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大谷翔平の二刀流は投打ともにMLBでもすでにトップクラスだった

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
データ上でも投打ともにMLBトップクラスであることが判明した大谷翔平選手(写真:ロイター/アフロ)

 書類選考で絞った7チームとの直接面談を終え、いよいよ大谷翔平選手のMLB移籍先決定が秒読み段階に入る中、MLB公式サイトでは、改めて大谷選手の二刀流について彼の投打のデータを入手し、MLB選手たちと比較検証を行っている。

 記事のタイトルは『2 for the Sho! Analytics : Ohtani arm, bat elite』(2つ揃ったショー! 解析学:オオタニは投、打ともにエリートだ)というもの。同サイトでコラムニストを務めるマイク・ペトリエロ氏が執筆したものだ。

 すでにMLBでは公式サイトを通じて球場に設置されたレーダー解析システム『Statcast』を使い、投手の球速や打者の打球速度が細かくデータ化されているが、ペトリエロ氏はNPBの多くの球場が設置している同様のシステム『Trackman』で計測された2017年シーズンの大谷選手のデータを入手したというのだ。

 NPB関係者から聞いた話ではTrackmanで計測されたデータは本拠地チームのみならず対戦チームにも配布されているらしいのだが、一般公開されているものではない。ペトリエロ氏がどういった経路で入手できたのは不明だが、今シーズン大谷選手が打席に立った231打席のうち90%に相当する打球速度データと、先発6試合の球速データを得ている(できればこうしたデータも日本のメディアが活用できるように、MLB同様にNPB公式サイトで公開して欲しいものだが…)。

 まず投球についてだが、いうまでもなくMLBでも160キロ以上の球速を投げる投手は数えるほどしか存在しないので、大谷選手がすでにトップクラスにあるのは理解できるだろう。だがTrackmanのデータはさらに細かく分析してくれている。

 今シーズンの大谷選手は先発6試合で250球の直球を投げ、最速は101.6マイル(今回はMLBからの比較検証なのですべてキロ表示は省く)で、平均球速は97.5マイルだった。これをMLB選手と比較すると、Statcastが採用されたこの3年間で球速102マイルを記録した投手は12人しか存在しない。ただ102マイル以上記録された投球のうち80%がアロルディス・チャプマン投手が記録したもので、先発投手に限ればネーサン・イバルディ投手とノア・シンダーガード投手の2人のみだ。

 また平均球速97.5マイルをとっても、2017年シーズンに50球以上直球を投げた全290人の先発投手と比較してみると、シンダーガード投手(99.0マイル)に次ぎルイス・セベリノ投手と同じMLB2位にランクすることが判明した。

 

 さらに大谷投手の直球のスピン数もデータ化されていて、2017年の平均は2301だった。これもMLBの直球の平均スピン数(2255)を上回っているが、MLB最高値は2590に達しており、決して突出しているわけではない。ただ平均スピン数でもセベリノ投手とまったく同じだった。奇しくもセベリノ投手は大谷投手と同じ23歳で、今シーズンはヤンキースで14勝6敗、防御率2.98と好成績を残した投手。つまりデータ上は大谷選手も現時点でセベリノ投手並みの活躍が期待できるということになる。

 次に打球についてだ。今シーズンの大谷選手は31のフライを放ち、その平均打球速度は96.6マイルで、最速は110.7マイルだった。ちなみに今シーズンのMLBでの飛球の平均打球速度は91.2マイル。25以上のフライを記録している全375人の打者の中でトップの13%に入っている。また大谷選手と似たような打球速度の打者としてフレディ・フリーマン選手、ヨエニス・セスペデス選手、ジョク・ペダーソン選手を挙げているが、いずれもMLBでも有名な長距離打者ばかりだ。

 さらにフライとは別にライナーでもデータ化され、大谷選手の平均打球速度は96.6マイル、最速は111.1マイルを計測している。これもMLBの平均(92.9マイル)を上回り、25以上のライナーを放った全386選手中、ジョーイ・ガロ選手、JD・マルティネス選手、アンソニー・リゾ選手に並びトップ9%に入っている。

 これだけのデータが裏づけるように、大谷選手の潜在能力は現時点ですでに投打ともにMLBでトップクラスに入っている。あとは彼が如何にMLBという舞台でその能力を最大限に引き出すことができるかにかかっている。滑りやすいMLBの公式球、NPBとは違う登板間隔、MLB投手の変化球の傾向や投球術など、適応しなければならない要素は少なくない。

 大谷選手が「未完成の状態で挑戦したかった」と話す通り、23歳での挑戦は、必ずや彼の潜在能力がMLBの舞台でも発揮されることに繋がるはずだ。MLBファンにも大谷選手しかできないレベルの高い二刀流を体感してもらい、その衝撃を共有してほしいと願って止まない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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