制度がある。毎年12月のウィンターミーティング中に実施されるプロ選手を対象としたドラフトで、18歳以下でプロ入りした選手は5年間、19歳以上なら4年間マイナーリーグに在籍し、一度も40人枠に入ったことがない若手有望選手を指名できるものだ。

 レイズはそうした有望選手たちの指名を回避するため、40人枠に入れる措置をとるしかなかった。今回レイズは前述通り、クロン選手を含め4選手をDFAにした代わりに、若手5選手を新たに40人枠に加えている。まさにダイヤモンドバックスのタカハシ投手も同様のケースだ。

 もう1つの理由がレイズの財政事情だ。2018年シーズン開幕時の年俸総額がMLB29位からも理解できるように、レイズはMLBの中でも指折りの低予算チームとして知られている。予算が潤沢なチームには年俸3000万ドル(約34億円)を超える選手が揃う中、レイズの最高年俸はデナード・スパン選手の1233万(約14億円)で、それ以外の選手はすべて1000万(約11億円)未満の選手ばかりだ。

 昨シーズンのクロン選手はチーム10位の230万ドル(約2億6000万円)に留まっていたのだが、彼は年俸調停の権利を得ており、シーズンの成績を考えればチームは大幅なアップを覚悟しなければならない状況だった。複数年契約に高額選手が多い一方で、単年契約選手の最高年俸が590万ドル(約6億7000万円)に抑えられており、さらにクロン選手がそこに加わるのは、限られた予算しかないレイズにとっては決して見過ごせないことなのだ。

 もしクロン選手が別のチームに所属していたのなら、まず彼がDFAにされることはなかっただろう。これも様々な規則が存在するMLBならではの悲劇とはいえる。ただクロン選手を必要としてくれるチームは間違いなく存在する。すぐにでも新しい所属先が見つかることだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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